2003年1月下

●2003年1月31日(金)快晴、夕方からすごく寒い

4時くらいから、スイセイと布団の中で本を読んでいたら、ねそべった所からちょうど見える空が、あまりにきれいで読むのをやめた。鳥もチーチー鳴いている。
薄青い空にひきちぎったような、まとまったかき卵汁のような雲だ。印象派の絵みたい。
「指にからめたら、ほつれそうな雲じゃの。」と、スイセイも興味を示していたが、それも一瞬のことで、さっさと寝てしまった。
かき卵の黄色い雲は、しだいにもったり重くなり、じわじわと橙色を帯びていって、あっという間にすばらしい夕焼けに。思い余って窓を開け放ち、電気ストーブをつけて、首まですっぽり布団をかぶってずっと眺めていました。
それで思い出したのだが、真冬にぬくぬくと布団をかぶって顔だけが冷たく、良い景色が見えるというのが、私はとびぬけて好きな状況なんだと気がついた。たとえば、山の上や森の中へ、家のこのあったかい布団状態のまま移動できたら、これ以上の幸福はないだろう・・などといろいろ想像しているうちに寝てしまったが。
夜ごはんは、塩だらとおいしそうなじゃが芋(長崎産の新ジャガだそうだ)を買っておいたので、どうしても作りたかった、たらとじゃが芋の天火焼きスペイン風。そしてしばらく玄米を食べてなかったので、昨日からぜひ食べたかった玄米と納豆、三つ葉とねぎの味噌汁。天火焼きに合わせてレタスと絹さやのサラダも作ったが、なんという献立だろう。スイセイは、まるで肉じゃがをごはんにのっけるようにして食べていたが、さすがに変だと思ったらしく、「ほいじゃが変わっとるの、シチューでもないしの。」などとぶつぶつ言っていた。
ゆうべから図書館で借りた本をたてつづけに3冊読んだが、小説、エッセイ、アフリカの探検記、すべて不作だった。中くらいのおもしろさなので、とちゅうでやめずに読んでしまったが。まったく違うジャンルの本だったけど、このなまぬるさには共通点があるような気がした。なんだろう、言葉の選び方が甘いのだろうか。それとも、思いが甘いのだろうか。もしかして、一部の読者にだけ分かってもらえればいいやという気持ちが伝わってくるからだろうか。分からない・・・

●2003年1月30日(木)快晴だがすごく寒い

朝方、誰かの赤ん坊が生れる夢を2パターンみたので、もしやばななさん?と思い、うーんうーんと布団の中で力んでみた。応援しているつもりになって。
3時から小さい撮影。5時前には終わり、ぼよーんとして過ごす。
スイセイと味噌ぞうすい梅干し入りを食べ、図書館へ。
規則的で静かなイビキが聞こえてくるのでそっちを見ると、本を開いたまま上を向いて、ぽっかり口を開けたおじさんが座っている。心やすらぐしあわせな景色だ。係の人も、分かってはいるけれど、夕方であんまり人もいないから、放っておいてくれているらしい。
また例によって、充分うろうろしてから料理コーナーにまわり、10冊抱えてカウンターに行こうとしたら、なんとなく見覚えのある人が机のところにいる。眼鏡をかけて髪をひっつめ、地味な服装の川原さんでした。
撮影後なのでちょっとくたびれ髪もほつれ、どうでもいい格好をした私と、仕事を図書館に持ち込んで、自分の机みたいに作業に没頭しているスッピンの川原さんは、なんとなくお互いに照れ臭い感じだったけれど、やけに懐かしく、なんだか嬉しくて涙がにじんだ。
夜ごはんは、今日もりうがいないので、とろろ蕎麦にした。小松菜とのりのおひたし、めかぶ、以上。

