2005年6月上

●2005年6月10日(金)明るい雨

台風のせいでザアザア降りを予想していたが、霧のような雨が静かに降っている。
そういえば、水が欲しかったんだなあと思い出すような、しっとりとした雨だ。
空もわりと明るい。
これから夜にかけて、大降りになるのだろうか。
清水さんの畑はやっと夏野菜が出そろい始めたところだから、被害が心配だ。
たいしたことない台風だといいんだけど。
昼ごはんを食べてから、レシピ書きを集中してやる。
夕方5時までかかってしまった。
ヨガや腹筋をやりながらテレビを見ていたら、今日から梅雨入りだそうだ。
最近ぼよーんと幸せに暮らしているが、これでいいのだろうか。
なんとなく。
『日々ごはん4』も昨日で完全に手が離れたし。
でも後でまた、フランス日記を書こう。
昨日、やっと4日目のお昼くらいまで書けた。
これを書いていると、すぐにチーズが食べたくなったり、カフェオレが飲みたくなる。
ひとつひとつ思い出しながら書いていると、たぶん体が条件反射するのだ。
テレビを見ていて料理が出てくると、無性に同じものが食べたくなるのとたぶん同じメカニズムだろう。
というわけで、今夜のごはんは洋風にする予定。
ソーセージとベーコン入りトマトソースと、ブランダード(この間試作で作った干しダラとじゃがいものディップ)にチーズをのせてオーブンで焼く。スパゲティをゆでてオイルだけで和えて添える。サニーレタスとトマトのサラダ玉ねぎドレッシング。
ブランダードとスパゲッティは、意外な組み合わせでとてもおいしかった。
じゃがいもとパスタの組み合わせってどうかな?と思っていたけど、絡まりがよくて濃厚で、癖になるおいしさだった。

●2005年6月9日(木)曇り

「明日の雲は雨雲ではありません」と昨日の天気予報では言っていたが、さてどうでしょう。
杏の実が、ずいぶん黄色くなってきた。
そういえば、梅干しはまだ早いけど、そろそろ梅酒を漬けようと思う。
でも、今年はまだあまり出そろってないような気がする。
時期がずれているのだろうか。
昨日、梅干しを漬けるのを研究しているおじいさんがテレビで教えていたが、この人は、こうやると手間が省けるとか、そんなことばかりに重きをおいていて、なんだか無理があったなあ。
へたを取らずに漬け、梅酢が出てきたらざるでこして取る(全部は取りきれない)とか、ビニール袋の中で漬けて、途中上下をひっくり返すと塩が全体にまわるのが早いとか。
ひっくり返して瓶に押し込む時に、無理やりビニールを押し込むので、梅が崩れそうで心配だった。
おじいさんは、「ほーら、こんなに簡単。難しいことは何もない」と言うのが口癖になっていた。
大量に作るのだったらそういうことは必要かもしれないが、家庭で漬ける時には、手間をかけただけおいしく、かけがいのないものができるのだし、だいたい竹串でヘタとる作業というのは、楽しいことだと思うんだけどな。
作る側の都合で、食べ物の性質をねじ曲げてでも、おいしいものを作ろうとしたり、手軽にしてしまったりする料理の考え方が、私は嫌いだな。
これを書いている間に、見る見る晴れ間が出てきました。
天気予報のお姉さんは、正解でした。
スイセイはやっと体力がもどり、下の公園の水道で、砂だらけになったスニーカーや、いろんな道具を洗っている。
さっき覗いてみたら、子供連れの主婦の人たちが遠巻きに気にしている様子だった。
子供たちを遊ばせているから危険に敏感なのだろうが、「この人は何?、何のために?」という視線を送られているスイセイ本人は、まったく気がついていない様子。
私は昨日から再開したフランス日記を書きながら、ゴシゴシいうタワシでこするスイセイの音を聞いている。
夕方、ひさびさに『クインテッド』を見てみたら、オープニングの曲が夏バージョンになっていた。
やせるヨガをやりながら見る。
ベランダに出て、ヨガの深呼吸も真面目にやる。
シジュウカラが木のてっぺんに1羽だけとまって、よく通る声で鳴いている。
大家さんの庭の向こうの野っ原は、今はどくだみの花が真っ盛りだ。
夜ごはんは、また白和え(ごぼう、糸こん、牛肉に、今日は人参を加えてみた)、鶏とキャベツとアスパラと新にんにくのマスタード炒め、バイ貝のしょうゆ煮、鮭の西京漬け、葱だけの味噌汁、玄米。

