2004年3月下

●2004年3月31日(水)ぼんやりした晴れ

本の撮影2日目。
アナウンサーの今泉さんが見学にいらっしゃる。
丹治くんとお友だちなんだそうだ。
キッチンでビデオを回し、あの、テレビと同じ声で質問されると、ついマジに答えてしまい、NHKごっこみたいだった。
昨日よりは天気もよく、着々と新居さんが写していってくださる。
新居さんのは、素材の姿というか、肌触りみたいなものが、ぐっと感じられる写真だと思う。
くしゃくしゃとしたキャベツや、じゃが芋の皮がぷりっと弾けた感じとか。
そして、料理はすべてとてもおいしくできた。
いちいち、「うー」と唸ってしまう旨さ。
それは本当に、素材から沸き上がってくる旨さなのだ。
私が作ったのではなく、誰か別の人の力が料理したような。
誰かのいうことを聞いて、私が誰かのかわりに料理したような、そんな感じ。
こういうのを野菜の声が聞こえるとかっていうのかもな。
今泉さんは、ひと口食べてはそのおいしさをいちいち報告しに来てくれた。
ただ「おいしいー」って言うんではなくて、どんな風においしいのかちゃんと説明してらっしゃるとこがおかしかった。
終わってから、飲みに行きたいような気もしたけれど、ひゅーっとくたびれの方に気持が持ってゆかれた。
早めに風呂に入り、スイセイと二人でぶっかけご飯(卵と三つ葉のお清しを作ってごはんにかけ、しらすをのっけた)を食べる。
くたびれたり、新しい仕事のことで不安になったりすることをスイセイに相談すると、いつも辛抱強く聞いてくれる。
聞いてくれるだけで、「そうじゃのう」とひとこと言われるだけで、私は息を詰めて思い詰めていたことに、自分で気がつくことができる。
いくら私がどんどん悪い方の暗い気分にはまっていて、客観的に見たら愚かなことを考えていたとしても、その話を聞いてくれただけで、すーっと気持が平らになる。
こういうパートナーが家の中にいて、一緒にいられるということを、とてもありがたく思う。
さあ、早く寝よう。
撮影で刺激されて、今夜はちょっと気持が高ぶっているかも。

●2004年3月30日(火)曇りのち雨

雨が降っています。
今、早めに風呂に入って、やっと落ち着いたところ。
ふー、今日はくたびれました。
11時から、本の撮影でした。
アリヤーマ君はハワイ焼けで、変なライターのお土産をくれた。
ビキニの女の人の、火をつけると乳首が赤く光るやつ。
これはスイセイにだ。
自分も同じのをこっそり使っていて、いちいち光らせていた。
さて、撮影は、やっぱりスリルがある。
素材との向き合い方に、いい緊張がある。
しかし、のってきた頃には今にも雨が降り出しそうに暗くなり、やむなく続きは明日になった。
終わってみたら、どっと疲れていた私。
たぶん、知らない間にどこかを張りつめていたのだろうな。
皆が帰ってから、撮影用のキャベツを買いに行った。
くたびれていたので、ぐったりしながら、雨の中をゆっくり歩いて。
私は片手にカゴを持ち、片手でキャベツを選んでいた。
知らないおばさんが隣にきて、おばさんは両手でキャベツを選んでいた。
ちょっと私はハッとした。
スーパーの野菜って、形も揃っているし、清潔にぴかぴかと包まれているから、ともするとただの物っていう気持で扱っていないですか?って、料理家の私は読者の方々に提案していたくせに。
自分は、見た目だけを気にして、物みたいに選んでいた。
おばさんはちゃんと生きた野菜として扱っていた。
夜ごはんは、筍の姫皮入りのうどん(三つ葉たっぷり)だけを作る。
あとは今日の残りのおにぎりやらいろいろあるので。