●2003年1月29日(水)風は冷たいが快晴

風がびゅんびゅんと冷たいけれど、だからなのだろうか、くっきりと青い空に白い雲だ。
今日は地球が奇麗なのかも。
布団を干して、たまっていた洗濯、そして台所の掃除。
明日の撮影のための仕込みをやらなければならないので、そういう時は、ぼんやりした台所をピカピカに磨いておくと、私はやる気になるのだ。今日は試作もいろいろやるつもりだし、家族のごはんもちゃんとおいしく作ってやろう。
そしておどろいたことに、4時を過ぎてもまだ空が青かった。ちょっと色が薄くなってはいるが、5時を過ぎてやっと薄暗い。いつのまにこんなに陽が長くなったのだろう。
スイセイが風呂から出てきたので、布団をしいて、お灸をすえてやって、カーテンを閉めて寝かしてやる。きょう私は、余裕のあるやさしい女になっている。
夜ごはんは、水だこの刺し身、小松菜としいたけ入り肉豆腐(NHKのきょうの料理で、ねこちゃんが作っていたのがすごくおいしそうだったので)、カリフラワーのナムル、そして鷄肉を丸のまま炊飯器に入れて炊く、ちょっとエスニックな鷄ごはん、卵と麩の味噌汁。夜は早めに布団に入って、チーズ味のカールを食べながら、昔の料理本を読みこむ。

●2003年1月28日(火)晴れ

お腹も空かないので、すっと寝ていた。
スイセイは早起きしてパソコンで朝から何かやっている。
このところ続けていろんな人に会って、楽しく濃い時間を過ごしていたので、さすがに今日は誰にも会いたくない。そういう日でも、会ってもなんともない人は、スイセイとりう。それが家族ってもんかもしれないが、これって案外だいじかも。そういう人が、家の中をどうでもよくうろうろしていることって、すごく自分の助けになっているなと思う。世界に穴があくというか、のびるというか。
スイセイは二日酔いのハイテンションらしく、あんまり腹も減らないみたい。私は私でダウナーで腹が減らないのでちょうどいい。
ばななさんの「ハゴロモ」を布団の中で読む。とちゅう、どうしてももやしと卵入りのサッポロ一番が食べたくなり、台所をごそごそするが、インスタントっぽいものが永谷園のお茶漬けしかなかったので、お湯をわかしてスープみたいにして飲んだ。
そしてまた続きを読み、さっき読み終わりました。いい話だったなー。冬の寒い季節に読むのにぴったしだ。何度か泣いたけれど、さわやかな涙でした。
そして装丁もすばらしい。本の中の温度を形にしたらそうなったような、さりげなくもちょうど頃合いな感じ。中の燕脂色の紙も、透けている紙も字体も、気持ちがいい。
りうが今夜は打ち上げで遅くなるので、老夫婦の晩ご飯は、鍋焼きうどん(私)ラーメン(スイセイ)、冷や奴、大根にんじんきゅうりのサラダをふたりでぼそぼそと食べた。
仕事の電話が2本入ったが、とりあえず今日は思いっきりゆっくりして、洗い物もせず、風呂にも入らず顔も洗わずに、だらしなく過ごすつもりだ。

●2003年1月27日(月)冷たい雨

ふつか酔い。
夕方からクウクウの子たちが遊びに来るので、掃除もしたいしおでんも作りたいのだが、起きられない。
2時まで寝てどうにか起き上がり、おでんを仕込んで風呂にゆっくり浸かった。
ひさびさに皆に会うと、やっぱり嬉しい。兄弟姉妹というか、クラス会というか。しおりちゃんがどんどん妊婦らしくなってゆくのが、なんだか誇り高く清い感じだった。
スイセイはどんどん声が大きくなっていって、泣きながらばかな話をしていた。自分で自分の話に笑いすぎて、涙が出ちゃっているのだ。それを見て、私たちも笑っちゃう感じ。
1時にはお開きになったが、興奮冷めやらずビールを飲み続けるスイセイと、それにつき合う私だった。

●2003年1月26日(日)晴れ

りうの卒制を見に武蔵美へ。
天気も素晴らしく、りうの映像もすんばらしい! スイセイは興奮ぎみで、完全に親バカ状態になっていた。私までなんでか親のような気持ちになり、卒業式というか参観日というか、妙にわくわくしてしまった。
帰りに3人で待ちあわせ、「のらぼう」へ。
例によって、またべろんべろんの可愛らしいスイセイを、タクシーに乗っけて帰って来ました。

