2005年9月下

●2005年9月30日(金)秋晴れ

ひさびさに朝寝坊する。
空を飛ぶ夢をみていたので、その余韻をひきずりながら、ぐだぐだと2時くらいまで寝くさっていた。
あまりに天気がいいので、起き上がって洗濯をする。
シーツを干す時に見上げると、うろこ雲がはっきりと広がっていた。
空、いつのまにこんなに高くなったんだろう。
この間、タカシ君のライブの時に、「チルチルミチル ステルトミチル」という歌詞がくっきりと耳に届いた。
その言葉が文字になって、雨の中で、森や空の方にふらふら登っていくのが見えるようだった。
「ステルトミチル」と歌っていたことを、私は今まで知らなかった。
そういう歌詞だったのかーと、今日はそれをとくに思い出す。
なくなると、満ちる。
あげる(使い果たす)となくなるけど、なくなるとまた満ちてくる。
日々落ち込んだり、はい上がったり。
おとといまでなんとなく悶々としていたが、今日は、昨日と合わせて2センチくらい満ちてきている私だ。
たぶん、やっと日常に着地したのだろう。
そして昨日も聞こえていたが、ツクツクボウシが控えめに鳴いている。
こんなに涼しくなったというのに。
ここからここまでが夏で、ここからは秋です…なんて、たぶん自然界ではそんな線を引いたような決まりごとはないのだろう。
今日は読書の日と決め、布団に戻って宮尾登美子の『楊梅の熟れる頃』を読む。
この本は、桃ちゃんが送ってくださった。
高知女の芯の強さが描かれていると、高知のホテルの夜に、桃ちゃんはこの本のことを言っていた。
それで、送ってくれたのだ。
古い文庫本だけど、装丁も美しくて(竹下夢二だそう)、ぜんぜん古びていない。
日曜市の話も出てくる。
1話読むごとに涙がこぼれながら、景色を実感するように、どんどんどんどん読む。
夜ごはんは、れんこんとごぼうのナンプラーきんぴら、大根の塩もみ梅和え、ちくわと蕪の葉と小松菜の炒め物、鰈のみりん漬け、ひじきと干し椎茸(日曜市の)の炊込み玄米、麩と葱の味噌汁。
今夜の味噌汁は自家製味噌で作ってみた。
赤だし味噌のような、ほんのり酸味が混じった奥深い味。
こんどは、焼き茄子かしじみでも作ってみよう。

●2005年9月29日( 木)すごく快晴

ひさびさにはっきりと晴れました。
布団やら、ざるやら、まな板やらいろいろ干す。
タオルケットも洗濯した。
昨日は、なんとなしに元気が出なかったが、やっぱり晴れっていいなあ。
空気がちがうもの。
ベランダのプチ茄子の写真も撮った。
1時からは「クロワッサン」のインタビュー。
『日々ごはん5』についてなので、張り切っていろいろ喋ってしまった。
天気のせいもあると思う。
溌溂とした気分が戻ってきたのだ。
終わってから、街へ買い物に出る。
食材だけでなく秋物の服を買ったり、ファンデーションを買ったりと、普段しないような買い物までした。
夜ごはんは、浅蜊と干し椎茸のフライパンパエリア(試作で作った。すごくうまくいった)、蕪と生ハムのマリネ(パセリがなかったので青じそを加えた。青じそって千切りにすると和風だけど、細かく切ると洋風にも合うことを発見)、キャベツと人参のコールスロー。
風呂場の電気が切れたので、面倒だからそのまま入ったら、これが良かった。
薄暗くて、静かで、温かくて、ぐーっと落ち着く。
今日のインタビューで、しばらく仕事は休みだ。
明日からちょっとのんびりして脳をゆるめ、本のことに没頭する体になろうと思う。

●2005年9月28日(水)晴れ

ひさびさに洗濯をし、いろんなものを干す。
完全に晴れというわけではないけれど。
そういえば昨日とおととい、道を歩いていて、ふっと金木犀らしき匂いがした。
まだ、花は見えないんだけど。
そろそろそういう季節なんだろうか。
1時から、「天然生活」の打ち合わせ。
赤澤さんと中野さんがおそろいでいらっしゃる。
1時間ほどで終わり、お互いの近況などお喋りする。
3時からは本の打ち合わせ。
だんだんに、全体の形が見えてきました。
10月いっぱいは本のためにあけてあるので、私は文章書きに入り込もう。
涼しくなって、文を書くには季節もぴったりだ。
「クウネル」でちょっと書いた、ベランダの鉢の植物。
今見たら、すごく小さい茄子のような実がなっている。
白い花が咲いてから、黄緑色の丸っぽい実がなっていて、もしかしたらトマトの仲間かも?と思っていた。
これは、茄子の仲間なのかもしれないなあ。
どうやって、どこから、ここまで種が運ばれてきたのだろう。
スイセイにも見せて自慢する。
夜ごはんは、塩豚焼いただけ(出てきたおいしい焦げつきで椎茸と香菜を炒め、酒をふりかけてナンプラー少々)、手巻き玄米ごはん(ごぼうとひじきのきんぴら、青じそ、焼きのり、キムチ)、ごぼうと大根と椎茸の味噌汁。
風呂から上がって、いつものように窓を開ける。
木はいいなあ。
風もなく静かに見えるが、枝先の葉を、少しだけ揺らしている。

