2005年4月上

●2005年4月10日(日)晴れ、風が強い

晴れていて気持ちいいが、風があまりに強いので、窓を開けていられない。
桜のころって、こういう日が必ずある気がする。
きっと今ごろ、花弁は散りまくっているだろうな。
午後から、また気を引き締めて、『日々ごはん4』の校正をやる。
時々、窓を開けたり、お茶を沸かしたりしながらやる。
夜ごはんは、鷄の唐揚げ、キャベツとクレソンの塩もみ、ごぼうと人参のナンプラーきんぴら、浅蜊の潮汁、玄米。
最近、ゴッホの番組をよくやっているが、なんだかそのたびに哀しい空気がテレビから流れてくる。
ゴーギャンとゴッホの関係のことや、皆して口を揃えて哀れみたいに言うが、もっともっと違う見方はないのだろうか。
だいたい、事実を探って実証することが、絵とどういう関係があるのだろう? と私は不思議に思う。
どんな気持ちで描いていたのかなんて、教えて欲しくない。
見る人それぞれがゴッホのことを想い、感じていればいいだけなのに、って思う。
さて、これから風呂に入って、『ウルルン』を見る予定。

●2005年4月9日(土)晴れ、暖かい

12時まで寝て、洗濯をする。
ヒラリンとスイセイは、アムプリンの朝市に朝早く出掛けて行った。
布団は、1日中敷きっぱなし。
風呂にも入らず、パジャマのままで一日過ごす。
みどりちゃんの本の原稿を、布団の上にかしこまって何度も何度も読み、涙がにじむ。
花粉のせいで鼻水が出っぱなしだし、二日酔いもあって、ずっとぐずぐずしていた。
けれど心の底には、ワクワクと楽しく、あったかいものが座っている。
それは、みどりちゃんの原稿のせいだ。
これは、6月の初めにメディアファクトリーから発売される、みどりちゃんの3冊目の本の一部だが、きっと、すごい本になると思う。
内容については時期が来ないと言えないけれど、これは高橋みどりでないとぜったいにありえない視線だし、書けない文章だし、写真も、またありえない。
私の料理の写真を撮ってくれたのは、倫子ちゃん。
こんな風に倫ちゃんの目を通して、写してもらえて、私は涙が出る。
私の料理が、ただの料理になって、生きている中の当たり前の美しい景色のひとつになっている。
スイセイにも原稿を読んでもらい、ふたりでまたひとしきり盛り上がる。
「えかったのぅ。みいは幸せじゃのう」。
青い空を眺めながら、風に揺れるパンツや靴下を眺めながら、またもうひと眠りする。
今日のスイセイのお土産は、アンティークのアイロンと、エバジャム(きんかんの)、エバ子の作ったベーグル、そしてアムプリン。
布団の中で、アムプリンをまるまる1個ひとりで食べる幸せ。器にも入れずに。
夜ごはんは、いかの塩ワタ焼き(昨日のうちに、ワタにも身にも塩しておいたのを、オリーブオイルで焼いた。スイセイに大好評)、水菜と豚シャブのおひたし(ポン酢とごま油)、浅蜊の味噌汁、玄米。
浅蜊は、身が貝の縁ぎりぎりまで太っていて、肉みたいにおいしかった。

●2005年4月8日(金)晴れ、穏やか

11時から撮影。
品数も、カット数もたくさんだったので、タカタカと作っていった。
注文の多い食堂を、ヒラリンとふたりで切り盛りしているみたいな感じで。
いつもの様に自然光の撮影ではないので、せっかくこんなに晴れているのに、窓を締め切ってやらなければならいのが、ちょっと辛かったけど。
みどりちゃんのスタイリング部屋に行くと(私の仕事部屋)、窓をいっぱいに開けて、風に吹かれながら、気持ち良さそうにアイロンがけをしていた。
「今日はいい天気だねー。なんか、ずっと穏やかで安定してて、いい人っていう感じの天気だよ」なんて言いながら。
みどりちゃんの周りは、いい匂いがほんのりしていて、撮影の合間にその部屋に行くのが、心底ホッとできる時間でした。
なんだかんだと6時近くまでかかってしまったが、肉体労働の心地よい疲れだ。
終わって、ヒラリンにビールを買ってきてもらい、ふたりで飲む。
最近ヒラリンは、引っ越しをしたり、家族の具合が悪くて実家に帰ったりしていたから。
なのに、そういう気持ちのバタバタや緊張を、ヒラリンてぜったい私に見せないし、仕事に持ち込まない娘だから。
そのうちにスイセイも参加し、私はみどりちゃんの本の原稿をチェックしているうちに、写真も、文章も、あまりに素晴らしいので、どんどんテンションが上がってしまう。
とちゅう、ビールがなくなって、三人で花見をしながら散歩した。
本当に今が満開で、どの桜もボハッとして、見ていると鼻が詰まりそうな感じ。
桜並木の街道はいつもより車が多くて、運転手も助手席の人も、すべての人が皆、同じ様子で上を見ているのがおかしかった。
丹治君にわざわざ電話をし、「今から家に来ませんか?」とお誘いもした。
本当に丹治君はやって来て、3時くらいまで皆して盛り上がった。
ヒラリンは泊まった。

