2003年8月上

●2003年8月10日(日)あたりまえに晴れ、もちろん暑いけどちょっと涼しいような?

昨夜はぐっすり寝た。
そして7時には起きた。
すぐにシャワーを浴び、ちばちゃんとてくてく歩いてパナヌファへ。
チアキちゃんを途中で拾って、良美ちゃんの実家へ行く。
今日は手伝いの日なんです。
パナヌファシスターズ(良美ちゃんを長女にして私が末っ子。チアキもちばちゃんも 本島の娘だけど、波照間にいる期間が長いので、歳は私がぜんぜん上だが、皆私のね えちゃんなのだ)。
ムーシャマは11日だけれど、その前に仏壇をきれいにして、御馳走も作って、 いろんな飾り物をして先祖さまをお迎えするのだそうだ。
まず、良美ちゃんのお父さんの手伝い。
庭にたらいを出し、短く切りそろえたサトウキビをこすり洗いする。
それをヒモで束ねて、いろんな木の実をさしこんで飾りを作る手伝いだ。
木の実は、山ぶどうや黒木の実(黄色や赤)、グアバの若い実など。
出来上がったものを見ると、サトウキビはなんだか竹のよう。
お正月の竹飾りみたいだ。
そして、お母さんの手伝いでだんごを作った。
あんは、黒砂糖とはったい粉を混ぜたもの。
できたてをひとつづつ食べさせてくれましたが、めちゃくちゃおいしかった。
はったい粉と黒砂糖。うーん、帰ったら白玉粉でやってみよう。
冷たい白玉だんごにして、しょうがのシロップか何かを作ってかけてみよう。
さて、今はパナヌファのマックを借りて日記を書いているわけですが、 これからどこに行くのかというと、皆でお墓に行くんです。
家族みんなでお墓に先祖さまを迎えに行く。
それについて行くのです。
ランディさんたちもいっしょだ。
ゆうべ、良美ちゃんの兄さんが言っていたが、お墓に行って帰る時、寄り道してはい けないんだと。
なんでかというと、先祖さまがそこが家だと思ってまちがえて降りてしまうんだそう だ。
ちゃんとまっすぐ家に連れて帰るために、家族もまっすぐ家に帰るんだそうだ。
家の中の(迎える)準備ができたら、皆でそろって出かける。
実家では今、ばあちゃん、お父さん、お母さん、兄ちゃんが準備をしているのだと思 われる。
電話がかかってくるのを、私たちはのんびり待っているのです。
けっしてこちらから電話なんかしない。

