2002年5月中

●2002年5月20日(月)

テレビの打ち合わせ。
「先生、下の桜の実がすごいですねー」と来るなり言われる。
「杏の実です」と答え、笑いから始まる打ち合わせ。
テレビの人たちって、いつ会ってもほんとうに元気だ。
わりとさっさっと決まっていったが、このところ使ってはいけない調味料や、材料はできるだけ少なめにという雑誌の仕事ばかりやっていたので、頭が混乱してしまい、スープに卵を入れるかどうかで「卵入んない方がいいですよね。入れても入れなくても私はいいんですけど。」と私。
「うーん、先生がやりたいのはどっち?」と、ズバリ聞かれてしまった。
それでやっと気がついた次第。
全体的に、貧血っぽく頭がぼーっとしていた私。
皆が帰ってから大急ぎで玄米を炊いて、食欲みそ(味噌にしょうがやにんにく薬味などを混ぜたもの。減ってきたらどんどん味噌とみりんを加えて、そうめんの残りの薬味など、みょうがでも香菜でもなんでも加えてゆくというもの。こんどのクウクウのおすすめでもやります)と海苔で食べました。
晩ご飯の買い物に行きたくないなと思っていたら、「おれは大根おろしと玄米でええで。」とスイセイ。
家は、ない時には本当に何もない。冷凍庫も空になっている。
けっきょく、撮影の残りの野菜類を全部サラダにして、オイルサーディンを缶から出してフライパンで焼き、スイセイが大量の大根おろしを作った。それと麩と玉ねぎのみそ汁。
この間雑誌でやった、「買い物に行かなくてもできる晩ご飯の献立」というのを地でやってしまいました。台所で、とても料理とは言えないものをぼそぼそと作っていたら、「お腹へったー」とりうが起きてきた。そして3人で食べました。「素朴でおいしかった」とりう。「オイルサーディンがすごいうまかった」とスイセイ。

●2002年5月19日(日)

クウクウは忙しかった。お客さんが来始めると、私はエプロンの紐をキュッと絞め直して、途端に姿勢がしゃんとする。
そうすると早く動けるからなのだが、けっこう無理なことをしているのだ。これって、布団をかぶってぎりぎりまで楽屋で寝ていて、舞台のソデまで行くのにも誰かに支えられながら出て来るようなばあさん歌手が、舞台に立ったとたんにシャキッとして、みごとに歌い上げてしまう、というのに似ているのかも。
肉体のなごりというのは、けっこうしつこい。
というか、気持ちの言うことをなんでも聞いてしまう肉体って、けなげなものだなと思う。

●2002年5月18日(土)

じっくりと風呂のような眠りに浸かって、毒を出そうとしている夢。
夢というかまたまた半睡眠だ。ねぼけているのだ。
毒って?と思うけれどなんとなく私は知っている。
今日は一日中、ふとんの中で本でも読もうと思う。

●2002年5月17日(金)

明け方、ギイェー、ギイェーとけたたましい鳥の声がしたので、そっとカーテンのすき間からのぞいてみると、いました。ベランダのパンくずを食べていたんです、あの鳥が2羽も。尾が藤色で頭が黒いきれいな鳥。
虫眼鏡でのぞいたように大きく、はっきりと見えました。
尾だけでなく腹のところも藤色で、ぷりっとつやつやしていた。
安心してまた布団に入った。
撮影は4時くらいに終わりました。
スタート時点で、どうも頭がはっきりしないと思いながらやっていたら、そのうちに雨が降ってきた。そしてどしゃ降りに。
雨の前というのは、貧血っぽくなるらしい最近の私の体よ。
撮影が終わってクウクウに行き、しおりちゃんと新メニューのミーティング。しおりちゃんの若々しいアイデアに私がのっかって、最終的な盛りつけや仕込みのやり方を決めてゆく感じ。だからほとんどシオリズレシピなのです。
そう言えば、私はゆうべスープを飲む夢をみた。
どこかのパーティーのような場所の片隅で、「なんだろうねぇこのハーブみたいなのは」と、みどりちゃんや日置さんと言っている夢。
見た目は、少し赤みがかった黄色っぽいサラサラしたスープに、ディルの様な形のハーブがきざんで入っているだけなのだが、牛骨とか豚骨からじっくりとったスープで、くず野菜もたくさん入り、いろいろなスパイスの混ざっている微妙な味がして、ものすごくおいしかった。
トルコっぽい様な、もう少し洋風がかかっているような味。
その味を覚えているので、今年のクリスマスパーティーの時に作ろうと思う。なんとなく、田舎の花嫁のスープっていう感じの味。

