2002年3月下

●2002年3月31日(日)

クウクウは静かな日曜日でした。
外は大雨で、雷も鳴っていたらしい。
ドキュメンタリージャパンのらくだちゃんが、でき上がったビデオを持って来てくださった。
それを、夜帰ってから家族3人で見た。2回も。
とても良い番組になっていました。ありがたい気持ちでいっぱい。
スイセイも喜んでくれて、朝の8時までふたりで盛り上がってウィスキーなど飲んでしまった。

●2002年3月30日(土)

朝、早めに起きて玄米に鮭ふりかけ(塩鮭を酒で蒸してごま油を加え、炒りつけてほろほろに作り、冷蔵庫に入れておいたもの)と、にらとしいたけの味噌汁でごはん。
洗濯もした。シーツも洗った。
あまりにも天気が良いので、枕を窓際に寄せて「富士日記」を読んでいるうちに昼寝モードに。
顔に陽を当てて目をつぶると、まぶたの中が朱色だ。
海辺で昼寝をしているような、肌に当たるあったかい光。
そのままほんとうに寝てしまった。夢は、ちょっとばかしスケベなものだったので、ここには書きません。

さて、夕方からはメディアファクトリーで打ち合わせ。
すばらしい展開。私は、しゅーんと真面目な気持ちになりました。
終わってから、「太陽」で猛烈な勢いでごはんをかっこんだ。
家族の様に。
私とみどりちゃんと赤澤さんは3人姉妹。「やっぱり猫が好き」の。
みどりちゃんは「私はもたい」と言っていた。
そして、立花君は母親が再婚した相手の連れ子。だからなんとなくなじめない。
なっちゃんは、再婚してから生まれた歳の離れた妹。丹治さんはしっかりもののにいちゃん。
にいちゃんといっても、みどりちゃんと私にとっては弟なので長男ということになる。
あの、あこがれのこってりごぼうハンバーグが主なおかず。立花君は、「タレだけでもごはんが食べられる」とおかわりしていた。
春巻きもおいしかった。
ビールと焼酎も飲んだが、なんか酔えない自分でした。
なんか、あまりにも打ち合わせの展開が良くて、だろうか。
酔っぱらっている場合ではない、という気分。
ふんどしの紐をきゅっとしばり直さないと、と思いながら、ゆっくり、じみちに考えようと心に決めました。
私のやり方で。だから、また昼寝もしますもちろん。

●2002年3月29日(金)

鍼に行って来た。
2週間ぶりだろうか。
どこがというわけではないが、全身が重たい感じなので。
治療院に入ると、いつもため息が出る。入る前にはいつも忘れているのだけれど、中に一歩入ると思う。いつも。ここは、いい空気がこもっていて暖かい場所だなあ。
受け付けなどなくて、待合い室には三年番茶が保温ポットに入って湯のみと置いてある。
ピアノの曲が低く流れていて、先生の声や、補助の若い人たちの声がする。たまに患者さんの声も聞こえてくる。患者さんは、みんなねぼけたような声。
ここに座って待っているだけで、私の体は半分ほぐれる。
謝恩会や卒業式なんかで忙しかったでしょう?などと体をあちこち押さえながら先生が言って、私は「ええそうですね」と答えるだけなのに、先生には分かってしまうのだ。
体をさわって声の感じを聞いたら、どこが調子が悪いのか。
そして、悪いところのツボに鍼を打ってゆく。
今日は、初めて顔に打った。こめかみと目の間に。
そして首の付け根や頭をよくもんでくれた。ゆうべ頭が重くてなかなかうまく眠れなかった。
そんなことひと言も言わなかったのに、先生は治療してくれた。
帰ってから、ずどんと眠った。
仕事の電話はあいかわらず何度も鳴ったし、私ははきはきとそのたんびに電話に出たが、眠たがっている私の方が、仕事人としての高山なおみよりも強いので、何度でもすぐに眠れた。