●2003年8月9日(土)もちろん晴れ、蒸し暑い

夕べはほとんど眠れなかった。
波照間の初めての晩は、いつもこうなので大丈夫。
寝ながら(半分ねぼけながら)、考えが聞こえてきた。
それはこういう声だ。
「頭の中のことを、1本1本ほぐしてゆきなさいねー。
あんたは、すぐにそれをつなげてひとつの考えにしてしまう癖があるけれど、 ひとつひとつを、ばらばらに、それぞれをじっくり感じていればいいだけさー。」 (なぜか沖縄弁) そしてその時の私の応えはこうだ。
「ただ、この島にくっついて行こう。自分の考えにくっつくのではなくて、 これから始まろうとする島のことに。」 波照間の1日目はいつも、東京でやってきたことや考えを手放せないのです。
さて、今朝は7時半に目が覚めた。
いろんな声が聞こえる。
山羊の声、カラスの声、トゥキー、トゥキーという鳥の声、そしてジュクジュクシャ ンシャン蝉しぐれだ。
島のオルゴール放送(8時の時報「夜明けのノクターン?」みたいな曲)を聞いてか ら、エイッと起きる。
シャワーを浴びて帽子をかぶり、てくてくと歩く。
なにしろお腹が空いているんです。
集落の真ん中へんにある売店で、おにぎりを買い食いしようと思って。
しかし、餡パンしか売っていませんでした。
おにぎりや弁当は、石垣島から船で届くのが10時くらいだという。
集会場みたいなところに人が集まっている。
ムーシャマの飾りやつくり物を皆で準備しているのだ。
着物や帯にアイロンをかけたり、かんざしのような飾りを作ったりしている。
よく見ると、かんざしの花の真ん中はボタンみたいだ。そのまわりを、ヒラヒラと切っ た 折り紙で花びらにしている。
麻袋で作った米俵のつくり物や、木の枝に黒く塗った板をつけたクワもどき。
細い竹につけた和紙の日の丸の旗。
けど、なぜか丸は薄いピンク色だ。もしかしたら日の丸ではないのかも。
私は隅っこに腰掛けさせてもらい、その様子をスケッチして過ごす。
子供が寄ってきて、落書き大会にもなったりして。
10時になったので売店へ。
ジューシー(炊き込みご飯)のおにぎりは、細かく切った干ししいたけや緑色の薬草 みたいなのが 炊き込んである。すごくおいしい。
そして稲荷ずしとのり巻きは、形がおにぎりのようであった。
のり巻きは、長いかんぴょうは入っているが、たわらのおにぎり型だ。
稲荷は三角。中にピンクのおぼろが入っている。
しっかりした酢飯でとてもおいしかった。
しかし、ご飯を食べているだけで汗が吹き出る。
民宿のヘルパーさんが、「何もしなくても汗が出るねー」と言っていたが、 ほんとにそのとおりだ。
そして、めちゃくちゃにのどが乾き、腹も減る。
だって、その足で宿に帰り、民宿のおじい(新刊の黒砂糖のコラムの)が作ってくれ た ソーミンチャンプルーを2杯も食べたのだ。
ソーミンの麺は、八重山そばのような太い麺だった。
玉ねぎ、ポーク(ランチョンミート)、ニラ入り。
たぶん味つけは塩だけだと思うが、これもまたすごくおいしかった。
午後3時からはパナヌファが休憩なので、皆でビーチへ。
あー、ぜんぶ書いているとたいへんな量になってしまいます。
泳いだ様子はここでは割愛しますが、発明した泳ぎをひとつだけここに書きます。
それは、仰向けになって足こぎしながら、声を出すのです。
ウーとかアーとか声を出しながら泳ぐと、耳まで海水に浸かっているので、 体じゅうにその音が反響するんです。ひとり密かに恍惚となる。
ずいぶん離れてもぐっていた良美ちゃんが、 「みいさんの声聞こえてたよー」と言っていた。
海の中にも反響していたことに驚く。
さて、そして夜8時からは、ムーシャマの踊りや行列の予行練習を見に行く。
わが良美どん、順君、チアキちゃんも出演するのです。
すべて終わってちばちゃんとふたりてくてく帰ったのは、1時を過ぎていた。
シャワーも浴びずに、歯だけ磨いてすぐに寝る私だった。
たぶん、ちばちゃんもそうだろうと思われる。

●2003年8月8日(金)快晴

5時半起き。
では、波照間へ行ってきまーす。
飛行機の中で思ったこと。
スピードクッキングっていうのは、いやいやながら料理することかな? だから、いやいやではなかったら、電子レンジでチンもいい。
4時40分に波照間に着きました! もちろん晴れ しかしやっぱり船は揺れた。
いつもは甲板に乗るのだけど、あまりに波や風を受けるので、今回は客室の方に座っ てみたのだが。
若いお母さんが4人の子供たちを連れて乗ってきた。
子供らはお母さんとバラバラに座ったのだが、船が揺れても当たり前のように、 前の席の背もたれにうつぶせ(ふさる)のようにして、ものすごい揺れをしのいでい ました。
えらいなー。
さて、波照間に着くとそのまま順君(パナヌファの)の車で浜へ。
そこでランディさん一家にお会いする。
ランディさんは、沖縄の離島のお祭りをあちこち取材なさっているそうで、 今回は「ムーシャマ」を見に来たのだそうだ。
その夜、パナヌファでいっしょに少し飲みました。
だんだんにオカルトっぽく、私もとても興味がある話になってきた時、 ランディさんは、話しながら、目に涙がちょっと浮かんだりもしながら、 どんどんいろんな話をしてくれた。
その時、自分の気持ち(感じたこと)に対する、真摯さを感じました。
それは自分の感受性に対する信頼とか自信とか、 けっきょくはそういうことになるのだろうか。
で、実はそれって私自身の一生のテーマでもあるのです。
本を作っても、料理を作っても、仕事をしている時も プライベートでも、私が人やモノに会う時に、いちばんだいじなこと。
そのことを思い出しました。
そして、初めて会った相手にも、 ランディさんを惜しみなくぶつけてきてくれることのすごさを思った。
さて、一家が帰ってから 良美ちゃんとチアキちゃんが踊りの稽古から帰ってきた。
お腹が空いてるというので、私がご飯を作ることに。
チャーハンをジャージャー作っている間、順君はホールで三線と歌の練習。
それに合わせて厨房で踊る、良美、チアキ、ちばちゃんの3人組だ。
ちばちゃんといっしょに宿に帰ろうとしたら、良美ちゃんが送ってくれた。
外は月明かり。てろてろと3人で歩く。
夜に白い花、月橘(げっきつ)が濃く匂う。
けっきょく宿を通り過ぎて、防波堤まで散歩になった。
月夜といってもどこにも電燈がないので、ほとんど足探りだ。
堤防の上に3人並んで座り、ぼんやり見える海を眺める。
私たちの他には誰もいません。
あと4日で満月になる月。
この月が新月の時に、しおりちゃんは赤ん坊を生んだ。