●2003年1月25日(土)晴れ、そんなには寒くない

ゆうべはけっきょく西荻で飲んでしまった。表紙がすごく良いのができて嬉しかったので、丹治君と立花君にはさまれて、気分よく酔っぱらった。
丹治君はタクシーに乗って、4時くらいにまた会社へと帰って行った。けっこう飲んでいるのに、ほんとに編集者さんてたいへんだ。尊敬の念をこめてほんとにそう思う。
立花君とてろてろ商店街を歩き、別れてからひとりで歩いていたら、かなり酔っぱらっている自分に気がついた。そして私って、酔っぱらうと木に話しかけるということもゆうべ気がついた。酔うと、木々がもりもりと活き活きして見えてくるのだ。いつも。そしてつい声をかけたくなる。ご機嫌になると、誰彼かまわず声をかけたくなるっていうのに似ているかも。
今日はクラムボンのライブへ。
すごく良かった。「ハナレグミ」とはまた全然ちがって、泣く感じではないけれど、どんどんたのしーくなってゆく感じだった。元気で、明るくて、かっこいい。音楽ってやっぱすごいものだな。言葉を越えてる。体に直接くるぜっ! せっかく渋谷に来たんだから「太陽」だろって感じで、いっしょに行ったちいちゃんとバスに乗っていたら、立花君が乗ってきた。
なんとなく立花君も私も、ゆうべと同じような格好をしていて変に親近感があり、親戚?っていう気分。
帰ってからりうに報告したら、「えーまた会ったのー?」とつっこまれたが、会いたい人に偶然会えるってのは、すごくいいものなのよ。たしかにちょっと会いすぎだが。

●2003年1月24日(金)晴れのち曇り、すごく寒い

ひさびさに晴れたので洗濯した。
マーマレードは、パンにつけても超おいしかった。夏みかんなのにオレンジの味がする。
午後から、クリーニング屋、銀行、クウクウ、本屋、美容院とはしごして、用事をどんどん片づけていった。
帰りに紀伊国屋とおいしい魚屋さんに寄って買い物。なんと、ほたるいかがもう出ていました。いつものおにいさんが「はしりですよ。生を入れて家でゆでたから、おいしいよー。」とにこにこなので、誘われて買ってみた。
さっき食べてみたら、ほんとうにすごくおいしい。身はまだ小さいが、ぷりぷりして、中のワタがたっぷりだ。「カニ味噌みたい」とりうが言っていた。
夜ごはんは、ほたるいか、マスのバター焼きクレソンとトマト添え、小松菜と油揚げの煮浸し、あさりの潮汁、玄米。
小松菜は、ここのところすごく高くてまいっていたが、今日はやっと250円と普通の値段になっていた。冬の小松菜は、根っこに近い茎の部分がムリムリして、ゆでるとちょっとぬるりとしておいしい。
今夜はこれから、表紙の色校が上がったのを丹治君が持って来てくれるので、見に行ってきます。ちょっと飲んじゃおうかな。寒いから日本酒でも・・・

●2003年1月23日(木)雪のち雨

ゆうべは夜中に「ビルマの竪琴」のビデオをみた。
家の死んだとうちゃんがゴールデン洋画劇場を録画したやつ。10年以上前のものだろう。コマーシャルとか声とかが古くさくておもしろかった。黒縁のロイドメガネが流行っていた頃らしい。高島忠男も髪がつやつやで、やけに若々しいのを見ると、ひょっとして20年前くらいのビデオかも。中井貴一も若々しく、純粋そうで顔がひきしまっていた。
朝起きて、雨かと思ってカーテンを開けたら雪ではないですか。
今日は街に出掛けようと思って心の準備をしていたが、やっぱりやめにした。
ハムとゆで卵とレタスのサンドイッチを作った。撮影で使った味噌マヨネーズが残っていたので、ゆで卵にディルといっしょに混ぜてみた。ところで味噌マヨネーズって、黒こしょうをたっぷりひきたくなると前々から思っていたが、なんでか分かりました。味噌とマヨネーズって、田舎くさいぼよーんとした味なのだ。糠みそくさいというかなんというか。
おいしいサンドイッチをほおばりながら、書類の整理や、確定申告のためのレシートの仕分けなどしていたら、猛烈に眠気が襲ってくる。倒れ込むようにして昼寝だ。
テレビのワイドショーの音がずっと聞こえていた(画面も見えている)ので、テレビがついているのかと思い、うーっと頑張って眠りの縁から意識を起き上がらせてみたが、テレビはついていなかった。こういう時って、もしかしたら何処かの家で見ている番組の電波をキャッチしているんだろうか。恐るべき脳よ、などと能天気に思いながらまたすぐに眠りの中へ。