夜10時くらいになって起き出し、軽い塩豚を厚めに切ってソテーに。
豚肩ロース500gに対して自然塩を大さじ1/2もみ込んだ塩豚だ。
このあいだの撮影の残りだから、今日で5日目のもの。
肉汁にバルサミコ酢と醤油のおきまりソース。マッシュポテトに自家製のマヨネーズを混ぜたらクウクウの味になった。クレソンをたっぷり添えて、味噌汁はしいたけと春菊。玄米。
3人でおいしく食べました。
「おとう、がんばったじゃん」とりうが言うので何かと思ったら、スイセイは今日はビデオ三昧だったらしい。3本目をりうといっしょに見終わって、映画の内容についてふたりで語り合っていた。「みい好みよのう、あれは」とも言っていたけれど、私は今映画って感じではない。映画は強すぎる。
ごはんが終わって、さくら餅と番茶。「あー、ほんとにうまい」と、スイセイはため息のように言っている。さくら餅がまだ口の中に入っているのだそうだ。
甘いものはひさしぶりなのだ。

●2002年3月28日(木)

すっかり朝帰りだ。それでも10時には帰って来て、顔も洗わずにとにかく寝た。
4時から最後までクウクウ。
誰もお客さんが来ないから、「きょうはだめかも。みんな花見で飲み疲れてんのかなあ」と言うと、サンは「いや、おれはそんなに暇じゃないと思う。ぜったい来ますよ」リーダーも、「7時か8時から来始めるから、油断しない方がいいですよ高山さん」と言う。
ほんとにその通りでした。7時過ぎからぼちぼちと入り始め、8時にはけっこういっぱいになった。
飲み疲れているのは自分だった。
「黄色い本」は、やはりすばらしかった。
ぎりぎりの言葉と絵。うれしくなる。
高野文子さんがまだ生きていると思うと、そういうことが、ほんとうにいちばんうれしい。

●2002年3月27日(水)

テレビの収録。
フジテレビのスタジオに行く時、私はいちどとして晴れやかな気分なことなどない。朝早いし。
ゆりかもめに乗ってレインボーブリッジを渡ったって、いつも心は暗い。
いやだなあ、行きたくないなあといつも思うのだ。
ウォークマンでオザケンをMAXで聞きながら、気分をむりやり盛り上げる感じ。
そして、スタジオに入ってフードさんの花ちゃんたちやスタイリストの目黒さんに会うと、元気になっている自分がいる。
リハーサルの頃には腹から声が出て、私をとりかこむ大勢に料理の手順を教えている。
鶏のねぎ塩焼きは、想像以上の出来でした。塩だけなのに深い味。
リハーサルの後、「先生、うまいよこれ!」と、いろんな人にほめられました。
郁恵ちゃんも「ほんとにおいしいねぇ先生」とほめてくれた。心からの顔をしてくださり。

3時前には終わり、原宅へ。
ほんとうに久し振りだけど、お母さんは覚えていてくれた。名前をではない。
私という人のことを。
いちばん元気だったのはお母さんかもしれない。歌もよく歌ったし、よく笑った。
マツナリと原君が上海台風の女の子のことを話していて、「知ってる?あの人のこと」とか言っていたら、それまで歌を歌っていたお母さんが、「ねえ、スエジって知ってる?」と若者のノリで会話に加わってきた。
スエジって誰だ。お母さんしか絶対に知らない人だ。もうとっくに死んでる人だろう。
原君も初めて聞いた人らしい。
その言い方が、「ねえねえ、スエジって奴いたよねえ」という感じ。完全に私たちの波長にはまっている言い方。
かというと、自分の母親のことを「お母さんどうしてるかしらねえ。元気かしら、もうずっと会ってないけどねえ」などと言う。とうの昔に死んでいるのに。
ビデオの「美しき天然」の歌のバックで、雲の下に海がひろがって写っている。
ぴかぴかと水面が光り輝き、山々はみずみずしく、これから朝が刻々とやってくる景色。
歌いながら、「ああゆう人がいることをね、忘れないようにっていう歌なのよこれは。
神っていうかね、人間のせいではないってね」などと、私に教えてくれもする。
「謙虚にならなけりゃねぇ」と私が答えると、「そうよぉ」とお母さん。
お母さんの脳は、いったいどうなっているのだろう。
何についてをボケというのだろうか。
おまるでじゃーっとおしっこをするのと同時に、前奏が始まる前から歌詞を分かって歌っている。
だけど、パンツの上げ方はわからない。
前に遊びに行った時には、健太郎君がちょうど来ていて、私はいろいろごちそうを作り、ごきげんに酔っ払ってきた頃、「お母さん、今日来てよかったよぉ私。すごく楽しい」と健太郎君がトイレに行っているスキに言ったら、「そうよ。女がうれしいと男の人もよくなるのよ」と、お商売のおかみさんみたいに言っていた。
お母さんは、84歳。私との差は40歳です。