●2005年4月7日(木)快晴、暖かい

ぽかぽかだ。
あちこち掃除をし、ワックスもかける。
風が強いので、花弁が舞い込んでくるのを、何度かつまみ出しながら。
1時からは打ち合わせ。
さくっと終わってひと仕事し、街へ買い物に出る。
桜は、本当に満開だし、欅の木も、すっかり若葉が出そろい、上の方でそよいでいる。
ここ3日ほど外に出ない間に、世の中はこんなにも春爛漫だったとは。
半そでの人もたくさんいた。
しかし、花粉もたくさん飛んでいるのか、鼻水は出っぱなしだし、目がかゆくて仕方ない。
とちゅうで、ギャラリー・フェブの引田さんの奥さんにお会いし、「高山さん、マスクしないとダメですよー」と言われる。
奥さんは、すっかりマスクで装備していらした。
帰ってから、私もマスクをして近所のスーパーへ買い物に行く。
そして、マスクの威力に驚きました。
桜並木が素晴らしいので、皆のろのろと、上を見ながら歩くから、自転車がぶつかりそうになる。
私も、つい遠くを眺めたりしているから、後ろから来た自転車に追突されたりして。
けれど、街と違って人が少ないし、のんびり、ぼーっとした空気だ。
マスクをしているせいか、世界がぼんやり厚みがあり、この明るい夕方にビールをくーっと飲みたいような気分になる。
しかし、帰ってからもデスクワークを3種類くらいやり、テキパキとファックスも送った。
そして、あっと言う間に日暮れとなる。
夜ごはんは、ソーセージと春キャベツのソース炒め、鰯の塩焼き(ポルトガル風。オリーブオイルで焼いて、スライスオニオンを添え、レモンと粗塩で食べた)、新わかめ、豆腐と葱の味噌汁、明太子、玄米。
自分が出ている『きょうの料理』を、スイセイとドキドキしながら見たが、テレビの中の自分は、けっこう余裕だった。
ビデオに撮って、2回見る。

●2005年4月6日(水)快晴、とても暖かい

昨日よりもまた、さらに暖かい。
窓を開けても、部屋の中と外が同じ温度だ。
朝から、『日々ごはん4』のゲラが送られてきた。
ミルクティーをいれ、眼鏡や鉛筆を用意し、厳かな気持ちで始める。
この作業って、自分が田舎の子供で、毎回楽しみにしているワクワクするパズルを、東京の親戚から送られてくる……というのに似た気持ちになる。
毎日の夜ごはんメニューを抜粋して、上の欄に書き込んだり、平仮名にするか漢字にするか決めたり、句読点の位置を直したりする作業だ。
夕方まで、みっちりとやる。
なので、散歩に行くスイセイに買い物をお願いする。
今、帰ってきました。
桜が満開で、とても気持ちが良かったそうだ。
世の中では、今日は25度を越えたとか越えないとかで、大騒ぎなのだそう。
私は焦る。
明日にでも散歩に行こうかどうしようかな、でも、なんだかんだと忙しいんだよなぁ。
アムプリンの朝市にも誘われたのだが、どうしようか渋っていたら、「忙しい人には春は来ません!」と、スイセイは標準語できっぱり言い置き、部屋に戻って行った。
夜ごはんは、鯵の開き、カキ菜と人参の白和え、人参の千切りサラダ、とろろ芋、みょうがと葱の味噌汁、白いご飯。

●2005年4月5日(火)快晴

12時から打ち合わせ。
赤澤さんにお会いしたのは福岡取材振りなので、報告したいことが多々あり、お互いに喋り合った。
けど、打ち合わせもちゃんとやった。
1時から、編集の方も含めて打ち合わせ。
さくっと終わって、混ぜごはん(ドライカレーといり卵)を食べながら、またふたりで喋り合う。
赤澤さんからいただいたおいしいコーヒー豆は、ワニさんのじゃないそうだ。
鎌倉にある「ディモーシュ」というカフェの、オリジナルブレンドだそう。
私はいちども行ったことがないけれど、伝説のカフェらしい。
さて、3時には家を出て、パスポートの受け取りに行く。
今日のムーバスの運転手さんは、若いお兄さんで、爽やかな上、とても感じが良かった。
乗る時にも、ちゃんと目を合わせて「こんにちはー」と言ってくれる。
おばあちゃんが乗ってきた時には、「だいじょうぶですよ、ゆっくりで。ゆっくりでいいですよぉ」と、今にも立ち上がって手を貸しそうなくらいの、本当の声で言っていた。
それらすべてが、マイクを通して聞こえてくる。
乗っているお客さんも、足の悪いおばあさんを支えてあげたり、席を譲ってあげたり。
ムーバスって、知らない人同士なのに、乗っている間だけは家族みたいになる。
帰りもムーバスに乗ったが、こんどはとてものんびりしたおじさんだった。
「ちょっと、下がってくださーい。ドアが、閉まらないので」と、ひと言ずつゆっくり、ぜんぜん意地悪でない、おおらかな声で言っていた。
夜ごはんは、金目鯛の煮付け、たこ刺し、ねぎたこ(みどりちゃんの伝言レシピの真似)めかぶ、そぼろ納豆(市販)、にらとクレソンの炒め物、浅蜊の味噌汁、黒米入り玄米。
ところで、しおりちゃんにもらった京都の「いりごま」がおいしくてたまらない。
祇園の「村田商店」というところのらしいが、瓶にスプーンをつっこんで、おやつみたいにそのまま食べている。
今夜は、黒米入りの玄米なので、ごま塩をかけておこわみたいに食べるのが楽しみだ。