●2003年8月7日(木)快晴

朝からチケットの払い戻しに走る。
飛行機は欠航したが、思いがけず休日ができたので、美容院と図書館へ。
そして、布団カバーやシーツまで洗濯しまくる。
編集さんたちは、今日から私は沖縄だと思ってらっしゃるので、電話も鳴らない。
ひさびさに、まるっきし仕事から離れた気分だ。
このところスケッジュールがバタバタだったから、旅行の支度もちゃんとできなかった。
リュックの中身を全部出して、ほんとうに必要かそうでないかを見極めながら、もういちど詰め直す。
今日出掛けていたら、白髪も染めてないし、荷物は適当だし、疲れもとれないままの強行旅行になっていたと思われる。
佐藤さとるさんの「だれも知らない小さな国」を読みながら、昼寝もした。
夜ご飯は、辛い辛い麻婆豆腐、もやしスープ、玄米。
夜のニュースで、明日の便も欠航が多いことが分かった。
私の予約したのはだいじょうぶだったが、まだ油断できん。
とりあえず明日の朝早く、空港に行ってみることにします。

●2003年8月6日(水)曇り、わりと涼しい

テレビの収録でお台場へ。
7時半に終わり、タクシーで帰ってくる。
明日から沖縄なので早めに帰って来たはいいが、台風のため飛行機が欠航になったと連絡が入った。
そんなことってあるんだ・・。
夜ご飯は、塩鮭、なすの炒め煮、納豆、つみれとえのきの清汁、玄米。
インターネットで「飛行機が欠航」というので検索してみたら、500件くらいヒットした。ほとんどが人の日記だが、中にはトラブル対処法を表にして書いている人もいた。
それをじーっと読みこむ私。
のんびりしていたが、もしかして明日空港に行った方がいいのかも。
それをスイセイに相談したら、チケットの予約状況を調べてくれた。
したら8日に、福岡経由、石垣島行きというのが奇跡的にあったんです。
船の時間にも間に合うから、その日のうちに波照間島に行ける。
キーッと興奮して、予約してもらう。
それが終わったのが夜中の3時だ。ふーっ。
正規の値段なのでものすごく高いが、それについては涙を飲んであきらめよう。
7月はがんばって働いたんだから・・と自分につぶやく私だ。

●2003年8月5日(火)曇り、夕方から大雨

スイセイは、朝からベランダのすのこに何かを塗っている。
シンナーのような匂いが寝室まで流れ込んでくるので、シーツで鼻を抑え、がんばってひたすら眠る。
11時に起きました。
そしてがんばって原稿書き。
一段落ついたので、自転車に乗って買い物だ。
あさってから波照間島に行くので、お土産やら、留守番のスイセイ用に食料やらいろいろ買い込む。
クウクウに寄って、エバ子からおすそわけの枝豆を受け取り外に出ると、雨がザーザー降っている。
めげずに、おいしい魚屋さんに行き、しめ鯖、甘エビ、白いかのゲソ、塩鮭など買い、八百屋にまわって、小松菜、モロヘイヤ、生わさび(150円だったので思わず買った)、きゅうり、貝割れなどを買う。
その頃にはもう土砂降りで、雷まで鳴っていた。
ずぶぬれになって帰ってきました。
枝豆は、新潟から送ってくれたものだそうで、「たぶん日本いち」と手紙に書いてあった。「最近の私の枝豆ゆでベスト時間は、キッチリ5分。そして水で冷やしたりせずに、熱いうちに食べるのがいちばんうまいと思う。」と、エバ子が書いてある通りにしてゆでました。
ほんとうに、すごーくうまかった。甘みがあって。
そして、原稿書きの仕上げをし、さっき、丹治君にメールをお送りしました。
ふー。
これであとは明日のテレビ収録をやったら、晴れて沖縄です。
今から明日の練習で、ドライフルーツの入った冷たいチョコレートを作ります。
夜ごはんは、しめ鯖、甘エビお刺し身、モロヘイヤとスライスオニオンの梅和え、白いかのバターじょうゆ炒め、里芋の味噌汁、玄米。

