2003年6月下

●2003年6月30日(月)晴れ、蒸し暑い

朝のうちに洗濯と掃除をし、11時から打ちあわせ。
12時には終わり、スイセイと昼ごはん。
とろろいも、大根味噌汁、玄米(ぜんぶ昨夜の残り)はスイセイ。
私は、豚角煮の残りにだし汁を足し、煮込みうどんにした。
七味と万能ねぎをふりかけたら、これが案外おいしかった。
豚角の汁っていつも残るけど、そのままでは甘すぎるからちょっと味をととのえれば、いろいろに使えると思う。次回は、炊込みごはんに挑戦してみたい。
午後からは、まず沖縄の航空券をゲット。
そして美容院へ。明日はテレビの収録なので。
おいしい魚屋さんでいろいろ刺し身を買う。
今夜は手巻き寿司だ。
この間作ったガリを使わなければと、髪を染めながら思いついたのです。
夜ごはんは、手巻き寿司(平目、甘エビ、まぐろ中落ち、いくら)、チンゲン菜のおひたし、わかめと卵の清し汁、ぬか漬け。
「出前の寿司よりうまいのう」と、スイセイにほめられました。
自家製のガリも好評だった。
夜は、明日のテレビ用のおさらいを3品ほど作る。
うー、ドキドキしてきているんです。
初めての番組だし、朝の9時半入りで、夜の8時半までかかるそうだ。
全部で15品くらいある。だいじょうぶなんだろうか私は。
とにかく今夜は早く寝よう。
こういう時にふーっと落ち着くやり方を、さっき風呂の中で思い出してやってみました。
湯船に浸かりながら、明日のシミュレーションをするわけですが、まず、明日の収録すべてのことを考えると、あまりに不安がふくらむので、ひとつずつシミュレーションしてゆきます。ぜんぶやんなくても、最初のふたつくらいでもう落ち着いてきます。
ぼちぼちいっこずつやればいいんだから大丈夫さー、という心持ちになるんです。
そして次は、なんてったって料理は私の得意なことじゃん。だから大丈夫さー。
そこまで思うと、だんだん目の前が開けてきます。
そして、どうせできることしかやれないんだから、くよくよ考えても無駄。
これで完ぺきだ。
では、おやすみなさい。

●2003年6月29日(日)晴れだったと思う

昼にいちど起きたものの、頭がぼんやりして使い物にならないのでまた昼寝。
ゆうべは飲みすぎた。
お腹もピーピーだ。
夜8時にどうにか起き出して、食事の支度。
夜ごはんは、豚の角煮(冷凍してあった)、ほうれん草とピーマンのバター炒め、とろろ芋、きゅうりの塩昆布和え、大根の味噌汁、玄米。
食べ終わって、ちょうどウルルンに間に合った。
今夜のウルルンは特別番組なので、9時から2時間なのです。
今、見終わったところ。
この番組って、時間をかけてちゃんと作ってあるなといつも感じる。
奇をてらったことはいっさいやってないのに、視聴者の気持ちをぐっと引き寄せる何かがいつもあって、派手ではないが、見終わった後に余韻が残る。
テレビで人を驚かせたり、えっ?と思わせることって安易にできると思うが、ウルルンって、すごいことを素知らぬ顔をしてやってしまっているので、驚きの向こうにある大事なことが伝わってくる気がする。とぼけた番組だなーと、今日もまた感心した。
司会の徳光さんも、アシスタントの女の子もいい感じだ。
私も、ウルルンのような本作りをしていきたいなと切に思う。