●2002年5月16日(木)

明日の撮影の準備などしたら、もう今日はやることがない。
ふと思いついて、ベランダにパンくずを置いてみる。
すずめが1羽やって来て、気がついたら全部なくなっていた。
同じすずめだろうか。
夕方6時くらいにまた新しく置いてみたが、夜中に窓からのぞいてみたらまだそのまま置いてあった。
図書館に行って、本を10冊借りて来た。
晩ご飯は、焼き豆腐と白滝と牛肉の煮たのと、ほうれん草のおひたし、かつおのたたき(レモンしょうゆごま油)、ゆうべのひじき、麩のみそ汁。
夜中にケーキを2本焼いた。
きび砂糖のケーキだ。しょうがの粉を入れたら、なんか和風で素朴な味。
バター100g、きび砂糖100g、コーンスターチ100g,薄力粉50g卵3個。これがパウンド型の1本分です。
バターケーキはバターと砂糖を泡立て器でかき立てる時がいちばん好きだ。「まだ、まだ。もっと白っぽくなるまでやらなくてどうする!」と、自分にきびしくする時、頭がぼーっとなる。食べてくれる人のことを考えて、念じるような感じ。好きというか何というか、そこが山場で正念場。
ストイックな気持ちに追い込む感じだ。

●2002年5月15日(水)

ゆうべは帰ってからスイセイと調子にのってちょっと飲んでしまった。
6時くらいまで語り合った。
スイセイは私の葬式をするという夢を見たらしい。
弔辞を書かなくてはならなくて、文面を考えている夢。
「亀のように沈着に、亀のようなスピードで、やりたい仕事を築いてゆきました。高山なおみの生涯は、しあわせなものだったと思います。」亀のようにという所で、きっと皆はその通りと思ってぷっと吹き出すだろうな。
コマーシャルの仕事の依頼。化粧品の。
うーんどうしようと悩みながらも、やりたいかもとも思ったりしている。
晩ご飯は、ひじき、塩鮭、豚とピーマンの梅ナンプラー炒めと大根のみそ汁。玄米にはと麦を入れてみた。もちもちとして小さい蓮の実のよう。
私は気に入ったが、「ご飯というよりおかずみたい」とりうが言っていた。スイセイはまあまあみたいだった。
食べ物にはあまり変化を好まないところがそっくりな父と娘だ。

●2002年5月14日(火)

掃除機をかけて床を雑巾がけしていたら、みどりちゃんから電話。
今日は夕方から青山に豚を食べに行くのだ。フレンチの。
それで、「高山さん今日だよー、覚えてる?」と確認の電話。
「何してるの?」と私。「今さー、用事が終わって歩いてるとこ。暑い暑いと思いながら。」頭をかきながら、青山の街を大股でさっさっと歩いているみどりちやんが頭に浮かぶ。
キュウーイ、キュウーイと鳴く鳥が今日も向こうの木にとまっている。
頭の上が黒くて尾が藤色の鳥だ。何という鳥なのだろう。
行ってきました青山の豚料理。
うまかった。たらふく食べました。ワインもうまかった。
下田さんと土器さんとみどりちゃんと、大人の女ばっかでフレンチ。
「高山さん元気そうになった。肌がつやつや」などと、みどりちゃんに2回くらいほめられました。前はよっぽど疲れていたらしい。
そういえば、飲んでは必ず吐いていた時期があった。
やっぱり鍼の先生の言う通り内蔵が強くなってきてるのだろうか。
体の中で知らない間に何かが変わってきているって、変な気分だ。
そしてイギリスのパブみたいなとこでギネスを飲んだ。
吉祥寺に帰って来て、下田さんの行きつけの店で緑茶割りを1杯ひっかけクウクウに。妹たちに豚自慢をしに行ったっという感じ。

●2002年5月13日(月)