●2002年3月26日(火)

ひじょうにシェフらしい日だった。
というのは、3時から入って仕込みをスタッフにまかせ、倉庫の食材や器などの整理。
そして営業が始まったら着替えてカウンターに座り、料理をオーダーし、味チェック。
かなり細かいところまでチェック。
と言っても、マスターとワインなど飲みながら、パクパクと食べ、つもる話をしながらだ。
ホールの子たちがやっている連絡ノートを見ながら、私は機嫌良く酔っ払った。
というのも、かわいらしいのだ。まじめで。
ホールの子たちが、仕事内容のいろいろな事を「新しいやり方はこうです」とか、「いや、こっちの方がもっといいと思いますがどうじゃろ?」とか、自分たちで良いアイディアを発明しながら、ノートにそれぞれ書き込んである。
中学校のクラブ日誌みたいな感じ。そして全員がまわし読みをしているらしく、サインをしてある。
シタ君は、裏の洗濯機の前で、水栽培で大きく育てた植物たちの植えかえをしていた。
ひっそりと背中を丸めて。寒いのに。
シタ君は好きなことをやっているだけと言うけれど、そういう緑色は、確実に誰かを良い気持ちにさせる。植木の鉢を持ってホールを歩いているシタ君。にやにやしながら。
厨房では、星丸君が炎を上げてカンカンと中華鍋をふるっている。
へんな店だ。

●2002年3月25日(月)

雑誌の撮影。
たったっと進んで、4時前には終わりました。
アシスタントのヒラリンは、完璧に私のやることを先まわりしていた。
私はせっかちなので、のっける器など用意せずに焼きのりをちぎり始めたり、にんにくをすりおろしたりしてしまい、ひとりでやる時は、のりのついた指でとか、にんにくの指のままで、冷蔵庫を開けたり、皿をつかんだりする。
しかし、ヒラリンはちょうど良いタイミングでさっと器を目の前に置いたり、しょうゆを出してくれたり。
何も言わなくてもだ。動きを読まれている。
すばらしい!ヒラリンが帰ってから、流しまわりがやけにピカピカになっている。いつ磨いたのだろう。
この間など、鍋をピカピカに磨いてくれた。
同じB型なのに、なんでこんなにも私と違うのだろう。
私はいろんな娘にアシスタントを頼むが、それぞれ皆違っていて、そしてそれぞれが皆良い。
しおりちゃんには、もう完全に甘えてしまって、なんでもかんでもやってもらう。
そして、しおりちゃんは注意してくれるのだ。
「高山さん、胡麻かけるんじゃなかったでしたっけ?」ありがたいことです。
そう、しおりちゃんの作る料理はすばらしい。
本で見ても、テレビでやっていたからでも、しおりちゃんの体をひとまわりして出てきた料理だから、味がなれ親しんている。素材はちょうどよく煮えていきいきしている。
盛り付けにも華がある。しかも大盛り。「食べな!」と、料理が言っている。
私は今年になって夢をみた。何か啓示じみた夢。
というか、はっきりとした言葉になっていた。
「匿名の人になったつもりで、これから料理を作りなさい」だって。
それは自由の匂いがする。はてしない。
しおりちゃんのように、何にもとらわれず、おいしいと思う料理を作りなさい。
本を出すための料理ではなく、スピード料理というテーマだからではなく、エスニックでなければいけないわけでもなく。
人が「おいしいねー」とにっこりしてくれる顔には、無垢が出てきてくれるのだから。

いま気になっていて、忘れずに明日買おうと思っている本。
高野文子のマンガ「黄色い本」と、アンアン増刊号「くうねる」。
「くうねる」にはみどりちゃんの高地の記事が載っている。
今日新聞を見たら、高橋みどりの「風が通る部屋」と大きく出ていた。
早く見たい。