●2005年9月27日(火)曇り

目覚ましが鳴らなかったが、8時半に起きました。
セーフ!。
テレビ収録の日は、どういうわけだかいつも曇りだが、まあ行ってこよう。
まだまだテンションは低いところにあるが、これからヒラリンとしおりちゃんの顔を見て、車で向かううちに、元気になってゆくだろう。
がんばっていこう!。
5時過ぎに帰ってきました。
ふー、くたびれた。
今日は、玄米の炊き方などをやったので、すごくたくさん喋った。
時間の制限があるので、手を動かしながら喋らなければならないのがちょっと大変だった。
帰りにアノニマ・スタジオに寄って表紙の色校を受け取り、そのままタクシーで帰ってくる。
夜ごはんを作る気にならないし、このところのバタバタの一段落なので、スイセイを誘って近所のおいしい蕎麦屋に行く。
蛍いかの沖漬け、豆腐の味噌漬け、板わさで日本酒を2合飲み、冷たいめかぶ蕎麦を食べて、帰ってきました。
こういうくたびれた時の日本酒って、本当においしいなあ。
家に着いたらまだ8時半なのがとても嬉しかった。
早めに風呂に入り、布団の上でテレビをだらだら見ながらくつろぐ。

●2005年9月26日(月)晴れ

朝からバタバタと動き回る。
明日のテレビ収録の準備です。
あちこち電話したり、仕入れをまとめたり、シナリオを読み込んだり。
ひとつひとつ順調に進んでいく。
仕入れを済ませ、お米屋さんに寄りながら美容院にも行った。
明るいうちに帰ってきて、仕込みをやる。
夕方、ヨガも念入りにやった。
サラサラと涼しい風が吹き抜けてゆく。
寒くて、体が冷えてしまうほど。
夜ごはんは、お刺し身(中トロ、真鯛、しめ鯖)、とろろ芋、焼き茄子、小松菜とにらのおひたし、玄米、ごぼうと椎茸の薄味煮(残り)をのばして味噌汁に。
明日は早いので、今夜は早く寝る予定。
そういえば、ファンの方(男子)からメールをいただきました。
なるほどなあと思い、とても嬉しかったので、ここに書き写させていただきます。
「高山さんの文章は 不思議とななめ読みができません。
本を読むのは速い方なのですが なぜか時間がかかります。
なんでだろう?と思って考えてました。
たぶん 高山さんはゆっくりした流れの中で生きてて その時々の想いを そのままのスピードで残しているから そのスピードじゃなきゃ 自然に体が吸収しないんだろう かな?と。」 うーん。なるほど。
すごく合点がいった。
私は、とくに飲んでいる時なんかにはっきり出てくるんだけど、いろいろ理解するのに時間がかかる。
脳から口にいくまでの時間もかかるみたいだし。
そのスピードに合う人と私は結婚したから良かったけど、昔は、あからさまに「のろいなあ、どんくさいなあ」とイライラした顔をする人もいた。
「声が小さい」と、怒る人もいた。
自然と、そういう人々とは関わりがなくなって今に至るが、若いころはそれがコンプレックスで、けっこうへこんでいた。
悩んだって仕方ないのに。