●2005年6月8日(水)曇りのち晴れ

今朝もまた大家さんが水まきをしていて、ハルがその辺りをうろちょろしていた。
用事をしているお母さんのエプロンの端っこをつかんで、傍から離れない、小さな子供みたい。
お母さんの動きを追っているハルの目つきは、純真無垢な眼差しだ。
11時から撮影。
5品だったので、2時前には終わった。
日常的にいつも作っている料理ばかりだったし。
カメラマンの野口君が、フィッシュマンズのベスト版をかけてくれた。
やっぱり、すごくいいから買おうかなあ。
じっくりと、ひとりではまって聞きたいものなあ。
終わってからヒラリンとお昼を食べ、美容院に行く。
「おいしい魚屋」さんに寄って、鮪の中トロ、鰹の刺し身、バイ貝のしょうゆ煮、自家製塩辛、鮭の西京漬けを買う。
スイセイが昨日ですっかり力を使い果たし、バテバテみたいなので、今夜は好物ばかりにしてやろう。
八百屋さんにまわって、やまと芋とぬか漬けをいろいろ買う。
白瓜、きゅうり、蕪、大根、人参、谷中しょうがのぬか漬けなんかも珍しいので買った。
夜ごはんは、鰹と鮪の刺し身、白和え、漬物盛り合わせ、冷やしトマト、とろろ芋、玄米。

●2005年6月7日(火)曇り

ぼんやりした天気だけど、時々晴れ間ものぞいたりして。
今朝スイセイは、7時半に迎えが来て出かけて行った。
さて、計画通りにうまくいっているのでしょうか。
今はまだここには内容のことを書けないが、とってもナイスな企画なのです。
夏に発売される雑誌にその様子が載るので、楽しみにしていてください。
というわけで、スイセイがいないと時間がぐーんと伸びる。
雑誌に載っていたやせるヨガをやって、昼ごはんを気ままに食べる。
掃除をし、ワックスも塗り出したところで、ストーブがまだ出ていることが急に気にかかり、押し入れにしまう。
それと交代に、扇風機とすだれを出して夏支度だ。
すだれの埃を掃除機で吸いながら、この間しまったのがつい最近のことだったような気がするなあと思う。
というか、出したのもわりと最近なような気がする。
と、毎年そんなことを思っている。
こういう時、1年はあっという間のような気にいつもなるのはなんでだろう。
夜ごはんは、生ソーセージと新じゃが炒め、サニーレタスとトマトのサラダ。

●2005年6月6日(月)快晴

スイセイが病院に行くので、私もいっしょに起きてしまった。
あまりに天気が良くて、寝ていられない。
畳の部屋で、本についてのメニュー絞りをやる。
いろんな資料を広げて、おこんじきさん(ホームレスの人みたいに、自分のあるだけの荷物を部屋いっぱいに広げて考え事をする)をやっている時、その部屋が私の頭の中になる。
私の中では、どんどん本のイメージができ上がっている感じ。
埋もれていた土を払って、輪郭が見えてきたような、そんな感触だ。
静かにわくわくしている。
次の撮影のレシピを書き上げ、図書館にも行った。
天気が良いとなかなか日が暮れないから、それでなくても1日が長いような気がする。
夜ごはんの支度をしながら、試作も2品やった。
赤魚の粕漬け、ニラの塩炒め、新ごぼうと糸こんの炒り煮、しめ鯖、納豆、豆腐と葱のみそ汁、玄米。
夜、風呂から上がってベランダに出ると、今日もまたほんのり蚊取り線香の匂い。
スイセイは、明日雑誌の撮影があるので、ものすごく張り切っている。
昨日も一昨日もすごかったが、今日なんか知恵熱が出るんじゃないかというくらい、あちこち動き回って支度をしている。
玄関に明日持っていく荷物をまとめてあるが、ぷっ、と笑える。
スイセイの発明品の数々に、ベトナムで買った編み笠だ。