●2003年6月28日(土)曇り、夜になって小雨

友人のクウちゃんの店の3周年パーティー。
簡単なケイタリングをしました。
高山なおみを知らない人たちばかりの集まりだし、あえて名前を出したくなかったので、プライベートな感じでやりました。
そういう中にある私の料理って、名前の背景にあるものが味付けをしないから、純粋においしいかまずいかになってくる。
ちょっとおもしろかったな。
手伝ってくれた小川君は、居候生活をしながら、主人(居候先の)との会話を綴って、フリーペーパーを作っている若者だが、今は代々木公園でテント生活をしているんだそうだ。楽しくてしょうがないんだと。
プロのホームレスに混じって、カセットコンロでご飯を炊いたりしているらしい。
発電機を買ったので、こんどホームレスのおばちゃんにレコードを聞かせてやろうと計画しているらしい。
小川君が帰る時に、残り物の春巻きやカナッペをお持ち帰りしていたから、もしかしたら代々木公園のホームレスさんにお土産にするのかも、と思った。
私の料理を、顔も知らないホームレスさんたちが食べてくれるって、なんか自由だ。
真ちゃんが来ていたので、久々に差し向かいで、かなりクイクイと飲んでしまった。
真ちゃんは20年来の私のボーイフレンド。
結婚してるし娘さんもいるけど、その付き合いは、会った時からぜんぜん変わっていないんです。
これからもずっと友だちだろうなー、っていう数少ない友人だ。
12時にはお開きになって帰って来たけど、吉祥寺に着いてから、ひとりでもう1軒はしごしてしまった。お腹が空いていたんです。
納豆丼と、グレープフルーツ割りを2杯飲んで、いい気分で爽やかに帰って来たが、帰ったら3時過ぎでした。

●2003年6月27日(金)快晴、夜になって雨

爽やかに晴れたので、朝から洗濯。
11時からは打ちあわせ。
明日、ちょっとしたケイタリングをやるので、午後からは、その仕込みをやる。
床にぺたんと座って、すり鉢でディップものを2種作った。
すり鉢でつぶしながら合わせてゆくこの気持ち良さは、歩くのに似ている。
窓から風が入ってきたりして、とんとんとつぶしてゆく感じは、散歩してるみたい。
大豆のディップを自分の本を見ながら作っていたら、クリームチーズを倍量入れてしまった。急いで取りのけたが、いつもよりだんぜんクリームチーズが多くなってしまった。
ちょっとクリーミーだが、それはそれですごくおいしい。
よけたクリームチーズで、チーズケーキも焼いた。つぶれた大豆入りだ。
トマトが冷蔵庫の中で完熟になっていたので、トマトソースも作る。
そういえば、私のレシピって失敗から生まれることがわりとよくある。
クウクウの時なんか、スタッフが間違いをやったりして、そこからメニューが生まれるなんてこと、しょっちゅうだった。
あまりにとんでもない突飛な間違いなので、発想のジャンプもひとしおで、私ひとりでは到底生み出せないようなおもしろい料理ができたりもするんです。
これを読んでくださっている皆さんも、もしも何か間違ったとしても、おいしいと自分が感じたなら、その料理は成功したってことで、イェイ!! そして、私のレシピで作っておいしくできましたっていうメールをいただきます。
私はとっても嬉しいし励みになってるんですが、けど、作ったのはあなたなのだから、それはあなたの料理だと思う。
あなたが選んで買ってきた野菜で、自分のキッチンで、手垢のついた自分の鍋で作ったのだから、もう著作権はあなたでーす。
夜ごはんは、マッシュルームとひき肉と干し海老をカレー粉とナンプラー味で炒めて、白いご飯に混ぜたもの。大豆のゆで汁のスープ。
このスープは、アシスタントのしおりちゃんが、前に作って教えてくれたもの。
ゆで汁を牛乳でのばし、味噌をちょこっとと、黒こしょうだ。
豆の味がじんわりして、すごくおいしいスープなんです。

●2003年6月26日(木)曇り夜になって雨

今日もまたファックスで起こされました。
午前中のうちにゲラチェックなど済ませ、午後からは小包みや手紙を書いて郵便局へ。
サイン会のお知らせをしにちょっとクウクウに寄って、赤ワインを1杯飲んだらけっこうへろへろになってしまった。
そして、夕方の明るいうちに自転車をこいで帰ってきました。
これで、今日のやることは終わりだ。
なんだかスイセイとインドに行っていた時みたい。
やること(街まで郵便局に行ったり、食料を仕入れに行ったり、洗濯したりのどれか)を1日ひとつだけ実行すれば、あとは自由時間。
暇だなー。
だけどこの暇も今だけだからな。
こういう仕事って(いつ依頼がくるか分からない自由業)、私の性に合っているなと今朝布団の中で思った。
私は気分屋だし、人に強制されるとやる気をすっかりなくしてしまうから。
そのかわり、自分で決めたやりたいことはこつこつとじっくりやる。しつこいくらいに。
それは子供の頃からずっとそうだった。学校もずる休みしていたし、朝寝もよくしていた。ベッドで本を読みながら昼寝したり・・おそろしく変わんねえ私の性格だ。
夜ごはんは、陳さんの麻婆豆腐と同じ味つけで、茄子入り麻婆春雨。ほうれん草のおひたし、かき玉汁。
今日のかき玉汁は、卵のところがフワフワで茶わん蒸しの味がした。片栗粉を入れたからだろうか。こんなにおいしくできたのはめずらしい。
スイセイに、「ねえねえ、茶わん蒸しの味するよねぇ」としつこく言っていやがられる。