●2005年9月25日(日)明るい曇り、すごい風

昨日の余韻をまとって、ずっと寝ていた。
外は、ものすごい風が吹き荒れている。
12時にいちど起きて赤澤さんにファックスを送り、『日々ごはん5』の最終チェックをし(丹治君は日曜日でも働いているのだ。えらいなあ)、アベックラーメンを作って食べ、また布団に入る。
小金井公園での昨日のライブは、本当に素晴らしかった。
雨は、まるで止んでいた時もあったほど。
まさに台風が来ようとしているというのに。
まず、私は人の多さに驚きました。
こんな天気だから、お客さんが少ないといやだなあ。
「クウクウ」の子たちの出店も、ずっと頑張って準備をしていたのに、食べ物が余ってしまったら可愛そうだなあ、と心配していた。
着いてみて驚いた。
若い子たちは、こんな雨なんかへいちゃらで、合羽を着て芝生の上に座っている。
ビニールシートが濡れちゃっても、ぜんぜんオーケー、気にしない。
あとで聞いたら、お客さんは1万8000人も集っていたそうだ。
タカシ君が歌うのを聞きながら、私も踊り、歌う。
隣のみどりちゃんと目配せしながら、一緒に踊る。
時々後ろを振り向くと、もうずーっと後ろの方まで人の頭があって、皆同じ音楽に体が動いていている。
公園の木々と空が、タカシ君たちのステージと、そこにいる全員を見守ってくれているような、何度もそんな気持ちになった。
歌声は、湯気のように空に登ってゆく。
おかげさまで、屋台もあっと言う間に完売したらしい。
終わってから、楽屋へとタカシ君と郁子ちゃんに会いに行った。
すっかり使い果たしたタカシ君は、「オレ、歌いながら何度も、スゲーなーって思って。こんな大勢の人たちが、オレの歌をこんなに歌ってくれてるんだなーって。だって、皆の声が聞こえてくるんだよ、ワーッて。もう、ありがたくてさ、泣きそうになっちまった」。
皆に歌われる歌は、歌の中でいちばん幸せ。
皆に作ってもらえる料理も、いちばん幸せ。
そのあと、打ち上げで高野寛さんや坂田学さんにも会えた。
この間の「クウネル」撮影の時、長野君と何度も何度も聞いていたあの歌声の主がここにいる。
郁子ちゃんの「なみだとほほえむ」の、あのすごいドラムの人がここにいる。
私は、ありがたい気持ちだけでいっぱいで、何にも話ができなかった。
郁子ちゃんとは、ひさしぶりにいろいろ話した。
分野は違うけど、郁子ちゃんも私も、最近同じようなことを考えていることに驚いた。
でも、驚かない。
私の好きな人たちが、次々に郁子ちゃんに会って、仕事をしていることの不思議。
でも、不思議じゃない。
そんなことを思い出しながら、6時までぐっすり寝る。
夜ごはんは、カレーライス(塩豚、じゃが芋、人参、ゆで卵)、レタスとセロリの葉っぱのサラダ。
あとでふと思ったのだが、1万8000人というのを初めて目の前で見たけれど、それはとてつもなくたくさんの人たちだった。
そして、自分の本を買ってくれている人たちの数のことを思い、ひとりひとりの顔が見えたような、ぐらっと目まいがするような気持ちになった。
これは、本当にすごいことだ。ありがたいことだ。

●2005年9月24日(土)雨後曇り

朝は大雨が降っていたけど、9時くらいにはどうにか上がった。
雨の音を聞きながら、どうしよう?と少し心が揺れたが、タカシ君や郁子ちゃん、ヒラリンやリーダーたちのことを想い、土砂降りでもなんでも行こうと心に決める。
「ハナレグミ」のライブ、応援の気持ちで行ってこよう。
そうしたら、だんだんにやんで、今はほとんど降っていない。
鳥がいろいろ来て、嬉しそうに飛び回っている。
雨がやんだのが嬉しいのだ。
メジロもたくさんいた。
メジロ、この間見た時よりも、ちょっと体が大きくなっているみたい。
みどりちゃんに今日のことを電話したら、ぜんぜん行くつもり。
この曇りが、づっと続いてくれればいいんだけど。
お客さんも、たくさん集ってくれるといいんだけど。
これからみどりちゃんが11時半にうちに来て、そのままタクシーに乗って3人で出掛ける予定です。

●2005年9月23日(金)晴れ

ひさびさの晴れ。
シーツやら布団カバーやら洗濯大会で、ベランダがいっぱいになる。
お昼は納豆ご飯と、享子ちゃんにもらったドレッシングで胡瓜とセロリのサラダを作る。
時々ふーっと曇るけど、またすぐに明るくなって、風もなく穏やかな空気。
いろんな鳥の声がする。
今はこんなに晴れているのに、明日までもたないのだろうか。
(台風よ、逸れてください)と、空を見上げてお願いする。
明日は、小金井公園で「ハナレグミ」のフリーライブだから。
リーダーもヒラリンも店を出すから、今ごろ仕込みで頑張っているだろう。
楽しみにしている人たちが、この空の下には、たくさんたくさんいるのだから。
そして、高知と広島の日記を書きながら、タカシ君の新しいCDをエンドレスで聞いている。
夕方、ひさしぶりにヨガをやる。
スイセイも、ひさしぶりに汗びっしょりになって、散歩から帰ってきた。
夜ごはんは、いかと舞茸のパスタ(バジルソースで)、ごぼうと干し椎茸(共に日曜市の)の薄味煮、水茄子の塩もみ、レタスと青じそのサラダ。