●2003年8月4日(月)快晴、すごく暑い

二日酔いで頭が痛いっす。
ゆべは飲み過ぎた。3軒はしごしてしまった・・。
2時からラジオに出演しなければならないので、風呂に入って目を覚ます。
静岡放送のラジオなんです。
出演っていっても、電話だからどんなにひどい顔をしていてもだいじょうぶだ。
無事、終わりました。
そしてズルズルと布団に入り、7時まで昼寝。
旅行前にもうひとつ原稿を書かないとならないので、ぐっとがんばる。
スイセイが出掛けているので、夜ごはんは何も作らず、原稿書きに没頭する。
けど、夜中に猛烈に腹が減り、スイセイがたらこスパゲッティーを作ってくれました。
パスタはちょっとゆで過ぎで、なぜかカレー粉がかくし味で入っていたが、すごくおいしかった。
人が作ってくれる料理って、おいしい。

●2003年8月3日(日)快晴、真夏日

すばらしい天気。
布団を干し、梅干しを干し、座布団を干し、枕を干した。
洗濯ものがないので、ベンチにしいてある白いマットを洗う。
この晴れやかな気分は、原稿を書き終わったからでもあるのだ。
だが連載の文を、旅行前に書かなければならない。
今日はしかし、遊んでしまおう! これからマッキー(元クウクウスタッフ)一家と待ちあわせて、しおりちゃんのところに行くんです。新生児好きなスイセイももちろんいっしょ。
そして永谷を誘って、皆でカンパイの夕ご飯を食べる予定。

●2003年8月2日(土)快晴、梅雨明け

昨夜はひさびさに徹夜した。
物語は、やっとどうにか形になってきました。
それでも12時には起きて、続きをやる。
とちゅう、梅干しを干したり、洗濯したりしながら。
梅干しの土用干し、今日が初日だ。
ここのところ、ずっと頭を洗っていなかった。今日で3日目だ。
なんとなく、髪を洗うとテンションが変わる気がして、洗わなかったのだ。
夕方、6時にやっと書き上げファックスを送る。
この物語は、9月の毎週火曜日、夜10時54分より、フジテレビ系で放送されます。
「出会いのストーリー」という、毎週1話ずつ進んでゆく、全部で5話の小さなお話です。私の文に映像がつくというもの。すごく楽しみだ。
夜、カレーを作っていたら、「みい、今夜は何を基準にすればええか知っとるか?」とスイセイが言いに来ました。
答えは、「すいか(ドラマの)」だって。
そう、毎週楽しみにしているのに、もうちょっとで忘れそうだったんです。
「すいか」が9時からだから、それまでに風呂に入って、夜ごはん食べてしまおう。
9時からの「すいか」を基準にして動けっていう、そういうこと。
夜ごはんは、カレーライス、らっきょう(自家製だよーん)、キャベツとハムのサラダ。
ずっと書くのを忘れていたが、家の冷蔵庫には今ロールケーキがある。
おとといの撮影の時に、編集者さんが持ってきてくれたんです。
浜田山のなんとかいうケーキ屋さんの、昔風のロールケーキだ。
これが、ほんとにおいしいんです。フワフワのスポンジにただの白いクリーム。
「デッドエンドの思い出」でロールケーキが出てきたから、いいタイミングでもあった。
ここのところ、毎食後にスライスしてだいじに食べているが、スイセイはそのたんびに「しあわせの味じゃのー」と言って、うっとりしている。

●2003年8月1日(金)曇りのち晴れ

午前中から病院へ。
どうやら膀胱炎は治ってきた様子。
帰ったら、みるみるうちに晴れてきたので洗濯をする。
2時間ほど昼寝をして、原稿を書き始める。
なんだか私はくたびれているようだ。
夜ごはんは、しらすおろし、わかめとスライスオニオンのすだちしょうゆ、焼き茄子、卵スープ、鰯明太、玄米。
「江戸時代のご飯じゃ」と、スイセイ。
ご飯を食べたら、また原稿書きに突入だ。



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