2003年2月上

●2003年2月10日(月)曇りのち雨

テレビのメニューを考えたり、連載の原稿を書いたりして、仕事チックに過ごす。
スイセイは、私の新刊についてのホームページを作ってくれている。朝からずっとやっていて、夜ごはんもあんまりのどに通らない様子。スイセイの言葉は力強く、すごく良いんです。けれど、体ごとでひねり出すようにしているらしく、「なんかの、体がえぐられるみたいになっとるんよ。」と、さっき訴えていた。
夜ごはんは、鷄の水炊き用をスープでくたくたに煮て、オイスターソースで味をととのえ、仕上げに小松菜を加えた中華風。れんこんとひき肉のはさみ揚げ(具が残ったので、しいたけの笠にも詰めて揚げた)、新じゃが芋の味噌汁、白菜漬け、玄米。
「肉料理の中でこれがいちばん好きかも。」と、鷄の煮込みをりうが気に入って、ほめてくれた。

●2003年2月9日(日)快晴

かなりの二日酔い。
背中をしっかり布団につけ、両腕ものばしてぴったりと布団にくっつけ、ひたすら眠る。午後にいちど起きてスイセイのオープンしたホームページを眺め、また布団にもどって寝てしまう私。下の奥さんが「ピアノレッスン」を練習しているのがずっと聞こえていた。
もう11時くらいだろうか、ごはんを作らなくてはと起きてみると、案外早くてまだ8時でした。
夜ごはんは、さんまの干物、大根おろし、冷やしトマト、ほうれん草のバター炒め、しいたけとねぎの味噌汁、玄米。
そういえば、「今日は2月9日だから、ふくうの日ですね。」と、ホシ丸君からメールがきていた。

●2003年2月8日(土)曇り、夜になって雨

夕方、いつもの八百屋さんへ。新じゃがって3月からだと思っていたが、2月から出始めることを、初めて知りました。長崎産をよく見かけます。
例によって山ほど野菜を買い込み、帰りにちょっとヤノ君の家に寄ってみた。
今日、ヤノ家はパーティーなのです。ちょっとビールを飲んで、女の子たちに料理をちょこっと教えたりしながら3品くらい作り、さあ帰ろうと思っていたのに、ゲストが順番にDJごっこみたいなのもやり始め、どんどん酔っぱらって、私はたのしーくなってしまったのだ。とちゅうからスイセイも呼んだのがいけなかった。けっきょく、朝帰りになってしまいました。計算すると、12時間ヤノ家にいたことになる。
歩いて帰って来る時、家々の屋根の上からとつぜん太陽がぽーんと出てきた。でっかく明るい太陽だ。黄色い真ん丸なんだけど、青っぽいぐるぐるした光が縁で渦巻いていて、ずっと見ていると目がまわりそうになるし、あまりにも明るくて周りの景色が見えなくなるほど強い光だ。感動。「太陽」は、やっぱしすごいもんだ!

●2003年2月7日(金)快晴、春のように暖かく、夜もまだ暖かい

朝からばりばり活動的。
まず、スポーツセンターのジムを通って市役所へ。スイセイはジムの先輩なので、あれは足の筋肉を鍛える機械、あの歩くのは自分でスピードを変えられる、などとひととおり説明してくれる。歩く機械をやりながらウォークマンをしている人もいて、なんとなく興味をひかれる私。こんどスイセイが行く時にくっついて行ってみようかな。
市役所の用事がすんで、8階にある見渡しのいい陽がいっぱいに当たる食堂で、コーヒーフロート(私)、クリームソーダ(スイセイ)、スパゲティー・ナポリタンをふたりで取り合いながら食べる。
農家で野菜をいろいろ買って家に帰ると、クウクウのヤノ君が遊びに来ていた。りうと話している様子はなんだか家族のよう。お腹を空かしたヤノ君にうどんを作ってやり、ちょっとお喋りして、私はそのまま渋谷へ。映画の試写会です。
試写会は、おもしろくもつまらなくもなかった。そのわりにはすごく泣いたけど。
そして、今日のメインイベントは・・「アカルイミライ」でした。
浅野忠信もオダギリジョーも、とくに藤竜也がすんごい良かった。あー、良い映画だったなー。暗くて重くて爽やかで。エンディングのロールっていうんですか、キャストの名前が出てくるところ。あそこらへんもさりげなくぐっときた。
見終わってからトイレに入って、ちょっとよごれた所を思わず紙で拭いちゃったりした。誰か知らない人が気分良かったり、喜んでくれるようなことを何でもいいからしたいーっ、ていう気持ちになる映画だったんです。私はもういっかい見たいっす。
衣装もかっこいいなと思っていたら、北村道子さんでした。
映画2本分しっかり泣いたので、私の目はけっこうな腫れ方だったが、帰りに「晩酌や」さんに寄って焼酎を1杯だけクイッと飲み、気分よく帰って来ました。
胸には「アカルイミライ」の余韻がしっかり溜まっていて、すぐにでもシーンを思い出せ、そのたびに泣きそうになる。