●2002年3月24日(日)

メディアファクトリーの丹治さんが奥さんを連れてクウクウにいらした。
きれいな奥さんだった。透き通るような人だ。文学少女と文学青年のカップルだなとほんとうに思いました。勝手に。
今日はふたりでフラのワークショップの帰りなのだそう。ばななさんやクウクウのしおりちゃんも習っている同じ所の。
丹治さんがフラか・・・。拝見してみたい。
「塩豚とキャベツと押し麦のスープ」を、死ぬほどおいしいですと、丹治さんはおっしゃっていた。死ぬほどという褒め言葉をひさびさに聞いた。
それは、しおりちゃんのレシピ。
私も厨房で味見をしながら「うまい!」と、いつもうなってしまうスープだ。
「高山さん、いつもそう言ってますよね。それ味見するたびに」と、今日もユミちゃんにつっこまれたが、言わずにおれない味なのだ。
ほんとうに、死ぬほどうまいのだ。じんわりして。

●2002年3月23日(土)

夜、赤澤さんが打ち合わせに来た。
家庭教師のように私の隣に座って、私がメニュー案をひたすら紙に書いているのを見守っている。
というか、ずっとしゃべりかけてくるのだが。
私もそれになんだかんだと答えながら、楽しくどんどんアイディアが浮かんでくる。
しゃべっていると脳が活性化するものなのか。

夜中にスイセイと花見に。
魔法瓶に熱カンを詰め、試食用に作った豚ごはんでおにぎりを急いでにぎって。
とちゅうジャージ姿の娘が桜並木の通りを、ひとり歩いていた。
そしてふとふり返ると、通りの真ん中に出て、ふらふらした足取りで上を見ながら歩いている。
酔っ払っているのだろうか。
中央公園の桜は、真っ暗で近くに行かないと何が何だかわからない。
若者のグループの声が向こうの方から聞こえてくるが、他には誰もいない。
うんとしばらくして、犬を連れたおじさんが通った。
桜って、咲く時は、全部の花がいっぺんに咲く。どの木もどの木も。
ばかみたいで、えらいなあと思う。

●2002年3月22日(金)

ちょっとばかし二日酔いです。
ゆうべは宿題のメニューを考えながら寝たので、鶏肉に塩を多めにして、出てきた脂でねぎを炒めてのっけて、わさびとレモンか・・・などとずっと悶々としていた。
半分ねぼけたまま。
ねぼけていたわりにはまともなメニュー。
調味料がシンプルなだけに、カリカリに焼くか網で焦がして風味をつけるかなどと、細部まで考えていたようだ。酔っ払ったせいで脳がやわらかくなっていたのか?
最近、牛乳についても考えながら寝ている。
牛乳のエッセイを書かなければならないので。
半睡眠というかねぼけていると、私の脳はよく働くようだ。
誰かちがう人の脳の様になるというか、ちがう人の考えを察知しているような感じさえする。
油をぬったり卵黄をぬったりする用のクウクウのハケには、「料理バケ」と書いてあるが、時にそれを「料理ボケ」と読んでしまうことがある。自分のことだと思いながら。
編集の赤澤さんはすごい。熱があるから打ち合わせを別の日にという悲痛な電話がゆうべあったのに、今朝もう電話してきて歩いている様子。携帯なので声が歩いている。
会社に出勤なのだそうだ。そして、熱を下げる注射とユンケル飲んだから、「もうぜんぜんだいじょうぶなんですー」とおっしゃって、打ち合わせは今日か明日になった。
えらいなあ。

外は花曇り。
きのうは強い風のせいで、木の枝がぼこぼこ落ちていた。
枯れかけている弱い枝は、春の嵐で切り捨てられるのだそうだ。
新しく生まれる生命のために。「リトル・トリー」に書いてあった。