●2004年3月29日(月)快晴、暖かい

今日は「おぼろ日和」と、スイセイが言った。
おぼろ豆腐というか、おからのようなボハッとした春の日という意味だ。
11時より撮影。
料理は1品、2カットの小さい撮影でした。
終わってから、撮影の料理の他に、新じゃがの鍋蒸し焼き、蕗のとうのしょうゆ炒め(蕗のとうを細かく刻んでごま油で軽く炒め、酒、薄口しょうゆでいりつける。佃煮ほど味を濃くしない)なんかをささっと作った。
日置さんとみどりちゃんだし、ビールさえ飲まなかったけど、ハワイアンをかけながら、のほほんとお昼ごはんだ。
2時から街へ出て、明日の撮影用の買い物。
そしてスイセイ、リーダー、くまちゃん、とーきち君と合流して、秘密の会議を開く。
これはまだ秘密なのだが、ちょっとしたパーティーのようなのを野外でやるんです。
私は料理を作る。
井の頭公園の中にある「ペパ・カフェ」に初めて行った。
なんて気持のいい店なのだろう。
あんなに木に囲まれて、ドリンクを作るカウンターの裏はちょっとした山で、笹の葉が茂っているのが窓から見える。
厨房なんか、大きな窓(というか戸口)全開だもの。
従業員も、そういうのを気持良さがって働いているような感じ。
のびのびとしている。
私はトムヤム・ラーメンをたのんだ。
おいしかったけど、とーきち君がたのんだ「タイ風汁なしラーメン」が、超おいしそうだった。
こんどまた来たら、それをたのもう。
というわけで、シンハー・ビールとギネスでほどよく酔っ払った。
そして、そぞろ歩きのたくさんのカップルとすれ違いながらも、橋の上から眺めた夜桜は、やっぱり綺麗だった。
いくら、井の頭公園の花見客の風紀が最近悪くなってきて、公園全体が薄汚れているような気がしても、桜というのはそういうこととは関係なしに、美しいものなのだなーと感心しました。
無神経な美しさというか、白痴的な美しさというか。
夜ごはんは、何も作らない。
昨夜のししゃもでお茶漬けサラサラ。
スイセイは、昨夜の味噌汁ぶっかけご飯。

●2004年3月28日(日)快晴、暖かい

四角く切り取ったみたいに、畳の上に光りが当たっているところ。
そこに寝転がってみたいなと最近思っていて(先日読んだ長い題名の小説の主人公、シーダーがやっていた)、実行してみた。
すごい。
太陽の真下という感じに、光りが降ってくる。
沖縄に行かなくても味わえるじゃん。
だけど、陽に焼けそうなのでほどほどにする。
立ち上がるといろんなものが青く見え、くらくらと台所に行って洗い物をする。
お昼に焼きそばを作り、これでもかというほどキャベツを入れた。
午後から、スイセイの散歩について行く。
桜を見たいのだ。
いつもの散歩コースは、桜のトンネルだった。
車があまり通らないし、小さな公園(クウネルに載った公園)で、家族が二組ほどお弁当を広げていた。
てくてく歩いて行って、中央公園を一周する。
花見の客もまあまあいるけれど、紙ヒコーキを飛ばしているじいさんグループや、凧揚げをしているおじさんもいるし、いつものように犬の散歩の人も。
スイセイは缶のお茶を、私はカルピス・オレンジを飲みながら、芝生の上に座って、いろんな人々や犬を見学する。
帰りにスーパーで買い物。
明日、小さい撮影があるので、撮影用のも買う。
スイセイに蕗の煮たのを食べたいかと聞くと、「わからん。あれば食べるけど」と張り合いがない返事。
今夜は何を食べたいか聞いても、いちいち「うーん」と考えこんで、カートを持ったまま後ろからついてくるだけ。消極的だ。
ふと見ると、試飲の焼酎みたいなのを飲んでいた。
さあ、今日は仕事をしないぞ。
サザエさんを見ながら蕗の皮をむく。
昨夜の若竹煮の汁が残っているので、それで炊く予定だ。
葉は蕗味噌にした。
さっとゆでこぼして水にさらし、細かく刻んでごま油でよく炒め、味噌、きび砂糖、酒で煎りつけ、仕上げにしょうゆを落とした。
夜ごはんは、鰺のなめろう、あさつきの辛子酢味噌和え、蕗の薄味炊き、焼きししゃも、あさりの味噌汁、玄米。
今日のあさりはスーパーで買った小粒のものだが、やっぱり貝殻の縁までいっぱいに大きく膨らんで、甘かった。
今、あさりを食べないでいつ食べるのだ・・・という感じの、まさに旬だ。

●2004年3月27日(土)快晴、穏やかな花見日和

カーテンから、明るい陽射しが覗いているのは分かってはいるが、ついつい春眠をむさぼって、また寝ぼすけをしてしまった。
夢をみてトイレに行き、また続きの夢をみた。
昨夜は2時に寝たから、しっかり12時間寝たことになる。
起きて洗濯をし、名誉挽回で(自分に対して)8時までバリバリとレシピ書きをやった。
ごっつはかどりました。
これは、日置さんや茂木さんとやる本のレシピです。
4月後半から撮影が始まり、9月くらいに発売の予定。
高山家のふだんのご飯の本です。
だから、この日記で出てくるみたいな料理がベースです。
スイセイの部屋から、のこぎりの音や電気ドリルみたいな音がずっと響いていた。
一心に仕事をしていたら、スイセイが発明品の完成間近のものを持ってきて、チラチラと私の方を見る。
「すごいねー」とか、「なーに?これは」とか言って欲しいのだ。
夜ごはんは、昨日ゆでておいた筍で若竹煮(豆腐、わかめ入り)、筍ごはん(私のレシピはだし汁を入れない。ナンプラー、薄口しょうゆ、酒、塩、ごま油で薄目に味をつけ、だし昆布ときざんだ筍、油揚げをのっけて炊く。ナンプラーがだし代わり)、かじきまぐろの照焼きと網焼きピーマン、キャベツと卵の味噌汁。
季節はずれなのに、なぜ最近ピーマンばかり食べているかというと、夏物の撮影が多いので、試作しているのです。
今日のピーマンは細長くてわりと皮が薄く、おいしかった。宮崎産だ。
筍ごはんも超おいしかった。
春の野菜は、どれも味つけを強くしないのがポイントだと思う。
香りやえぐみがすでに調味料なので。

