2005年7月上

●2005年7月10日(日)晴れ

このところ、なんとなく床がじっとりして気になっていた。
やっと晴れたので、お昼にそうめんを食べてから、雑巾がけをしてワックスも塗る。
明日、みどりちゃんと「タミゼ」の昌太郎君が来るので。
りうも、昼間遊びに来るらしい。
玄関の床を拭いていたら、去年の梅醤油がたくさん残っているのを発見。
豚バラブロックを買いに行き、梅醤油と黒糖で角煮を煮込む。
昌太郎君は肉が好きだったよなーと思って。
『サザエさん』を見ながら、パリパリに乾いた大量の洗濯物をどんどんたたんでゆく。
今日のサザエさんは、風邪をひいていたようだ。
夜ごはんは、鶏レバーの醤油煮、サザエのつぼ焼き、タコ刺し、塩鮭、大根おろし、セロリときゅうりの梅和え、みょうがと葱の味噌汁、玄米。
これから原稿の仕上げをしてお送りすれば、今日の仕事は終わりだ。
昨夜、寝る前にMAYA MAXXさんの『キミのコトバを描いてみようか?』を読んだ。
途中でやめられなくて、朝方までかかったけど読み切った。
ぐちゃぐちゃと、自分を持て余していた若いころの自分を思い出したりしながら。
若い人たちは、とくにもの作りをしている人たちは、ぜひ読んだらいいと思う。
こんな本が世の中にあるなんて、まったくありがたいことだと私は思う。

●2005年7月9日(土)ずっと雨

だらだら日。
雨の音を聞きながら、いつまでも眠りをむさぼる。
降っても降っても降り止まず、雨に沈んでしまいそうな日だった。
昼間、仕事の電話でいちど起き、まるちゃんの天ぷらそばを作って食べる。
本を読んだり、またすぐに眠くなったりして。
夜ごはんは、スイセイがラーメンを作っていたのを、茶わん1杯ねだる。
水菜と卵も入った、喜多方ラーメンだ。
あとは、この間のローストポークを薄く切って、焼き豚風に辛子じょうゆ添え。
それと、清水さんの大きなトマトをひとり1個ずつ食べる。
昨夜は、とても楽しかった。
同じもの作りの人々が集まって、別に何を話すでもなく、ただ一緒にいるだけ。
ちっとも華やかなことなどなく、気取ったり気張ったりすることなど何もない。
岡戸さんが部屋に入ってくるまで、ろうそくを準備したり、ハッピーバースデイの歌を皆で練習したりして、ドキドキした。
いつもその中心にいるのはアリヤマ君。
真剣そのもので皆を仕切っている。
余計なことを言うと、怒られる。
ともすけが料理を作り、松長絵菜ちゃんがケーキを焼いて、鈴木るみこちゃんがクウネル君の着ぐるみを着た。
ケンイチ君がイカの着ぐるみ(岡戸さんがイカが好物だから)を着、アリヤマ君は胸毛を牧野君にマジックで描いてもらってホストの格好をし、学君はトランプで手品をした。
そしてスイセイは、岡戸さんへの手紙をスピーチした。
みどりちゃんはスイセイのスピーチで思わず泣いてしまい、私ももらい泣き。
ひさびさに倫ちゃんに会えたのも嬉しかった。
倫ちゃん、何だかスッキリとして元気そうだったな。
集まったのも夜の9時ぐらいだし、あとは特別に何をするわけでもなく、だらだらとワインを気持ちよく飲んだ。
そのうちに牧野さんがギターを弾き出して、3〜4人で輪を作り、フォークソングをいろいろ歌った。
時々アリヤマ君も弾いて、歌う。
そしてハモる。
皆でお金を出し合い、岡戸さんにプレゼントしたのはリムジンカー。
私たちも便乗させてもらって、3時ごろに帰ってきました。
リムジンって、外から見えないように、窓が黒いんですね。
そして、ドアを自分で開けられないのが不自由だった。
降りる時、「お兄さん、今日は長い時間待たせてしまってご苦労様でした。ありがとうございました」と、ついお礼を言ってしまう。
それが彼の仕事かもしれないけれど、私たちが上で飲んでいる間、彼はリムジンの傍らに直立不動の姿勢で、ずっと立っていたのだもの。