●2003年2月6日(木)快晴、春のように暖かい

チイチイチイと聞き覚えのない鳴き声がしたので、双眼鏡を手に、大急ぎで覗いてみたら、すぐ目の前の木にとまっていました。めじろ!です。
黄緑色の、雀よりも小さいすべすべした鳥。図鑑で見て、可愛いなー見たいなーとずっと思っていたのです。1羽だけでぽつんと楽しそうにしていて、いい子だった。なにしろ顔が可愛いんです。そしてどこからか、なんとなしに花の匂いもする。
午後からは本澤さんと打ちあわせ。陽の当たる中、メニューはさくさくと決まっていった。久々に本澤さんにお会いしたが、のんべえ仲間の血が騒ぐのをぐっとこらえ、次の打ちあわせにのぞむ。ムックの初打ちあわせなので、今日は顔見せのような感じだった。
その間、ずっと白いんげん豆をゆでていたが、夕方になっても夜になってもなかなか柔らかくならない。使いかけをずっとカゴに入れっぱなしだったし、賞味期限は去年の9月になっていたが、いったいいつ買った豆なのだろう。
今は夜中の2時なんですが、やっと煮上がりました。とちゅうからオリーブオイルと塩と粒こしょうとにんにくを加え、イタリア風にした。ちょっと固めだが味があり、ひなびていておいしい。ワインに合いそうな保存食ができた。
夜ごはんは、おとといのカレー、冷やしトマト、わかめとスライスオニオンの梅じょうゆ。私の梅じょうゆは、残った梅干しの種を瓶に入れてしょうゆを注いだもの。冷蔵庫にいつも入れておいて、思い出しては使っている。ごま油なんかちょいと加えたりすると、いいタレになります。
明日は、朝は冷え込むが、日中はすごく暖かくなるのだそう。NHKの天気予報のおじさんも、なんとなく嬉しそうな声になっていた。

