2004年12月上

●2004年12月10日(金)快晴

昨夜は、3時半まで本を読み耽った。
『お縫子テルミー』は、文句なしに素晴らしかった。
ものすごく続きが読みたい、テルミーの世界にもっと浸っていたい、と思わせる。
なので、もう一回読む。
他の作品も1冊読んだが、あまりにテルミーが良さすぎて、残るものはなかった。
お昼に、比内鷄スモーク(きりたんぽセットの詰め合わせで、ちよじの実家にいただいた)のチーズトーストを食べる。
ポカポカと、暖かい陽射しを背中で受けながら原稿を書き、仕上げてお送りすると、もう陽は陰り初めているのだった。
まだ4時だというのに・・・・。
今夜は、8時から『千と千尋の神隠し』をやるので、早めにごはんを作る予定。
昨夜から準備しておいた、みどりちゃんの伝言レシピの稲荷寿司だ。
夜ごはんは、稲荷寿司(らっきょう、ちりめん山椒、青じそ、白ごま)、キャベツ、クレソン、にんじんのコールスロー、白菜と聖護院大根のお汁、たくわん。
『千と千尋の神隠し』を、初めてちゃんと通して見た。
おもしろくてたまらなかった。よくできているなー。
水の上を電車が走るシーンが、とても良かった。
そんなことは現実にはあり得ないのに、その景色や音、風の感じや、うら哀しい空気が、知っている感覚のように、実感として伝わってきた。
たぶん、こんな場面を私は夢でみたことがあるんだろうし、全人類的に、皆夢の中で経験していることかも。
うまいなー、宮崎駿。

●2004年12月9日(木)曇り、寒い

いかにも冬らしい天気だ。
起きてすぐにお茶を煮出し(ほうじ茶とふるさと万年茶)、とりあえず水筒に入れるのが最近の日課になっている。
午前中、寒い中をバイク便のお兄さんが配達に来る。
バイク便のお兄さんて、どうして皆感じがいいのだろう。
今日の人はちょっと伏し目がちで、だけど丁寧で、顔が可愛かった。
ハンコを押して受け取る時、いつも何かひとこと言いたくなる。
「寒いのにたいへんねー」とかって。
早く、そういうことが温かく言えるようなおばちゃんになりたいものだ。
お昼に、しいたけ入りの温かい蕎麦を作る。
午後からはコラムを書き始める。
今回は、真冬の韓国の話なので、ストーブもつけずにやる。
夕方図書館へ、化粧もせずに、帽子を目深にかぶって行く。
気になっていた本をみつけました。
『お縫子テルミー』と、『みちこのダラダラ日記』だ。
向かいのコンビニで、柿の種と牛乳を買って帰る。
夜ごはんは、れんこんのナンプラーきんぴら、聖護院かぶらと椎茸の含め煮、塩豚のシンプル焼き(ねぎ添え)、聖護院かぶらとクレソンの柚子風味サラダ、玄米。
味噌汁はなしだ。
スイセイはテレビに夢中で食べていて、味も関係ないみたいにもりもり無言で食べていて、ちょっと私はムカついた。
「おいしいねー」とわざわざ言って、気をひきながら私は食べる。

●2004年12月8日(水)快晴

2時からインタビュー。
実は今、パソコンに向かって日記を書いているところを撮影されている。
あまり気にせず、書いています。
ふと窓の外を見ると、3本の木のうちの2本がすっかり裸になっている。
銀杏の木も、つーんとまっすぐに立っているだけで、黄色い葉っぱは数えるほどだ。
ここしばらく、私は木を見ていなかったのかな? それとも、ここ2日くらいの間にこうなったのか。
昨夜は、あまり熟睡できなかった。
昨日見た人体標本の、腸やら胃やらの質感みたいなものが、ずっとイメージの底にあって、それを不快に感じながら寝たり覚めたりしていた。
けっこうショックだったのかもしれない。
人体自体は、あんがいあっけらかんとしていたが。
変な格好(踊っていたり、弓を引いているのもあった)をしていたり、変な顔の爺さん(たぶん)が、散歩の途中みたいに膝を曲げていて、そこからピカピカの金属がのぞいていたり。
だけど、それを見ている頭の方では、考えが暴走しそうになる。
だって目の前にあるのは、作り物ではなく、本物の死体だから。
だからきっと、皆お喋りしながら気を紛らわさないと、見ていられないのだ。
うーん。
出口近くで、実際に触っても良いという標本が1体あり、皆、思い思いに筋肉など触っていたが、私は思い切って玉袋をつまんでみた。
だって、あんな半端な場所から、しなびたお守りの袋みたいなのが2個ぶら下がっているのだ。しかも、左右対称ではぜんぜんない。
本当はおちんちんをつかんでみたかったのだが、それは我慢した。
でもいろんな意味でおもしろかったな。
ちょっと、体に対して新しい考えが吹き込まれた感じ。
でも、どうしても笑いが残るのは、なんでなんだろう。
スイセイは、サンの新しくできる店に、自動ドアの発明品をとりつけに行っている。
夕方帰って来て、「ごはんだよー」と呼びに行くと、即座に「カレーライスかの?」と聞かれる。
残念でした、今夜はエビチリです。
夜ごはんは、エビチリ白菜、ゆでブロッコリー、めかぶ、椎茸ときりたんぽのお汁、玄米。