●2003年6月25日(水)大雨だったが午後からやんだ

あまりに雨がすごいので、いい気になって寝ていたら、宅配便や電話で何度も起こされ、 けっきょく11時に起きた。
暇だと私はずっと寝ているんだな。
昨日からずっと寝っぱなしだ。
晴れ間が出てきたので、シーツを洗濯した。
午後からは、試作。
きのこの中華おこわ風をたくさん作ったので、従姉妹の英里ちゃんのところに持って行く。今日発売の私の本の広告を見て、あんな体(赤ん坊を生んだばかり)なのに、本屋に行ってくれたんだそうだ。「なのに、売ってなかったんだよー」と言うので、ついでに本も持って行った。
赤ん坊を抱かしてもらったが、ぜんぜん人見知りしない。
心も体も清い、ふにゃふにゃと柔らかい生きもの。
白いかと思っていると顔が急に赤らんだりして、まだまだ小さく頼りない。
かわいくてかわいくて、むぎゅーっと抱きしめたくなった。
まだ明るいうちに自転車をこいで帰ってきました。
夜ごはんは、きのこおこわ、ねぎトロ、いかとピーマンのワタ炒め、鯵の干物、えのきと大葉の味噌汁。「今夜のおかずはぬきがないのー。せめて清まし汁にせんにゃあ」とスイセイに叱られる。
確かにそのとおりだったので、私は反論しなかった。
夜、スイセイのために黒みつを作っておいた。名誉挽回だ。

●2003年6月24日(火)ずっと雨

梅雨らしいしっかりした雨。寒いくらいだ。
11時からの打ちあわせがキャンセルになったし、なんとなく具合が悪い(セイリだしお腹はピーピー)なので、ずっと寝ていた。
毛布もかけて、冬みたいにして。
お昼には、きのことトマトのパスタ。
元気を出して、梅に赤じそを加えるのをやる。
そしてすぐにまた寝た。
夜はきのこの炊込みごはん。そう、次の撮影はきのこ料理なのです。
他には、とき卵スープ(昨夜のあさりの潮汁が汁だけ残っていたので、薄めて薄口しょうゆでととのえた)、茄子ときゅうりの塩もみ、キャベツの酢油かけ。
デザートは牛乳寒天黒みつかけ。
そして、今夜は風呂にも入らずにもう寝ます。
じつはちょっと落ち込んでいるので。

●2003年6月23日(月)降ったりやんだりの雨

この間スーパーで買い物をしていた老夫婦のことを書くのを忘れていた。
奥さんが誰に言うともなく、「もうお終いだからね・・」とつぶやきながら、空豆をカゴに入れていた時のこと。
旦那さんは傍らにつっ立っていた。「うー」なんて言って、ぜんぜん別の方を見て無表情に答えていたが、でもこのじいさんは空豆が好物なのだ。何十年も連れ添っているから、お互い無関心みたいに装おうのが癖になっているけれど。
ふーっと、この夫婦の日常が見える気がした。
もし私が小説家だったら、「終いの空豆」っていう題の小説を書くな。
そういえば廊下の梅、匂いが弱くなったので気になってふたを開けて様子を見ました。
塩はもう完全に溶け、白梅酢が上がっていた。
あれは、梅がエキスを出す時の匂いなのだな。
慌てて赤じそを買ってきたが、よく見ると底の方にまだ塩が固まっている。
それに気がついたのは、赤じそを塩でもんでからだ。
今、ラップをかけてそのままにしているが、明日まで待った方がいいかも。
今日は1時から打ちあわせだったのですが、お話を聞いているうちに、にわかに不安がむくむくと持ち上がり、けっきょく仕事を断ってしまった。
大きめの仕事だったんだけど、どうも出版側と私の意見が合わないようで・・。
それに気がついたのが、今日お会いしてからなのだ。
仕事を受ける時にもっと注意深くやらないとだめだな私は、と反省。
けど、断れて良かった。というか、理解のある編集さんだったのがありがたかった。
夜ごはんは、筑前煮(ゆうべの残り)、韓国風揚げさんま、大根葉と油揚げのにんにく炒め、あさりの潮汁、玄米。
牛乳寒天を作ってから寝た。