●2003年2月5日(水)晴れ

昨日よりはまだましだが、どよーんとしている。
この落ち込みからどうにか抜け出そうと、起きぬけにストレッチなんかやってみた。
体が固いと心も固くなるもんだよなーと、つくづくそう思い、風呂に入り、着替えてちゃんと化粧もして、散歩に行くことにした。スニーカーを履いて。
いつもだったら自転車でぴゅーっと行ってしまう、おいしい魚屋さんまでてくてく歩き、 「奥さん、毛ガニ買わない?今日は安いしおいしいよー」と旦那にすすめられ、思わず買った。1000円だったし、ほんとにおいしそうだったので。この前もすすめられたけど、1500円だったので我慢したのだ。鯵のお刺し身と海苔も買った。ここの海苔は黒くてほんとにおいしいんです。
人んちの垣根を眺めながら、ぷらぷらと帰って来ました。今、木々には新芽が出ている。まだしっかりと固くしているが、ちゃんと冬の間に新しい季節を迎えるしたくをしている。植物って真面目だなー、健気だなーなどと思いながら。
帰ってからミルクコーヒーを煎れ、明日の打ちあわせ用のメニューを次々考えてゆく。試作もちょこっとした。白菜漬けが早くも水が上がってきていたので、柚子皮と昆布と唐辛子を加える。前回は柚子を輪切りにしてたくさん入れすぎたので、かなり控えめにした。塩も前回より少なめ。白菜1個で70〜80g だが、今回は70g でやってみた。
台所にいると、次第に機嫌がよくなってくる。
私は、いいことを仕事にしたなーと思う。いやなことだったら、こういうぼんやりした日には、まったく仕事にならないもの。
明日は雑誌の打ちあわせと、次に出す本(ムック)の打ちあわせもある。
どうにか新しい気持ちに切り替えられそうな・・・ 夕方、ばなな事務所の鈴木さんから「ホームページの近況に写真を載せさせていただいてますけど、よろしいですか?」と電話。もうとっくに知っています。
ばななさんのホームページはほとんど毎日楽しみにしている私ですもの。クウクウのクリスマスの時に、ヒロチンコさんが撮ってくださったから、出るかな?出るかな?と、ずっと楽しみにしていたのです。私はちょっと暗ーい顔をして写っていた。ばななさんのお腹を触ってはいるが、遠慮がちでもある。マスミちゃんは、芸能人のような素敵な笑顔で写っていた。プライベートな時って、つい私はふつうの私で写ってしまうようだ。
夜ごはんは、「アゴ」でだしをとったねぎとワカメの味噌汁、毛ガニ、鯵の刺し身、 塩鮭(だめになりそうなので焼いておいた)、おとといの赤芽芋の煮物にゆでた春菊を加えたもの、玄米、白菜漬け(白菜自体の甘味があっておいしいが、まだちょっと塩がきつい。次回は60g でやってみようと思う)。
そういえば、昨日は立春だったんだ。
「晩酌や」のマスターが、去年漬けたみかん酒を立春の日に解禁にしよう、と言っていたのを思い出したが、昨日も今日も私はひきこもりだから仕方ない。
夜中、白いんげん豆を水に漬けました。なんとなく。

●2003年2月4日(火)晴れ

どっぷり落ち込んでいる。
なんとかブルーみたいに、本の発売前のこの重たい気分に名前をつけた人はいないのだろうか。ゆうべ見本誌が出来上がり、じっくりと読み込んだ。もちろん文句なしに素晴らしい上がりなのだが、いったいどういう訳なんだろう。
不安だからか?それとも、終わってしまった脱力感か? ずっと寝ていたが、夜になってごそごそ起き上がり、ハウスバーモントカレー中辛を作って、布団の上で食べた。

●2003年2月3日(月)快晴

そういえば、きのう春菊の和え物を作っている時、箸でさっと混ぜてから手で合わせる私の手に、テレビで見た初女さんの手つきがのりうつっていた。菜っ葉をいたわるようにして、ふんわり混ぜる手つきだ。
私は昔染め物をやっていたが、その時にも同じように思ったことがある。フェルトを染液に漬けようとする先生の、手や指の動きがとても良いな、奇麗だなーと見とれていていたら、いざ自分でやる時に、先生と同じ手つきになっていて、ほうーと感心したものだ。
そりゃあ、ひらたく言えば真似だけど、ほんとうに(遺伝子レベルで)先生の手に、初女さんの手になってしまう気がするのだ。それは、その動作が理にかなっているし美しいと心底思っているからだろう。そういうことも、もしかしたら霊っていうのかも。体がなくなっても引き継がれてゆくものだから。
それはそうと、初女さんがすり鉢の中の和え衣に合わせる時、すでにゆでて切っておいた菜っ葉をタッパーから出してきて、余計な水分を取っていた手つきは見ものだった。
清潔な布巾の中にこんもり包んだ青菜を、まるでヒヨコが中にいるみたいにして、やさしくやさしく手の平を当てていた。しぼり取るのではなく、布巾に水分を吸わせる感じだ。あれは私は真似できない。あれは初女さんそのものだという気がする。
さて、今日は節分です。
豆をまいた時に埃があってはいやなので、掃除機を隅々までかけ、ワックスまでぬった。そして午前中から干しておいた白菜を取り込んで、塩漬けにしました。
これからメディアファクトリーに行くので、豆を炒って持って行き、皆に食べさせよう。
夜ごはんは、スイセイとりうにラーメンでも作ってもらおうと思う。
夕方、出掛ける時に見えた月は、爪を切って放り投げたような形だった。白くて。