●2004年12月7日(火)晴れ、夜になってぐっと冷え込む

1時には家を出て、有楽町へ。
『人体の不思議展』をスイセイと見に行った。
見ながら、いろいろなことを思った。
見ている人たちの会話が、けっこうはっきり聞こえてくるのも、おもしろかった。
「すごいわねー、あらいやだわー」と、独りごとを言いながら見ているおばさんもいた。
ひとりで見るのが心細いのだ。
誰かに話かけながらでないと正視できない、という気持ちもよく分かる。
じっと見ていると、つい奥深くのことまで考えてしまいそうで怖いのだ。
自分の胃の辺りを押さえながら、胃の標本を見ている人もいた。
最後の方で、仰向けになった人の輪切りがきれいに並べられているのを見て、「パン屋さんみたいだわね、なんて言ったら怒られるかしらぁ」と、お洒落をしたおばさん同士が華やかに笑っていた。
肝臓のところで、スイセイが「レバーじゃ」と言った時、タブーな言葉の気がして、周りに聞こえたかしらとちょっとドキッとしたが、次に見に来た女の子も、「あっ、レバー」と、堂々と言っていた。
お土産売り場で、骸骨のキーホルダーはもちろんのこと、脳のキーホルダーや、ノックする部分に脳みそがついたシャープペンとか売っていた。
骨密度と脳年齢を計る部屋があって、中でけっこう大勢の人たちが真面目な顔をして待っていたりして、何だか変な感じがした。
人体を馬鹿にしているんだか、おごそかに思っているのか、よく分かんない。
それから青山に出て、「ナディッフ」に行ったり、下田直子さんのバッグを見に「ディーズ」にも行く。
吉祥寺に帰ってきて、ダメもとで本屋を捜したら、『幸福論』がありました。
「風邪をひいたわたしがなぜいいか。幸福の断片を味わう生き方!」と、帯に書いてある。
これで、著者がお医者さんだというのも興味深い。
肉屋で牛肉の切り落としと豚肩ロースの固まりを買ったが、レバーの固まりと、豚バラの固まりからは、やっぱり目を逸らしてしまった。
夜ごはんは、肉豆腐(ごぼう、糸蒟蒻、牛肉、焼き豆腐)、クレソンと芹のお浸し、鰤の刺し身、なめこ汁、玄米。
食卓を見て、スイセイは「おー」と叫んだ。
好物ばかりだから嬉しいのだ。

●2004年12月6日(月)晴れ

読者さんからのメールで、「高山さんは、ごはん作りと読書と睡眠で、自分の立ち位置の修正をしていらっしゃる」というのをいただいた。
自分では無意識にやっていることだから、考えてもみなかったが、そうかーと、とても納得しました。
それで、そんなことを思いながら、今日もまたふくふくと12時まで寝てしまった。
目が覚めてからは、『高山なおみの料理』の撮影状況を、丹治君が写したビデオを寝ながら見る。
このビデオは、何度となく見ているが、だいたい元気がない時に見ることが多い。
大好きな人たちが写っていて、見ていると、何だか頭を撫でられている気持ちになる。
今日は、別に落ち込んでいる訳ではないけれど、多分ぐっと力を溜めているのだと思う。
胃がムカムカするのは、昨夜寝る前にふりかけご飯を食べたからだが、それが治まるまでずっと横になっていた。
別に病気ではないけれど、もしかしたらこれは気持ちの病気とも言えるのだ。
とにかく休憩、休憩。
夜ごはんは、スイセイが外で食べてくるそうなので、手羽先、キャベツ、かぶ、長ねぎのみそスープだけ作った。
あとは納豆、おから、玄米。
夜、スイセイが腹へったと言うので、残りのスープに牛乳で洋風にし、きりたんぽを入れてやった。
きりたんぽって、グラタンにしてもおいしいだろうな。
オニオングラタンスープにも合うだろう。