●2003年1月22日(水)曇り、すごく寒い

今ごろは大根がいちばんおいしい時期。
今日はちくわと大根と干ししいたけを煮ようと思い、干ししいたけを今もどしているところ。そういえば、おとといの撮影の時、にんじんを切った端っこを食べたら、甘くておいしくて、たまげました。
けっきょく夏みかんの漬け込み酒は、きのう夜中に漬けた。布団に入ってからすぐに眠れないと、何かを作りたくなる時がよくある。おとといの晩は、とつぜんドーナツを作りたくなった。ヒラリンが子供の頃に作ったドーナツの話を、昼間聞いていたからだ。料理の本を読んだりして、どうにか思いとどまったが・・・まあ、暇なのだな私は。
今日は目覚めてからも、布団の中でずっと本を読んでいた。柳田国男の「遠野物語」だ。すごくおもしろい。遠い話のようでいて、夢に出てくるように身近な話。ちょっと深沢七郎を思い出した。

●2003年1月21日(火)晴れ、寒いけれど夕焼けがすばらしい

昨日は大寒。暦の上では1年でいちばん寒い日だったそうだ。しかし、今日の方がぐっと冷え込んでいる。風が冷たい。
夕方ふと外を見ると、下の方1センチだけ橙色で、紺青の空が天までひろがっていた。行ったことないけど、アメリカの南部の方にある荒野の空みたい。何の具合でこんなふうになるのだろう。昨夜雨が降ったから空気が澄んでいるんだろうか。
フィッシュマンズをかけながら、マーマレードを煮ています。昨夜から皮だけ水煮しておいたのを、砂糖とはちみつを加えてことこと煮込んでいるところ。マーマレードをパンにつけるのはあまり好きではないが、しょうがをおろして加えたホットドリンクや、炭酸で割ってもおいしいし、いちばん好きなのはマーマレードケーキだ。ウーロン茶に混ぜるのもけっこうおいしい。
今の季節、庭に夏みかんがなっていたら、ぜひ作ったらいいと思う。
私のレシピは適当だが、皮と身を合わせた量と、砂糖と水あめを合わせた量がほとんど同量かちょっと少なめ。皮と身の割合は3対1くらい。と、覚えておけばだいじょうぶ。
まず、皮をできるだけ薄く切り、たっぷりの水を加えて煮る(沸騰したら火を弱めてしばらく煮る)。水を交換しながら同じ要領で3回煮る。煮るというか、茹でる。こうして皮をやわらかく、苦味や渋味を取るのです。最後に水をかえたらそのまま1晩置きます。
翌日、ざるに上げて鍋に移し入れ、砂糖と水あめを加えてひたすら煮る。最初だけ強火で、ぐつぐつしてきたらごく弱火。最初はさらさらしていたのが煮詰まって、どろどろしてきて、煮汁を少し残しているくらいで火を止める。私は、平気で2〜3時間煮ています。2日かかるけれど、やってみると簡単だし、鍋で何かが煮えていると、他のことをやる気が出てくる。
今日は、ケーキも焼いた。この間煮ておいた小豆が半端に残っていたので、バターケーキに焼きこんだ。きび砂糖とカルーア入りだ。しかし、パウンド型にバターをていねいに塗らなかったため、型からはずす時に底にくっついてしまった。くーっ、こういうことって私はよくあるのです。大急ぎで底の部分をはりつけ、ホイルでくるんでおいたが。
明日は、残った夏みかんの残りを焼酎に漬けようと思う。
夜ごはんは、豚ロース厚切りを生姜焼き風に焼いて、漬け汁にマーマレードを混ぜて煮詰めソースにした。スイセイは大気に入りの様子。付け合わせは、カリフラワーとじゃが芋のマッシュ、貝割れ、スプラウト、クレソン、レタスのサラダ、にんじん塩もみ。三つ葉とわかめの味噌汁と玄米。

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