●2003年2月2日(日)曇り

きのうの「アゴ」でとった味噌汁、すごくおいしかった。ちょっと迷ったけど、思い切って昆布を入れずにやってみたのだが、甘味もあるし、なんともいえないコクがあって、じゅうにぶんにおいしい。まったく昆布いらず。すごいもんだなー、アゴって。良いものをいただきました。今日もまたアゴでだしをとろう。
ゆうべは、NHKの深夜番組で、佐藤初女さんのインタビューを見た。たっぷり1時間くらい、いろいろなことを話してくださった。
青菜をゆでている時の話。「耳が遠いからってこともありますけどね、話しかけられても声が聞こえないんです、わたし。青菜の色が変わっていくのを見てるだけだから。」 初女さんのところには、あちこちから見ず知らずのいろんな人が、悩みを相談に来るのだそうだ。そのたびにご飯を作って食べさせてやりながら話を聞く。「食べながらだとね、話しやすいみたいなんですよ。食べて、おいしいーと思うと、自然と体がほぐれてくるんですね。」「私はね、聞いているだけ。その人の身になってその話を聞いていると、そうだねー、そうですねーと思うからそうしていると、話している人が自分で糸口みたいなものをみつけるようになるのね。そうやって帰って行かれるんですよ。」 ばななさんの「ハゴロモ」の中の、バスターミナルの神様というおばあちゃんも、こんな感じかも。初女さんは、声も話し方も、居すがたも、なにしろ顔もうんと良い。どんなことも、ふつうの感じで言う。この人が言うことは、何でも信頼できると思ってしまう。「にんじんを食べたら、それでにんじんがなくなるんではなくて、私の体になるんだと思うんです。こころも、誰かのこころの中に入ってなくならない。そのことを私は霊だと思うんです。」 霊かー、と思ってゆうべ私はそのことを考えながら寝た。よく眠れました。
料理を教える先生の中には、言っていることはほんとうだが、厳しさのあまり、威圧的な風になってしまう方もいるけど、初女さんの厳しさは、出てくる時に「やさしい」になっている。だから、作る料理がほんとうにおいしそうに見える。
さあ、これから買い物だ。
野菜もなくなってきたし、節分の豆も買わなくては。
夜ごはんは、春菊の梅ザーサイおかか和え、赤芽芋とちくわの含め煮(ゆず皮を散らした)、ごぼうとにんじんのきんぴら、ぶりの塩焼き、豆腐とねぎの味噌汁、玄米。

●2003年2月1日(土)快晴、夕方からかなり冷えこむ

布団をしいたまま毛布の上に座りこみ、本を読んだり、次に出す本の構想をねってみたりして、機嫌よく過ごす。天気は上々、ひなたぼっこのよう。
朝ごはんは、ゆうべの残りのたらとじゃが芋に牛乳を足してスープのようにして食べた。昼は、キャベツをたっぷり入れたソース焼きそば。目玉焼きのっけ。
さて、夜はどうしようかと、何もない冷蔵庫の中を捜した結果、しいたけの炊込み玄米ごはん、キャベツのお浸し、じゃが芋と玉ねぎの味噌汁にすることにした。
ちょっと前に、長崎に実家のある友人から、「アゴ」という飛び魚の小さいみたいな干した魚をいただいた。にぼしのようにしてだし汁に使うのだそう。今日の味噌汁は「アゴ」でとってみようと思い、いま水に漬けているところ。
キャベツは、ゆでるというよりも蒸しゆで。大きめの鍋にざくざく切ったキャベツをたっぷり入れ(1/2個〕、塩ひとつまみと水を1/4カップだけ入れて蓋をして強火。湯気がもれてくるまでになったら火を止めて、そのまま蒸らす。こうすると、芯までほんとうに甘くおいしく、たくさん食べられます。そして、蒸し汁はキャベツの味が出ておいしいので、飲むか味噌汁に加えてしまう。その汁であんかけにしてもいいですよね、おろししょうがなんかも添えて。

日々ごはんへ  めにうへ