●2005年7月8日(金)曇り

国際ブックフェスティバルに行く。
アノニマが出店しているので。
広い会場にいろんな出版社が軒を並べていたが、アノニマはとてもアノニマらしかった。
そこだけ、涼やかな風がたまっているような空間。
それは、並べてある(これまでアノニマで出版した)本のせいなのだろうか。
誇示誇張のないレイアウトのせいなのか。
そして、そこに立っている丹治君や、スタッフの子たちのせいなんだろうか。
なんか、白っぽい空気だった。
色がついていないという意味です。
夜9時くらいから、「クウネル」編集部にて岡戸さんの誕生会があるので、それまで有楽町のやきとり屋さんで過ごす。
サラリーマンに囲まれて、スイセイはホッピーなんか飲んで、すでにスパークしていた。

●2005年7月7日(木)曇り一時雨

七夕だ。
原稿の下書きをやり、美容院へ。
髪の毛をいじられていると気分が爽快になるのか、美容師さんの話に、腹の底から大笑いした。
帰りに大粒の雨が降ってきたが、めげずに「おいしい魚屋」さんで買い物。
しめ鯖、中トロの中落ち、浅蜊、刺し身はんぺんというのも買う。
私が店に着く寸前、いつものにこにこお兄さんが店長のおじさんに怒られていた。
まあ、世の中いろいろありますがな。
最近、雨が降りそうな日は帽子を持ち歩いているが、帽子ってなんて便利なのだろう。
ちょっとぐらい雨が降っても、ぜんぜん余裕でいられる。
これは、フランスで覚えた。
雨はひとしきり降ってすぐにやみ、近所のスーパーに買い物に行く。
帰ってからは、またヨガをやりながら夕方のテレビを見る。
夜ごはんの支度をしながら、原稿をだいたい書き上げた。
夜ごはんは、炊込み玄米ごはん(いつだったかの筑前煮の残りで。煮汁と酒、しょうゆ、出し昆布で早めに浸水しておき、炊き時間は30分。蒸し上がってから、筑前煮を刻んで加えた。大成功のおいしさ)、しめ鯖、中落ち、焼き茄子、冷やしトマト、昨夜のおひたしの残り、浅蜊の潮汁。
片づけが終わり、風呂に入ってからケーキを焼く。
岡戸さんにあげる誕生日のチョコレートケーキだ。
溶かしたチョコレートにバターを混ぜこみ、砂糖を加えてかき立てる時、(岡どん、岡どん…… )と、気持ちをこめながらやる。
思いついて、柚子ジャムとコワントローも混ぜてみた。
ケーキを焼きながら、気分よく原稿の仕上げをやる。
スイセイは、明日の誕生会でスピーチを頼まれたので、昨夜からずっと文章を書いている。
うちは、文章家族だ。

●2005年7月6日(水)曇り

昨夜から冷ましておいた赤じそシロップを、瓶に詰める。
氷水で割ってみたら、見たこともないようなきれいなピンク色になった。
おいしい。
砂糖を少なめに作ったのが大正解だ。
宅配便で、みどりちゃんの新刊『おいしいヒミツ』が届く。
ごはんも食べずに、ぐんぐんと読み進む。
すばらしい本だと思う。
これは、みどりちゃんでなければ出来えない仕事だ。
みどりちゃんだからこそ、5人の料理家(私も入っています)が喜んで自分のお腹の中を見せたんだと思う。
私は、とにかく楽しかった。
メニューを考えるのも、倫子ちゃんとの撮影も、インタビューされるのも。
原稿が上がってきた時にも、読んでいるうちに興奮して涙が出た。
こんなにも私の料理を把握してくれている人は、みどりちゃんの他にはいないだろう。
事実をねじ曲げずごまかさずに、言葉を選んで実直に表そうとしている勇敢な姿勢。
インタビューにありがちな、始めから用意された形に当てはめるための、言葉の無駄づかいみたいな不毛なことは、みどりちゃんにはありえない。
実は今、風呂から上がってこれを書いているのだが、今日は1日中、頭の中に雲がかかったようになっていた。
布団を敷きっぱなしでだらだらと過ごしたが、なんとなしに、ずっとみどりちゃんのことを考えていた。
頭で考えていたというより、胸で考えていた感じ。
夜ごはんは、麻婆豆腐、清水さんのトマト、水菜と壬生菜の塩おひたし、干し大根と青じその塩漬け、大根の味噌汁、玄米。
やっと頭がスッキリしてきたので、「翼の王国」の原稿を書き始める。