●2005年6月5日(日)晴れ

ひさびさにせいせいとした晴れ。
ハルも前脚を揃えて腹ばいになり、布団を干している私の方をいつもより長く見上げていた。
名前を呼んだわけでもないのに。
呼んだって、いつものハルなら耳を動かすだけで無視をするのに。
きっと今日は気分が良くて、余裕があるハルなのだ。
昨日、一昨日くらいから、スイセイが私のマックをバージョンアップする作業をしてくれていたが、ついにでき上がった。
今、それを試しながらレシピを書いていたら、画面が移り変わるのも、漢字変換の出方も、とても早い。
今までが何だったんだろうという機敏さだ。
りうからいらなくなったマックをもらい、さらにメモリも数倍に増やしたらしい。
画面の明るさも、文字の大きさまで違う。
りうのモニターは、最初は薄ぼんやりしていた。
昨夜なんか、文字がにじむのを我慢しながら作業をしていたのだ。
それを、スイセイがマックに切り込み(のこぎりで切っていた)を入れて、中のねじを操作し、すっかりクリアーな明るさに直してくれた。
さすがは発明家だ。
今はパソコンを捨てるのでさえ、5000円も払わなければならないんだって。
だから、スイセイみたいに素人でも機械を自分で直せる人は、すごく貴重だな。
今、いい風が吹いてきた。
風に吹かれながらパソコン仕事ができるのって、私にはすごくだいじなことだろう。
どれだけ性能のいいパソコンが使えても、締め切った部屋で、冷暖房がすばらしく効いた部屋でだったら、書く文章の種類も変わってくるだろうし、だいたいそんな状況でパソコンに向かうことが無理だろう。
蚊取り線香のにおいが、どこかからほのかに上がってくる。
夜ごはんは、欧風チキンカレー、コールスロー。
デザートは、井筒八つ橋本舗のちぎり餅だ。
きなこにニッキの粉が混ざって、甘すぎず、とてもおいしい。

●2005年6月4日(土)曇りのち雨

11時から「ソトコト」の撮影。
日置さんとみどりちゃんのコンビだ。
私がまだ「クウクウ」でバリバリにシェフをしていた頃、日置さんとみどりちゃんはすでに料理界で活躍していた。
「シュプール」なんかでちょくちょく誘われると、いっしょにやれるのが超嬉しくて、私は張り切って料理を作ったものだ。
その頃からのつき合い(たぶん、15年近くになる)だけど、なんか不思議。
今回も、みどりちゃんと日置さんでやりたいとお願いしてこうなったんだけど、あの頃からうんと変わったようでいて、ちっとも変わらないのだ。
家族というわけではないけど、戦友っていうのも言葉が厳しすぎて違うんだけど、仲間っていうのがいちばん近いんだろうか。まあそんな感じ。
煮込みものは昨夜作っておいたので、さくさくと進んだ。
4品だったし。
最後は、皆でおにぎりを握って撮影終了。
みどりちゃんのおにぎりは、ご飯粒がつぶれてなくて絶妙な握り具合。
その秘密が知りたくてじっと観察すると、腕に弾みをつけて握っている。
私はおにぎりの形を整えようとして手の平だけで握ってしまうが、みどりちゃんは手が揺りかごみたいになっていて、中でころころとおにぎりが回転し、気がつくと丸い形になっている。
リズムがあるし。
力はまったく入っていないそうだ。
3時前には終わり、買い物に行く。
帰りに、もう夕方なのかと勘違いするような薄暗さになった。
そして目に見えてどんどん暗くなり、パタパタと降り始め、夕立ちになった。
大急ぎであちこちの部屋の窓を閉めてまわる時、ふと幸福感が。
雨の音を聞きながら、本のメニューを書き出すのも心地いい。
薄暗いけど、まだまだぜんぜん遅い時間ではなく、夕暮れまでには時間がたっぷりあるからか。
学校がいつもより早く終わった日みたいな、そんな気分だった。
夜ごはんは、焼肉(牛肉、豚タンを塩焼きにして、青じそ、みょうが、ニラ、キムチをレタスで包んで)、なすの味噌汁(昨夜の残り)、おにぎりの残り。