●2004年3月26日(金)晴れ、風が強く寒い

午後からフミさんが来て、保険の説明を聞く。
これはスイセイの係なので、お任せして私は美容院へ。
井の頭公園は、桜が4分咲きくらいだった。
花見客もぼちぼち出ていて、青いシートをしいて場所とりをしながらマンガを読んでいるサラリーマンが何組かいた。
帰りは、風が強くなってすごく寒い。
だから、花見の人を見てもちっとも羨ましくない。
ぶるぶる震えていて、気の毒なほどであった。
帰りにおいしい魚屋さんで、ハマチの刺し身、あさり、わかめ、めかじきを買う。
いちど帰ってから、スーパーに行って筍を買う。
まだちょっと早くて小さいけれど、福岡で採れたのが出ていた。
今、茹でているところ。
ぼわっとしたいい匂いがする・・。
夜ごはんは、ハマチの刺し身、おぼろ豆腐(フミさんにいただいた京都の豆腐屋さんの)、小松菜と油揚げ(これもフミさん土産)の煮浸し、オクラ納豆、あさりの潮汁(筍の姫皮、三つ葉入り)、玄米。
あさりの身がぎっしりと大きく膨らみ、甘くてとてもおいしかった。
さすがは春のあさりだ。
姫皮も入れて、いかにも春らしい吸い物だった。
フミさんにいただいた豆腐もお揚げも、とてもおいしかった。

●2004年3月25日(木)曇りのち夜は雨

昨夜寝る前に読み始めた長い題名の本、おもしろくて一気に読み上げた。
さいしょ、いしいしんじさんの「ブランコ乗り」に、言い回しが似た感じがするのが気になっていたが、だんだん気にならなくなり、気がついたらどっぷりはまっていた。
元気で、繊細で、わくわくする世界だった。
今日は、これからもう一回読んで、次に「雪野」尾辻克彦著を読む予定。
尾辻さんというのは赤瀬川原平さんのことで、「雪野」は、ずっと前に読んですごくよかった本。
もういちど読みたいなとずっと思っていた本だ。
図書館で検索してみたら、書庫にあったのです。
うちの図書館の書庫、いちどでいいから入って眺めたいものだ。
地下にあるらしいが、どんなことになっているんだろう。
というわけで、ソファーに毛布と電気ストーブで、今日は読書三昧の日にしよう。
9時から寅さんの最終回があるのも楽しみだ。
いつもよりちょっと早め(8時)に夜ごはん。
麻婆茄子豆腐(撮影の残りの豆腐いろいろ寄せ集めで)、きゅうり、トマト、貝割れのサラダ、ワカメとみょうがの味噌汁、玄米。
寅さんは、元気がなかった。
もう声もあんまり出ないみたいだった。
話しながら寝ころぶシーンがけっこうあって、そのたんびに私は心配になった。
浅丘ルリ子もさくらも光男もとてよかったし、奄美の加計呂麻島もとってもいいところみたいで良かったんだけど。
終わってから、少し淋しい気持になった。
いかりやさんも亡くなっちゃったし、寅さんも死んじゃった(もうずいぶん前だけど)んだなーと思って。

●2004年3月24日(水)晴れのち曇りのち雨

11時半より撮影。
カット数が多かったけれど、4時には終わる。
朝は晴れていたから、天気予報がはずれた!と喜んでいたが、どんどん曇ってきて、気がついたら雨だった。
また、冷えがどよーんと腰にくる。
春が来るのが待ち遠しい。
なんか、季節はずれの野菜たちは、冬びていて可愛そうだな。
今は、夏に向けての撮影が多いから、ピーマン、茄子、オクラも使わなければならない。
ピーマンは皮が厚くて固かったし、オクラはフィリピン産だった。
撮影が終わって、ちょっとリーダーとお茶を飲み、編集さんにいただいた豆乳で豆乳プリンを作る。
青じその塩もみ、にんにくしそ味噌も仕込む。
これは、来月の撮影用だ。
もう、充分頑張ったので、今日は何もしないと心に決める。
今から図書館に行ってきま〜す。
夜ごはんは、豆腐入り味噌うどん(スイセイ)、豆腐入り味噌雑炊(私)、まぐろと真鯛の刺し身(撮影残り)。
図書館で借りた本「(ふつうじゃない人をめざした)シーダー・B・ハートリーのまるきり嘘ではない話」を読んでいる。
オーストラリアのマータイン・マレイという人の新刊だ。
おもしろい!