●2005年7月5日(火)薄い晴れ、夜になって雨

お昼を食べて自転車をごぎ、清水さんの畑へ。
梅酢がすっかり上がったので、赤じそを採りに行くのが目的だったが、せっかくなのでいろいろ収穫させてもらう。
茄子、水茄子、トマト(大きいのを8個あまり)、きゅうり、ルッコラ、ミント2種、香菜、パセリ、バジル、青じそ、ミニ南瓜、サンチュ、ミディートマト。
とうもろこしと枝豆は、朝採りのものを買う。
去年とはまた配置がぜんぜん違うので、違う畑に来たみたいな印象だった。
ゴーヤやオクラなど、ツルが上がってきてもいいように、きれいにアーチ型に棚をこしらえてある。
そこに向かって、元気な緑がワサワサと、これからますます繁茂してゆこうとしている。
きゅうりの棚は、もうずいぶん葉が繁って、上の方まで覆っていた。
そこにぶら下がる、若々しくスマートな実。
畑って、美しいなあ。
清水さんのお母さんもお父さんも、きれいに整備された畑が自慢で、嬉しそうだった。
地面のぶかぶかした感触もひさしぶりだったし、だいたい陽の光にさらされる感触もひさびさで、茄子にはさみを入れたり、トマトにはさみを入れる時の、跳ね返るような感触もすっかり忘れていた。
清水さんは相変わらず忙しそうだったけど、お元気そうだった。
最近は、収穫したそばから次のトマトがどんどん赤くなってきてしまうので、夕方もまた収穫し、夜は夜で、野球のナイターを聞きながら袋詰めをしているそうだ。
帰りの自転車もいい運動になった。
帰ってすぐに赤じその作業をしながらお湯を沸かし、ミディートマトを頬ばりながら枝豆ととうもろこしをゆでる。
そのゆで立てのおいしいこと。
とうもろこしは、かぶりつく時にザクッと音がしたかと思うと、ワーッと汁が広がる。
やっぱりもぎ立てはすごいなあ。
口もきかずに夢中で食べる。
縁側に兄姉3人並んで食べていた子供の頃の夕方を、頭の中で再現しながら、続けざまに2本食べた。
枝豆も、小粒ながらもミルクやバターの味がした。
きゅうりも塩をつけて3本食べたが、なんか、とにかく新しく若々しい野菜の味。
赤じそは、塩でもんでアクを出し、梅酢を加えてもんだ時の色を、誰かに見てもらいたかった。
あんなにも濃く、透き通ったピンクなんて。
スイセイに写真を撮ってもらう。
無事、梅干しの中に入りました。
あとは土用の真夏日を待つばかりだ。
夜ごはんは、夏野菜のオンパレード。
焼き茄子の皮をむいている時、焼いた子雀の皮をむいているような気分になる。
へたの黒いところが頭のように見えて……。
しかし、やっぱり最高のおいしさだった。
甘みがただものでない。
茄子ってこんなにおいしいものだったんだなあ。
他にはトマトの盛り合わせ、水茄子とみょうがの塩もみ、焼き茄子、わかめとキュウリの酢の物、そしてざるラーメンと鯵の干物。
野菜だけでお腹がいっぱいになり、干物が余計だった。
片づけが終わり、赤じそのジュースを作る。
クエン酸を入れた湯で葉っぱを煮出し、濾してからグラニュー糖を溶かしこむ。
これは、ホームページでいろいろ調べ、グラニュー糖を半分くらいにして作ってみた。
風呂から上がり、昼間プールで泳いだみたいに心地いい脱力感だ。
少し、日に焼けたのかもしれない。
夜になって、ザーッとしっかりした雨が降ってきた。

●2005年7月4日(月)雨、肌寒い

11時から打ち合わせ。
終わって図書館に行こうと思ったら、今日は整理の日だそうで休館だった。
仕方がないので買い物だけして帰ってくる。
天気のせいか、なんとなく、ぼよーんだよーんとした気分。
やっと梅雨らしくなってきたのだから、本当は喜ぶべきことなんだけど。
けっきょく今日は一日中だらけていた。
そして、せんべいやらクッキーやらだらだらと食べながら、雑誌を読みふける。
「クウネル」のハワイの記事(るみこちゃんの文章)で、すごく泣いた。
夕方、早めに夜ごはんの支度をしながら試作をする。
鶏レバーのクリーム炒め、ゆでブロッコリー添え、豚とじゃがいもの天火焼き、にんじんの千切りサラダ(軽く塩でもみ、赤ワインビネガーとパセリと黒こしょう)、ねぎとしょうがのバターライス(「クウネル」に出ていたともすけ弁当のごはんを真似して作る。ちゃんと鍋で炊いた)。
ものすごいご馳走だし、量も4人分はある。
それらをひと皿に取り分けて、パリの定食屋のランチみたいにして食べる。
すごくおいしかったが、ちょっともたれぎみだ。
夜中になって涼しくなってきたので、ごそごそと仕事をやり始める。
今日の試作のレシピをまとめたり、原稿書きなど。