鍼に行ったら、おしゃべり老夫婦に待合室で会ってしまった。
声だけしか聞いていなかったので、顔を見たのは初めて。
いちどに5人ずつ治療しているので、ついたての向こうから声が聞こえてくるのだ。
たいがいの人は、私みたいに自分の体感に熱中しているらしく、先生とひとことみこと話を交わすくらいなのだが、このばあさんはよっぽど話し好きらしく、「セントポーリアの鉢はもう少し陽が当たる所においてあげた方がいいのよ。だけどね、直射日光はだめよ。ガラス越しくらいがちょうどいいの。」「庭にバナナを置いておくとね、鳥が来て皮だけきれいに残してね、食べてくれるの。でも夜まで置いておくとこんどはなめくじやらゴキブリが来るのよね。だから油断ならないのよ。」前回もバナナと鳥の話をしていたが。
だんなさんも負けてはいない。
「凝ってますか?」「さっき待合室に座っていた時にね、親指が動かなくなったんですよ。今は何ともないんですがね。」「歩いた方がいいんですかね」「私より凝っている人がいますか?」ポツリポツリとだが、先生が鍼を打っている間じゅう話しかけている。
この老夫婦は、お互いの声を遠くで聞きながら、何を感じているのだろう。仲が良いってことだろうか。
私の方は、「内蔵が強くなってきましたね」と先生に言われました。
化粧する時にくちびるの色が心なしか明るくなってきているような気がしていたが、気のせいではないのかもしれない。

●2002年5月12日(日)

そういえば5月5日は体育の日と日記に書いてしまった。
赤澤さんに指摘されました。さすが編集者だ。
どうやら私は太ってきたようだ。
今まで4日クウクウで肉体労働していたのが1日になったのだから、当然のことだろう。寝ながら本を読んで、おかしなど食べているのだから。
クウクウは静かな日曜日でした。
おかげで賄いの時に試作することができました。
例の、買い物に行かなくても家にあるもので作れる料理。
ツナ缶のカレー味春巻きだ。じゃが芋をつぶしてチーズも混ぜたら、すごいボリューム。高校生の男子が喜びそう。
そして、お古のラタトウユにトマトソースとハリサソースと水とブイヨンを入れて煮込んだシチューもおいしくできた。まるでクスクスにかけるシチューの様。クウクウではラタトウユのお古を賄いで使うことがよくある。味がワンパターンにならないように皆いろいろ工夫している。
カレーがいちばん多いのだが、あとはホワイトソースを加えたシチューか、タイカレーもなかなかイケる。れんこん、かぼちゃ、かぶ、なすなどがゴロゴロ入っているのです。そして、タイカレーには溶ける チーズとおかかと香菜のトッピングがイケます。ほんとうにびっくりのおいしさ。
これは、辞めてしまったホールの男の子が発明しました。
昨日の夢。
歯がぼろぼろ抜ける夢。
新しいことが始まるのを受け入れようと、古いものを脱ぎ捨て、心の準備をしているのだという夢判断をどこかで読んだことがあるが、そうなのだろうか。ためしにスイセイに言ってみたら、「俺の歯を見たからじゃろう。」確かに。スイセイがこの間抜いたオヤシラズを、昨日も部屋に入った時に見せられたのだ。
スイセイはその歯でハンコを作ろうとしているらしい。
もちろん自分でだ。

●2002年5月11日(土)

絵描きの真ちゃん宅で花見の会。
真ちゃんは庭でいろんな植物を育てている。ギボウシが主だが、最近は薔薇にも手を染めている。ジキタリスもスックと立って満開だった。
年にいちどのパーティーは、1時くらいから集まって庭で焼き鳥をする。
暗くなってきたら部屋に入って、ワインなど飲みながら洋子ちゃん(奥さん)の料理を食べてだらだらとくだらない話をして過ごす。
年にいちどしか会わない何人かの人たちと、この日にはここで会える。
実は名前も知らなかったりするのだが、知らなくても何のさしつかえもない。この人だなって分かるから。
年に1日だけいっしょにいて、また来年も1日だけいっしょにいるから、今日の次の日が来年のこの会。1年が1日なのだ。
一昨年にはひとりで来ていた男の人が、去年は女の人を連れて来て、「彼女か?」と聞いたら「いや、いや」と大げさに否定していたのに、今年も同じ人を連れて来て、「付き合ってる」と発表したりしてた。
真ちゃんとは20年来の友だちで、年に3回くらいしか会わないけれど、幼なじみのような兄妹のような、別に挨拶なんかしなくてもおかまいなしって感じ。込み入った話なんかしたことないのに、何が好きで何が嫌いかよく知っている。これからもすっとそうだろうな。


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