●2004年12月5日(日)ピカピカの快晴

昨夜の台風はすごかったから、今朝はピッカピカだ。
ベランダに、銀杏の黄色い葉っぱがいっぱい散らばっていた。
12月にもなって台風だなんて信じられなかったが、窓を開けて昨夜は何度も確かめた。
清水さんの畑、大丈夫だろうか・・・と思いながら。
酔っぱらった頭で。
昨夜もまた、とても楽しい夜だった。
あんまり飲まないようにしようね、と交わしていた約束はあっけなく破られ、見る見る酔っぱらっていくスイセイ。
私も梅酒なんか飲んで最初は権勢していたが、つい泡盛にいってしまった。
川原さんは、そんなに飲んでないのに、いいノリだったな。
今、彼女はエレカシの宮本君に(電撃的に)ぞっこんなので、何かとエレカシ話にもっていく川原さん。
今度、仙台と大阪のライブにも行くのだそうだ。
エレエカシのCDがなかったから、スピッツ、オザケンをかけ始めた頃あたりからまたコーラス・タイムになり、ベンチの上に立ち上がって皆で歌った。
「肩を組もうよ」なんて、川原さんが言い出したりして。
台風の最中に。
5時くらいまで盛り上がっていたが、急に眠くなったので、中野さん、水野君、川原さんは泊まった。
ちよじとヤノ君は、近所なので台風の中を帰って行った。
ところで今はもう夕方だが、まだパジャマを着たままでいる。
朝ごはんに、スイセイは自分でうどんを茹でて食べていた。
私はお腹が空かない。
『まる子』までにまだ時間があるから、それまで寝ようか、どうしようか迷っているところだ。
すっかり寝てしまった。
起きたのは7時半。
ちよじの実家から、また今年もきりたんぽセットを送ってくださり、8時頃ちよじが届けてくれた。
なので、夜ごはんはきりたんぽ鍋。
長ねぎも、セリも、きりたんぽも、紙で包んである昔ながらの包装のきりたんぽセット。これは、ちよじの実家で、昔から冬になるとお取り寄せしている、秋田の老舗のもの。
比内鷄も、野菜類も、本当に品が良いのがよく分かる。
今年もまたおいしく、ありがたくもったいない気持ちで食べました。
そう言えば、昨夜の鷄ともち米のお粥も、スイセイはとてもおいしかったそうで、昨夜何回も褒めてくれたが、今日になってもまた褒めてくれた。
スイセイに褒められるのが、私はいちばん嬉しい。

●2004年12月4日(土)曇り、夕方から雨

布団の中でだらだらし、夢の中に半分浸りながら、ひとりの時間を過ごす。
スイセイは朝から出掛けているので、2時半まで飽きずにそうしていた。
最近私は、自分のやりたいことについて、考えがまとまった。
「本当のことが知りたい」。
ただ、これだけ。
この世に本当のことなどあるかどうか分からない。
誰かが言ったから、誰かの本に書いてあったから、誰かが修業して到達したことだから・・・ではなく、自分の五感(第六感も第七感も)だけを頼りに、この世界の本当が知りたい。
これは大袈裟なことではなく、料理についてもそう思っている。
だから発見、発明の毎日だ。
さて、今日は7時から川原さんたちが来てごはん会なので、いそいそと準備をしている。
丸鷄を半分に切って、塩とおろしにんにくをすり込み、酒と水で今煮ているところ。
途中からもち米も入れて、ほんのり韓国風だ。
残りの半分は、にんにく、粒こしょう、唐辛子、ナンプラー、はちみつ、ごま油をすり鉢でペースト状にし、肉にすりこんでマリネしている。
これはオーブンで焼こうと思う。
柚子味噌も作った。
料理をしながら気がついたが、こんな風にご馳走を作るのは、仕事以外では久々のことだ。
(仕事でないと、なんて自由に作れるんだろう)と思ってしまった。
案外、がんじがらめになっていることに気がつきました。
まあ、仕事は大サジいくつの世界だし、そこから発見もあるので仕方がない。
けれど、もう少し枠を外して、自分の感覚をぐずぐずに解き放してみたい。
来年の抱負はこれだな。
ところで最近、タカシ君のサードアルバム(見本版)を、毎日くり返し聞いている。
気に入ると、そればかりずっと飽きずに聞き続けるのが私の癖だが、このアルバムは、聞けば聞くほどどんどん好きになってくる。
「男の子と女の子」なんか、昼間の天気がいい時に外を見ながら聞いていたら、だらだらと涙がこぼれました。
くるりのもすごく良いけど、タカシ君のも全然別な感動があって、とってもいい。
「明日へゆけ」を、星野君が好きだというのを聞いてから、私も伝染して、何だかすごく好きになった。
デザイナーのモッ君が、くるりの一番新しいアルバムの1曲目が好きで、何回もくり返し聞きながら、じーっと心を傾けている真剣な顔を見た時にもそうなった。
好きが伝染する、と言うかなんて言うか。
人が好きだと思っていることって、その気持ちは、とても純粋で綺麗なエネルギーだ。
だから、(星野君が好きなんだよな)と思って聞いていると、星野君の好きエネルギーに引っ張られて、自分まで好きになってしまうのだ。
夫婦や恋人同士の好みが似てくるのも、こういうことなのかもしれない。
ミーハーかもしれないけど、それって幸せなことだなと思う。