●2003年6月22日(日)晴れ、夜になってしみるような雨

今日は教室が休み。
なので昼まで寝てしまった。
日曜日の図書館は大にぎわいだった。
どれを借りようか、ちょっと座って本を眺めていても、足もとを人が行ったり来たりするので落ち着かない。
それでもあちこちうろうろして、2時間もいた。
夕方からまたパンを焼いた。
風呂のふたの上で発酵させたら、いい感じにふくらんだ。
夜ごはんは、筑前煮(新ごぼう、新じゃが、こんにゃく、干ししいたけ、鷄肉)、鯵の干物、大根の浅漬け、とろろ納豆、玄米、豆腐の味噌汁。
ちょっと前になるが、NHKで「65歳からの食卓」という番組を見た。
おばあちゃんたちが、マクドナルドでハンバーガーにかぶりついていた。
ポテトを食べながら、「やわらかくていいだー」とかって言いながら。
子供たちが独立して、老夫婦ふたりや一人暮しになった時に、ご飯を作る気力がなくなってしまい、買ってきた総菜などですませる人が、あんがい多いのだという。
お昼はコンビニのおにぎりとメンチカツ、夜は買ってきたアジフライ2匹と千切りキャベツと味噌汁。
私は、一人暮らしで料理を作らないってのは、若い人たちだけだと思い込んでいた。
自分だけのために作るのがおっくうだという気持ちは、老若男女いっしょなのだ。
驚いたけれど、やけに納得した気持ちになった。
じゃあ、料理を楽しむって何だろう? もしかしたら工作みたいなのに近いのかも。
そしたら自分は、食べてくれる相手がいなくなっても作り続けるかもなと思う。

●2003年6月21日(土)快晴、暑い

今日から夏が始まった。と、スイセイが言った。
青い空にカラッとした太陽だ。といっても、まだ梅雨の中休みなんだけどね。
沖縄は、梅雨明けしたらしい。
パンの発酵日和なので、ひさびさに食パンを焼く。
夕方、てくてくと散歩。
無人野菜売り場のじいさんは、「暑かったねー」と声をかけてきた。
去年は、まだこの売り場を始めたばかりで、このじいさんは無口な武骨もの、だけど優しいというキャラだったのに、「暑かったねー」と言った後、にっこり笑う笑顔は社交的で垢ぬけてさえいた。驚きだなー。
きっと、この1年の間に、買いに来るおばさんたちと交流があったのだろう。
葉っぱがゆさゆさした泥つき大根、泥つき新じゃが、ルッコラを買う。
これで400円だ。
大根は、帰ってすぐに大きめの縦割りにして塩をもみ、昆布と鷹の爪を入れて漬物にした。けっこう辛い夏大根だから、きっとスイセイが喜ぶだろう。
夜ごはんは、スペアリブのオーブン焼き(昨日からワインやオリーブオイルやくず野菜でマリネしておいた)ルッコラ添えと、蕎麦。
不思議な組み合わせだったが、締めは蕎麦っていう感じが、料理屋さんみたいでなかなかだった。デザートが何もなかったので、生クリームを泡立て、きなこと自家製黒みつをかけた。この組み合わせ、かなり旨いと思う。とにかく黒みつがおいしいんです。
レシピはこんどの新しい本に出ています。
玄関の廊下には、らっきょう漬け、梅酒、そして昨日から梅干しが置いてある。
そこを通るたびに梅のいい匂いがする。桃のような匂いだ。
紙ぶたの下では、今じわじわと白梅酢が上がってきているのだと思う。
トイレに行くとき何を考えていても、「はっ」と梅の香りにいつも引き戻される。
今日私は食パンを作る時、「高山なおみの料理」を見ていたら、ついじっくり読んで、写真やイラストもじっくり眺めてしまった。まるで自分が作ったんではないみたいに。



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