●2005年6月3日(金)曇り

スイセイが出かけるので、味噌汁とご飯と納豆の朝ごはんを作る。
味噌汁は昆布だけの薄めのだしにして、自家製みそで作った。
この間しおりちゃんが、「自家製のみそを使った味噌汁は、だしじゃなくて水の方がおいしいんです。野菜の味もよくするし。マッキーに教わってやってみたらホントにおいしかったんです」と言っていたので。
本当にその通り!という旨さだった。
どうも自家製みそで味噌汁を作ると、くせの強い田舎っぽい味噌汁になるなとずっと思っていたのです。
納豆にしたのは、朝ごはんにいつも納豆を食べている家族のドラマをNHKで夜ずっとやっていて、最近続けて見ていたので。
さて、このところずっと人に会う日々だってので、ひとりの時間が欲しかった。
とも助にもらった青い山椒の実で、教わったように佃煮を作るが、レシピ書きにはまってしまい、(あれ、香ばしい匂いがする……)と思った時にはすでに焦げついていた。
大急ぎで火をとめ、水で洗い流したらどうにか大丈夫になった。
味はしっかり染みているので、水で洗ったことを言わなければ、こういうものだと納得できるくらいの味。
山椒の葉を入れたのも干からび度がほどよく、見た目にもいい感じだ。
スイセイは、ごはんの時喜んでいた。
夜ごはんは、真だらのソテー(エリンギ添え)、新ごぼうと糸こんの炒り煮、オクラのおかかじょうゆ、冷やしトマト、茄子の味噌汁、玄米。

●2005年6月2日(木)曇りのち雨

朝、しっかりめに掃除をする。
ここしばらく撮影がなかったし、家を空けていた時間も多かったので、なんとなしに部屋が荒んでいる気がして。
窓を開け、あちこち雑巾掛けをする。
本棚やテーブル、床の角が出て、すっきりと清まった。
12時から、「翼の王国」の撮影。
斎藤君と桃ちゃんが玄関を入ってきて、すーっとそれぞれが支度をし、撮影に入ってゆく感じ。
連載もそろそろ1年半になるが、阿吽の呼吸で動いている。
同級生が勝手に部室に集まって、クラブ活動をやっているような感じでもある。
撮影が終わって昼ごはんを食べ、これからの予定についてなど軽く打ち合わせをし、3時半くらいに終わった。
私はくーっと眠くなり、布団を敷いて横になる。
でも、すぐには眠れない。
このところ撮影が続いているので、テンションが高く、眠っているんだか起きているんだか分からないような睡眠だった。
深酒ではないけれど、2日連続で飲んでいたし。
しばらくかかってやっと眠りにひきずられ始めると、そのたびに広島の母ちゃんから電話があり(2回)、無理やり布団からはがされる。
母ちゃんの元気な声……。
夜ごはんは、玉ねぎ、にんじん、じゃがいものバター炒めの残りを、この間のビーフシチューの残りに加えてカレーにした。あとは、麦ごはんとゆで卵、レタスと海苔のサラダ。

●2005年6月1日(水)曇りのち晴れ、ほどほどに暑い

本の撮影1日目。
うー、楽しかった! と、今はそれしか書けません。
今日は、とも助弁当のキッチンをお借りしてやった。
いろいろな刺激を受けながら、料理を作った。
久家さんとの撮影は初めてではないが、あんなにわがままなカメラマンを私は知らない。
自分の写真に妥協しないところでは大賛成だから、私はぜんぜんオーケーだし、すごく触発された。
11時集合で、撮影が終わったのは6時前だったかな。
そして、シャンパンや赤ワインをいただき、9時半にはえいやっと帰ってきた。
とも助にも、ぼんわりじんわりと受けていて、これを書いている今も胸に広がっている。
ああ、本当に良い撮影だった。



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