●2002年6月20日(木)
10時45分に起きた。
スイセイはどこかに行っているらしい。朝、戸を開けた所に座って、外を向いて爪を切っている音がしていたが。
しばらくこの島で暮らすこともできるのだなーと思う。
自炊もできるし、部屋には机もあるから、パワーブックがあれば文章をひたすら書いて、ごはんを食べて、汗をかいたらいつでもシャワーも浴びられる。
今、洗濯機のピーーが聞こえたので、洗濯物を干してきます。
入り口の戸を開け放して、枕を持ってきて寝ころぶと、雲がどんどん流れてゆくのが見える。どこまでも青い空に、真っ白な雲だ。
「波照間は風の島と呼ばれているさー」と、昨日良美ちゃんが言っていたのを思い出す。
顔を洗っておじいがいる所に行くと、畑から掘ってきたさつまいもを焼いてくれると言う。朝ごはんを食べてないから私は腹ぺこだ。
おじいは地面に新聞紙をしいて、土のついたままの芋の皮をむき始めた。
皮をむいたら端から切って、塩をまぶして味を薄くつけてから揚げる。
おじいが言う焼くというのは、多めの油で揚げることだった。
木陰の脇にある小さい台所(と言っても、流しがあるだけの小屋。火を使う時には畳の上に段ボールを敷いて、カセットコンロを出してくる)で。
お客さんが来たので油の番をしていたら、おじいが黒砂糖のかけらを2個くれた。
手の平にのっけて差し出す。何も言わずに。
芋は変色しそうなのに、おじいは切ってから洗わないですぐに揚げた。
パパイヤも切ってから水にさらさなくて良いのか聞いてみら、「薄く切る前に洗うのは良いけれど、なんでも、刺し身でもなんでも、大きいかたまりの時にきれいに洗ったら、あとは洗わん方がいいさー。味がぬけてしまうさー」と言う。
その通りだと思う。
おじいは漁師だが、若い頃には大型船のコックもやっていたから、料理がうまい。
「船の中で揚げものは危ないからやらないでしょー?」と聞くと、 「なんでもおいしいのを作ったよ。トンカツでも、ハンバークでも、サシミでもやったさー。」「だから、おいしいから、みんな、太ってしまうさー。」
おじいから教わったことのもうひとつ。
油で焼く(揚げる)というのは、いちばん早い調理方法なのだ。
火をできるだけ長く使わずに料理できる。
それは暑さのせいもあるが、燃料の節約ということもあると思う。
湯を沸かすよりも油を熱くする方が早いし、熱の入り方もぜんぜん早いから。
表面をいっ気に熱で固めるから、おいしさも逃げない。
おじいは今日も木陰で網を直している。
「フエリが入ってるさ。」 フエリとおじいは言う。フェリーが港に着いたという意味らしい。
今日は荷物を運んでいるから、車がよく通るのだそうだ。
と言っても、5分に1台くらいしか通らないのだが。
3時からパナヌファが休憩時間なので、今日もまた浜に連れて行ってくれる。
今日のは、良美ちゃんがみつけて道を切り開いたプライベートビーチだ。
道路に車を止めて崖をつたって降り、森(ここを良美ちゃんが切り開いて道を作った)の中をくぐりぬけると、大きな岩に囲まれたこじんまりした浜があるのだ。
「良美浜」と私が名前をつけました。
麦わら帽子をかぶって岩の上に立つと、帽子を通して海鳴りがして音楽の様に聞こえる。ボーーーエ、ブォーーーエ、ブーーーーエ。
沖縄音階のように、ゆらゆらした音。
陽が沈むまで4人はビーチで語り合う。チャロ(犬)もいっしょ。
飲んでいるわけではないのに、話がぽんぽん飛んで深くなり、さっき何を話していたからこの話になったのか忘れてしまう感じ。
濡れた服、砂だらけの足のまま車に乗って、夕暮れのサトウキビ畑の道をゆっくり走り、良美ちゃん宅へ。
今日、パナヌファは夜の営業を休みにしてしまった。
離れの風呂場でシャワーを浴び、良美ちゃんのムームーのような寝巻きを借りて飲み始め、ビーチでの続きをまた語り合う。
トイレに行きたくなったら、道に出て畑の陰でする。
ビーチにいる時には、海に入って行ってする。
波照間に来たその日から、良美ちゃんに教わってそうしている。 |