●2004年12月3日(金)晴れ

ばななさんの『なんくるない』、すごく良かった。
今はもう夕方だが、朝起きた時からずっと余韻が残っていて、にやにやしてしまう。
体の中に、沖縄が入ってきた。
沖縄に着くたびに、毎回、何度も何度も感じていたこと。
東京の暮しをひきずってやって来た自分に、「あー、これだった」と思わせる、考えることや、言葉を喋ることがばかばかしくなるような気持ち。
何かを想っていても、ついでっかい景色の方に引っ張られて、頭の中がカラッポなんだけど、全部を分かっているような気持ち。
泣きたいわけではないのに、とめどなく涙が溢れてくる感じ。
自分の中にも桃子(主人公)の部分があるから、めちゃくちゃ共感した。
共感なんてものではない。同化という感じ。
4時から『きょうの料理』の打ち合わせ。
企画の立て方が、無理がなくて、とってもいいなと今日もまた思った。
私のやりたいことを、じゅうにぶんにすくい取ってくださる。
ありがたいお仕事だ。
夜ごはんは、塩鮭、おから(舞茸、にんじん、ごぼう、こんにゃく、ちくわ入り)、牡蠣 酢、にんじん塩もみ、スーパーのコロッケ(千切りキャベツ)、玄米、なめこの味噌汁。
夕方、スイセイがアムプリンを買ってきてくれたのが嬉しくて、1個をひとりで食べてしまった。
そのおいしかったこと。
なので、夜ごはんはほとんど食べられなかった。
しかも食べながら、猛烈な眠気が。

●2004年12月2日(木)快晴

朝、トイレで目が覚めて、これからの予定のことを布団の中でぼんやり考えていたら、寝ていられなくなった。
ワクワク、ソワソワする気持ち。
今日から私の師走が始まった。
洗濯をし、部屋を掃除して、「諸国空想料理店」のゲラ校正を気合いを入れてやり始める。
夕方には仕上げて、宅急便でお送りする。
この頃は、4時半にはもう暗くなるのだな。
5時半なんて、もう真っ暗だ。
買い物の帰り、木枯らしでとても寒かった。
枯れ葉は、早く木から離れたがっているみたいに、バサバサと落ちまくっていた。
「すり鉢教室」のレシピも書き、プリントアウトもして準備した。
夜ごはんは、鰈の煮つけ(春菊添え)、タコの刺し身、大根の塩もみ、めかぶ、大根の味噌汁、黒米入り玄米。
デザートは栗のロールケーキ。
鰈の煮汁の残りを入れて、明日はおからを作る予定。
前に読んだぎんさんの料理本に、「魚の煮汁でおからを炊くとおいしい」と書いてあったような気がする。
いや、別の本だったかな?。
今日で全部返却したので、そろそろビデオ週間は終わりにしよう。
ばななさんから、新刊の『なんくるない』が届いたのが超嬉しいので。
今夜は早めに風呂に入って、久々に読書の旅に出ます。

●2004年12月1日(水)晴れ、寒い

3時から本の打ち合わせ。
赤澤さんと丹治君は、私のいちばんの担当編集者なので、何かとお会いしているが、割りあい久しぶりにお会いした。
ふたりとも、元気そうで何より。
というか、会うとついごはんを出したり、お酒を出したりしたくなるのだが、丹治君はこの後何かお仕事があるらしいので、さくっと終わらせた。
12月だものなー。
夜ごはんは、味噌ラーメン(スイセイ)、焼きうどん(私)、ワカメのわさびじょうゆ、ふぐの一夜干し、玄米ごはん(私)。
という変なメニューでした。
ラーメンとうどんには、炒めたもやしとニラが、それぞれ入っている。
買い物にも行かなかったし、すごい手抜きメニューだが、毎日ちゃんとしたごはんが続くと、たまにこういうごはんが食べたくなるものだ。
早めに風呂に入り、ビデオ三昧。
『ネル』と、コメントの仕事がきている『スーパー・サイズ・ミー』を続けざまに見る。



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