●2005年7月3日(日)曇りのち雨

次回の本の撮影はまだ先だが、全体的なまとめをやったり、メニューを絞ったりして頭の整理をする。
試作もひとつやった。
ハルが盛んに吠えたり、鼻を鳴らしたりして騒がしいので、怪しい人でもいるのかと思って覗いてみたら、下の階のお母さんと中学生の息子だ。
ふたりがくっついて、ベランダから下を覗いている。
息子は手を振ったり、壁をたたいたりもしながら「ハル!ハル!」と声をかけている。
この息子が小学生の時から、ハルは大好きなのだ。
今日はテレビがおもしろいので、仕事はこれくらいにする。
『ちびまる子』『サザエさん』『トップランナー』『ウルルン』『情熱大陸』。
ごはんの支度ができないほど、忙しい。
外は、霧のような雨が降っている。
夜ごはんは、筑前煮(ちくわ、牛蒡、蒟蒻、にんじん、鶏肉)、揚げ茄子とピーマンと豚コマの味噌炒め(この味噌はマッキーにもらった。なんと15年ものだそうで、味も色も熟成してテンメン醤のようになっている)、冷やしトマト、豆腐とわかめの味噌汁、玄米。
夕方ふと思い出したのだが、昨日はスイセイの誕生日だった。
毎年毎年、どうしてこう忘れてしまうのだろう。
なので、茄子を揚げてから炒めるなんて、普段はなかなかやらないこともやり、心をこめておかずを作った。

●2005年7月2日(土)曇り、薄い晴れ

のんびり過ごした。
畳の部屋で寝そべって、『日々ごはん4』の続きを読む。
白く曇った空と、洗濯物の色合いがやけにぴったり。
風が吹くと揺れる洗いざらしの布たち。
生成り、ベージュ、枯れた若草色、水色、濃紺。
あんまり綺麗なので写真を撮る。
スイセイを誘って散歩がてら買い物に行く。
帰ってから、また畳の部屋に寝そべる。
風がよく通るので、ハワイアン(「ソトコト」についてきたCD)をかけてみたら、これがまたあまりにぴったりで、そのままヨガをやった。
その頃には空は水色で、少しの雲。
たまには浮世の何もかもを忘れて、浜辺に寝そべるのもいいものだ…… なんて、波照間島のことを思い出しながらやる。
夜ごはんは、地鶏のスキ焼き(舞茸、白滝、長ねぎ、豆腐、壬生菜、車麩)、オクラと青じその梅おかかじょうゆ、冷やしトマト、玄米。
そういえば今日、スーパーで新れんこんが出ていてドキッとした。
毎年、6月の末くらいから出始めるけれど、どうしても使うのが可愛そうなような気持ちになって、いつも買えない。
芯まで透き通った、真っ白な赤ちゃんれんこんだ。

●2005年7月1日(金)雨

雨はずっと降ったり止んだりしていた。
その音を聞きながら、私も寝たり起きたり。
『日々ごはん4』をゆっくり読み返したり、またバタッと寝てしまったり。
けっこう二日酔いなので。
昨夜は、丹治くんも顔を出してくれた。
アムプリンのカトキチにも会えたし、シミズタとサンとも少しだけど飲めたし、嬉しい夜だった。
りうも元気そうだったし。
タクシーに乗って帰ってきたが、あまり食べずに飲んだものだから、車の中で気分が悪くなった。
スイセイは自分のカバンのチャックを開けて、その中に吐かせてくれた。
今日は一日、そういうスイセイの周りに漂うぼわっとしたもの(動物的な信頼みたいなもの)のことを感じながら過ごした。
私は、スイセイに何をしてあげられるだろう。
夜ごはんは、カレースパゲッティ(スイセイ作)。
キャベツがたっぷり入ったカレーを、スパゲティにかけたもの。
シャキシャキのキャベツが超おいしかった。



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