夕方から雨。たまには雨もいい。とても静かな雨だ。
雨の音を聞きながら昼寝。病気の人になったつもりで延々11時まで寝た。
それでも何度も電話が鳴る。ファックスだの打ち合わせだの新しく入った仕事だの。
ふつうの元気な人のふりをして、はきはきと電話を受けたりしていた。
とちゅう、菓子パンだの甘食だのふとんの中で食べて、また病気の人にもどる。
スイセイにお願いして、買い物に行ってもらう。雨なので最初はいやがっていたが、「スイセイの好きなものを何でも買って来ていいよ」とおだててたのむ。

夜中に鶏肉を試作した。
皮目を香ばしく焼くところを注意しながら。
玄米と菜の花のおひたしと卵入り味噌汁でおそい晩ごはん。
りうも夜中にびしょ濡れになって帰って来て、タッチの差でごはんをひとりで食べることに。
腹をこわしているというので、チンして温める枕を貸してやった。自慢の温泉枕だ。

●2002年3月21日(木)

昼間、強い風が吹いている。
何かを吹き飛ばしそうな風。ごうごうと。
その音を頭のまわりで聞きながら、カーテンを閉めた部屋でひたすら眠った。
夢をみては覚め、また眠る。

そして夕方からはクウクウ。
祝日なので大勢で働いた。いち時はクウクウのスタッフ全員が出ているかも?と思ったほど。
実際に、ひとりを除いて全員いた。11人もだ。
オフィスでぎようざを大急ぎで巻いていたら、お客さんはどんどん入ってくるし、スタッフはくるくると準備に忙しい。電話が何度も鳴る。
ドアからは生ぬるい春の風がビュービュー吹き込んでくる。
あー、もの狂おしい春の空気だ。花見をやってる人々は、こういう日はよけいに酔っ払いたくなるのではないだろうか。
新人さんにそのつど教えながら、トッピングや材料をひと皿づつ支度するのが私の今日の役目。
そして「プリプリ3卓でーす!」とかホール係に声をかける。大声で。
プリプリというのは、海老とれんこんのプリプリゆでぎょうざの略。
教えながら気がついたのだが、クウクウの厨房の仕事って、体じゅう全開で動いているな。
声も腹から出すし、誰かの言うことにすぐに反応できる様に耳も開いている。
そして、冷蔵庫をバタバタと開けたり閉めたり、ねぎが少なくなったらすぐに切ったり、あらかじめ、次の作業を考えながら動くから頭も全開だ。
使わないのは感情だけ。
いやな気分になったりイライラしたりしたら、そこで動きの流れが止まってしまうから、感情だけはニュートラルな状態。いつも安定したやわらかい状態だ。
ホール係も皆同じなのかもしれない。
中にはいやなお客さんもいるから、苦労も多いと思うが。
そしてスタッフの中で、ひとりでもいやな気分の人がいると、それって皆に伝わって、流れにほころびができる。
だからオーダーミスや、皿を割ってしまったりしても、クウクウでは誰も怒らない。
ミスしたら誰のこともせめずにすぐにやり直す。割れたら「失礼しました!」と、お客さんに聞こえる様に皆で叫ぶ。すると誰かがちりとりを持って来ていて、さっと片付ける。
内輪だけで楽しんでいたら仕方がないけれど、大きい店って、そういう連携プレイが楽しいのだ。時々テレパシーみたいに思うことすらある。

10時で上がって、ひとりでさわやかに飲みに行った。
「晩酌や」さんへ。ここは手芸家の下田直子さんの旦那さんがやっているお店。
カウンターだけだし、お客さんはご近所さんばかりなので、ひとりでも気楽。
アスパラガスのおひたしを作る時、旦那さんはゆで立てをうちわであおいで冷ましていた。
えらいなあ。私は氷水でいっきに冷やして色止めするが、ほんとうは少し水っぽくなるのだ。
塩鯖など食べながら、テレビのメニューのダメだし分を考える。
簡単調味料を使った料理だ。塩、味噌、醤油、酢、ソース、ケチャップのうちのどれかだけ。
胡椒もただの胡椒しか使えないそうだ。カリカリひく黒胡椒はだめ。
豚ばかり続くから豚はだめ。魚も他の先生がやってるからだめ。
ふーっと、ため息をつきながらビールを飲み干す。
なんとなく体育会系の一日だ。


日々ごはんへ  めにうへ