●2004年3月23日(火)曇り、寒い

寒い・・。
2時からは打合わせ。
サクサクッと終わる。
明日の撮影用の買い物に出たのだが、寒いし荷物は重たいしでぐったりと帰って来た。
冷えて足腰が痛いのだ。
近ごろ、私は自分の体調や気分について、よく観察するようになった。
店で働いていた頃は、休むわけにいかないから、体調や気持のテンションを思い込みで上げてから出掛けないと、動けなかった。
それは、人に雇われて働くということで、自分の名前の看板で仕事をするというのは、こういうことなのかもっ?て思う。
体の芯が冷えてなかなか温まらないので、布団にもぐる。
そして寝てしまう。
夜ごはんは、焼き肉(玉ねぎ、にんじん、ピーマン、キムチ、サニーレタス巻き)、ワカメと大根と豆腐のスープ、玄米。
フライパンで焼き肉を焼いて、台所から焼き立てを運びながら食べた。
スイセイは久々の牛肉なので、かなり嬉しかったみたい。
風呂にゆっくりと浸かって温まる。
寝室で電気ストーブをつけながら、洗濯物をたたむのって幸せだな(もう今日は何もしなくてもいいというシチュケーションで)。
さっきスイセイの部屋を覗いたら、次の発明品を作っているらしく、背中が没頭していた。
板に円形の刃がついていて、金属の棒もくっついている。
何だか分からないが、質問するとスイセイは長々説明をするのが分かっているので、私は何も聞かない。

●2004年3月22日(月)雨、寒い

耳の中に綿が詰まっているような感じで、布団の中で惰眠をむさぼる。
雨が降っているし、寒いから、きっと気圧が低いんだろう。
こういう日は放っておいたらいくらでも寝てしまいそうなのを、えいっと起きる。
12時です。
今日は夕方からりうが来るので、それまでにひと仕事しておかないと。
レシピ書きや、次の「天然生活」のメニュー出し、できたら原稿書きも始めよう。
買い物にも行かないと。
夕方、買い物に出たが、真冬のような寒さでだった。
桜が、半開きのまま、雨に濡れていてかわいそうだった。
さっき、信州の方からメールがきていたが、今日は雪だそうだ。
夜ごはんは、自家製ざる豆腐、手羽元と小松菜の中華煮(圧力鍋で、酒、しょうゆ、オイスターソース、酢で手羽元を煮、やわらかくなったら小松菜を加えてあんかけに)、白菜の塩もみサラダ(おかか、レモン汁、ごま油、しょうゆひとたらし)、玉ねぎとワカメの味噌汁、玄米。
全部食べ終わり、味噌汁を飲み終わってから、「あー、うまかった」とスイセイは言った。
私とりうは、豆腐を食べながら、鷄肉を食べながら、「おいしいねー」といちいち言った。
りうは、相変わらず爽やかな奴であった。
夜ごはんを思いっきり食べて、雑誌を読みあさり、風呂に入って、雨の中を合羽を着て帰って行った。
無印のパジャマ(私とおそろいの2着)と、シャウエッセン(ソーセージ)1袋を持たせてやる。

●2004年3月21日(日)晴れ、風はないけど肌寒い

外がすごく静かだ。
工事の音もしないし、車の音もしない。
今日は連休の二日目だからだろうか。
ハヅキの赤ん坊を見に行く。
てくてく歩きながら、スイセイとの会話。
「明日はまた寒くなって雨じゃって」「ふうん。いやだけど、でも清水さんの畑のためにはいいよね〜」と私。
「ほいじゃが、晴れでも嬉しいし、雨でも嬉しいっていう考え方はええの」とスイセイ。
ハヅキの赤ん坊は色白で、唇はピンクで、女の子〜っていう感じだった。
いちばん末の妹が、無事玉のような女の子を産みました、っていう感じ。
しおりちゃん一家も来て、暗くなるまで病室でいっしょに過ごした。
その病室は、しおりちゃんが和楽を産んだ部屋だ。
部屋の中が暖かいから窓ガラスが曇って、一瞬私は眩暈がするような、全員が家族のような、ふらっと幸福感がきた。
永谷、しおり、和楽、スイセイと私で軽く飲みながらご飯。
家族団欒っていう感じ。



日々ごはんへ めにうへ