●2005年9月22日(木)曇りのち雨

昨夜は、スイセイが9時くらいに広島から帰ってきて、「バー高山」になった。
たった1日会ってなかっただけなのに、つもる話がたくさんあって。
主に、広島の母ちゃんのことをいろいろ話す。
ビールをぐんぐん飲み、焼酎も飲んで、ちょいと飲みすぎた。
朝起きた時、顔がむくんで頬っぺたに寝あと(シーツの)がしっかりついていた。
それで風呂にゆっくり浸かり、寝あとを伸ばす。
12時からランディさんと対談。
ランディさんは、とても綺麗だった。
思っていた通り着物でいらっしゃって、立ち居振る舞いも喋り声もおっとりと、今日のこの湿った空気を含んでいるような。
隣に座っていると、いい匂いがしてくるような。
実際、着物のかぐわしい匂いが届いていた。
それは、お香とかコロンとかの人工的なものではなくて、着物の生地自体が持つ艶っぽい匂い。
炭のような日本的な匂いに、体温が加わったような。
こりゃあ男はたまんないだろうなー。
そんなことを感じている間に、対談はあっさり終わってしまった。
そして、やっぱランディさんのことを私は好きだなーと、何回も思った。
話の内容は、テーマから外れてもどんどん行けそうだったし、行きたかったんだけど、糸をたぐり寄せられてもどってくるような、そんな感じだった。
まあ、日本酒がテーマなんだから仕方ないけど。
終わってから、ゆっくりして欲しかったのだが、ランディさんはやっぱりお忙しい。
この後2本も打ち合わせがあるというし、今夜中に湯河原に帰られるそうだし。
大急ぎで蕎麦をゆで、お昼ごはんにする。
短い時間だったけど、ごはんを食べながら少し話した。
あちこち取材に出掛け、どっぷりと対象に潜り込んで心を使い、体ごとで書いているランディさんのことを、この家にいる間は、風呂に入れて、おいしいものを食べてもらって、ゆっくり緩めさせてあげたい。
足を伸ばして、背筋を抜いて、脳も体もぐでんぐでんに柔らかくしてあげたい。
話ながら、私はそういう衝動にかられていた。
だってランディさんは、私などとは覚悟が違う。
作家というのは、そういう職業だ。
ばななさんに会った時にも、いつもそれを感じる。
顔中を、体中を、撫でさすってあげたい衝動にかられる。
そういう熱っぽいものが体からあふれてきて、私はもどかしくなる。
倫ちゃんに会った時にも、そうなる。
言葉ではなく、脳まで心でいっぱいになる。
ランディさんをスイセイとふたりでお送りしてから、夕方、ものすごい眠気がやってきて昼寝。
夜ごはんは、玄米茶漬け、塩鮭、塩こんぶ、広島菜、たくわん、ふろの炒め煮、からし味噌(葉唐辛子入りの味噌、高知の日曜市で買った)。
食べ終わって、畳の部屋でテレビを見ていたら、なんだか海外旅行から帰ってきたような、ふっとそんな気持ちになる。
すごく遠い所から帰ってきて、まだ日常の暮らしにフィットしてないような、着地してないような感じ。

●2005年9月21日(水)曇り

すごい曇り。
でも、雨はまったく降らないし、湿気もない。
すごく涼しい。
高知も広島も湿気が多かった。
雨でも曇っていても涼しいという感じはなく、湿気があるぶん暑いような、暑いとも涼しいよも言えないような気候だった。
いったい夏なのか?秋なのか?。
たぶん、住み慣れて毎日を過ごしていれば整理できるんだけど、高知も広島も2日いたくらいでは、よく分からない。
というわけで、今朝は9時半に目が覚めたが、布団の中でずっとランディさんの本を読み耽っていた。
昨夜、帰ってくる時に吉祥寺で買った『ドリームタイム』。
ぐんぐんと水が沁みるように読み進み、声を出して笑ったり、泣いたり。
ランディさんのこの空気から、私は遠いところにいた気がする。
読み始めたとたんに、懐かしいその肌触りを思い出した。
心の姉に、ひさしぶりに再会したような。
明日、「ダ・ヴィンチ」の対談でランディさんがうちにいらっしゃる。
そのことが、ものすごく嬉しい。
いそいそと掃除機をかけたり、ランディさんのことを思いながら雑巾掛けをしたりする。
買い物にも行き、明日の料理の仕込みをしたり、「ハナレグミ」の新しいCD『hana-uta』をかけながらやる。
「そして僕は途方に暮れる」を何度も繰り返し聞いて、泣きそうになる。
やばいです。
旅行から帰ってきて、私は涙がたまっているらしい。
明日はランディさんに会っても、泣かないようにしよう。
スイセイが帰ってくるのに合わせ、夜ごはんは、小松菜のおひたし、りゅうきゅう(高知の芋の茎みたいなもの)と胡瓜の塩もみ、イカのワタ炒め、ふろ(これも高知の長いいんげんみたいなもの)の醤油炒め、ビール、ビール、ビール、焼酎。



日々ごはんへ めにうへ