●2005年4月4日(月)晴れ

11時に起きた。
すっかり雨が上がって、杏の花弁が、ベランダにたくさん散っている。
杏の木は、あっという間に裸になってしまいました。
どんどん日にちが過ぎてゆく、今日この頃よ。
15日からフランスに行くので、なんとなしに落ち着かないのだ。
帰ってからの撮影の予定や、打ち合わせを前倒しにしたりして、スケジュールを組むのも難しい。
旅行から先は予定を何も入れず、まっさらにしておきたいところだが、そうもいかない。
何年ぶりかの海外なので、パスポートも新しくした。
というわけで、レシピ書きと、明日の打ち合わせの準備をやる。
旅行の前までに、あれをやってこれもやって……と、つい考えてしまうのは、年末の慌ただしさに似ているな。
スイセイが帰ってくるのを待って、昼ごはん(4時)に、昨日のロールキャベツの残りでスパゲティにする。
昨夜、夜遅く、NHKでイタリアの映像風景をやっていた。
ピザやらニョッキやらパスタがとても豪快で、皿の縁にべったりトマトソースがついていたり、あふれ出したりしていた。
それがとてもおいしそうで、作りたくなったのだ。
昼が遅かったので、夜ごはんは軽めに、豚しゃぶうどんにする予定。

●2005年4月3日(日)快晴、夜になって雨

天気予報は大はずれで、とっても良い天気。
一日中雨が降ると言っていたから、本でも読んで過ごそうかと思っていたのだが。
てきぱきと起きて、シーツや布団カバーまで洗濯をする。
今日もまた、ハルは足を投げ出して寝転んでいる。
本当に、お花見日和だ。
下の公園でも、家族3人が、こぢんまりとお弁当を食べている。
ハルは、うろうろとして、暇そうだなあ。
たまに、散歩中の犬が通りかかったりすると、走っていって、柵のこちら側から吠えるくらいだ。
休日にしようと思っていたが、『日々ごはん4』をもういちど読み直す。
そして、レシピ書きもやる。
今、5時半だが、根を詰めてやったので、鼻血が出そうな感じだ。
『まる子』を見て、のんびりとくつろごう。
今夜の『ウルルン』は2時間スペシャルで9時からだし、『情熱大陸』は装丁家の鈴木成一さんなので、見逃せない。
そういえば今日始めて、生ゴミがプーンと匂った。
これもまた、春が来たという印だ。
一日中、ストーブをつけなくても暖かかった。
夜ごはんは、ロールキャベツ(春キャベツでトマト味)、豆苗のおひたし、白いご飯。
ロールキャベツがとてもおいしくできた。
夜になって、大粒の雨が降りだす。

●2005年4月2日(土)薄曇り、だけど暖かい

杏もコブシも、満開だ。
こういう日を花曇りと言うのだろうな。
さて、『野菜だより』の最後の校正が終わった。
思い残すことはもうないが、娘が親離れした時のような、ちょっとそんな気分。
さあさ、今日もまた『日々ごはん4』の校正をやろう。
昼ごはんに、レタスたっぷりのサンドイッチを作った。
前に編集さんからいただいた、インドのダージリンを久しぶりにいれたら、やっぱりとてもおいしい。
最近コーヒーばかり飲んでいたから、この香りを忘れていました。
夕方までやってひととおり終わり、次回の撮影レシピを書き始める。
夜ごはんは、冷やしラーメン(試作)、ゆで餃子、かき菜と豆腐の炒め物。

●2005年4月1日(金)快晴

今日も、のほほ〜んとした天気だ。
昨日見た時にはまだだったが、隣の杏の花弁が、風に舞い始めた。
うちの杏は、まだ7分咲きくらいで初々しい。
去年、大家さんが枝を落としたので、スッキリ引き締まった枝ぶりだ。
11時半から『翼の王国』の撮影。
今日も、ぐぐっといい撮影会だった。
1時には終わり、『野菜だより』の最終ゲラチェックをやる。
熱いお茶をいれて気合いを入れながら。
買い物に行く時、桜並木を見上げたが、ほんのひとつかふたつ開き始めたところだった。
まだまだ冷たい風が吹いている。
夜ごはんは、焼き餃子、生キャベツの味噌添え、大根葉のおひたし(梅じょうゆ)、つみれとにらの味噌汁、玄米。
夜は、『日々ごはん4』の校正の続きをまたやる。



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