2006年1月下

●2004年1月31日(火)雨のち曇り

夢もたくさんみて、ものすごくよく眠ったつもりで時計を見たら、まだ12時だった。
外が薄暗いから、もう夕方かと思って寝くさっていたが。
お昼ごはんの支度していたら、スイセイが台所に来て、「ああ、やっと今日うちに帰ってきたのう」と言った。
今日は、1日中ぼんやりして過ごす。
腰が冷えるので布団に入ったまま、これからの予定を決めたり、本のアイデアを書きとめたり。
眠くなったらそのまま寝てしまう。
夜ごはんは、ちらし寿司(少しずつ残った撮影の残りで。しらす、たらこ、帆立、いくら、しめ鯖)、かき菜のおひたし、聖護院大根(倫子ちゃんのお父さんの)の浅漬け、はんぺんと豆腐のすまし汁。

●2004年1月30日(月)快晴

朝9時45分に、カトキチ、アム、リーダーが集合し、スイセイチームは搬出のためトラックで出発。
私は一緒に出て買い物に行き、11時から撮影。
こっちは、ヒラリンとのチームです。
仕入れの袋を両手にぶら下げ、階段を上がってきたヒラリンは、一点の曇りもない笑顔をしていた。
その顔を見て、私もスッキリと気合いが入りました。
昨日もゆっくり休んだし。
おかげさまで、ひとつずつ確実においしい料理が出来ていった。
表紙まわりの撮影もあったので、けっこう時間がかかったけど、爽やかな気分で終わった。
その間、スイセイチームは荷物だけ運び込んで、撮影が終わるまで基地のようなスイセイの部屋で待機。
お茶を持って行ったら、ガキんちょたちが4人頭を突き合わせて、作戦会議をしているみたいだった。
撮影隊が帰って、皆で軽く打ち上げ。
トラックを返さなければならないので、カトキチはお茶、アムは浅蜊の潮汁で乾杯した。
皆が帰ってからは、スイセイと2人で小さく打ち上げ。
夜ごはんもなしで、ビールをちびちび飲みながら、この3日間に何があったのか、スイセイは喋る喋る。
いろんなことに対して、ありがたい気持ちでいっぱいになっているみたい。
いくらでも出てきて、尽きないので、ふたりで時間を決めて2時に寝た。

●2006年1月29日(日)快晴、ぽかぽか

「スイセイ・ショー」の最終日。
スイセイは、とっくに起きて、部屋で何かをしていたみたい。
今日は12時前に着けば間に合うんだから、ゆっくり寝ていればいいのに。
ごそごそと音がして、ふすまを開けると、晴れ晴れとした顔のスイセイがサンドイッチを頬張っていた。
ミルクテイーをいれてやり、10時半過ぎに送り出す。
また布団にもぐって、もうひと眠りしようとしたのだが、なんだか眠れない。
そのうちに、ウグイスみたいな声が盛んに聞こえ出し、えいっと起き上がった。
声のする方を見ると、杏の木にぷっくりした鳥が2羽とまっている。
じっと見るが、鳥の口は開いていない。
でも、他には雀しか見当たらないから、きっとこの鳥が鳴いているのだろう。
ひさびさに布団を干したり、たまった洗濯をしたりする。
私は明日が撮影なので、今日は「タミゼ」に行かないことに決めている。
たまった日記を、腰をすえてじっくり書いたり、明日のレシピをまとめたり。
『まる子』と『サザエさん』も見る。
今日の『まる子』を見て、すき焼きにした家庭は多かっただろうか。
私は、一家が最後にすすっていたインスタントラーメンに誘われて、味噌ラーメンを作った。
『サザエさん』を見ながら食べました。
これが夜ごはん。
早めに風呂に入って、洗濯物をたたんだり、パジャマのゴムを入れ替えたりする。
スイセイがいないと、静かだな。
夜が長いので、これから大きな紙を広げて、本の構想を書き出したりする予定。
今夜は、スイセイが打ち上げで遅くなるので、このホームページの更新ができません。
楽しみに待ってくださっている皆さま、申し訳ありません。

●2006年1月28日(土)晴れ、風が少し冷たい

昨日の「スイセイ・ショー」は、大盛況だった。
常時お客さんが入れ替わり、いつも女の子たちに囲まれているスイセイは、かっこよく見えた。
モバイル焚火での実演の時間は、「タミゼ」がいっぱいになった。
8時くらいに、オープニングパーティーになった。
ともすけ、川原さん、絵菜ちゃんが、ワインを開けたり、パンにディップを塗ってくれたりと、テキパキ手伝ってくれました。
最後まで残った皆で、炬燵のようにして飲んでいたら、11時過ぎに郁子ちゃんが来てくれた。
MDに吹きこんだ郁子ちゃんの歌に合わせて、「なみだとほほえむ」を皆で歌った。
昌太郎君は目を閉じ、スイセイは「う〜〜〜」と誰かにかぶさって泣いていた。
2時くらいにタクシーで帰ってきました。
スイセイは、タクシーの中から爆睡が始まり、すぐに布団に入った。
死んだように眠っているので、夜中に心配になって、息をしているか確かめた。
さて、今日は12時半までしっかり眠った。
まだまだ寝たりなかったけれど、頑張って起きました。
佐伯誠さんを、桃ちゃんが「タミゼ」に連れてきてくださるというので、2時半に待ち合わせ。
佐伯さんは、スイセイの作品をおもしろがってくださった。
ひとつひとつ時間をかけて、眼鏡をずらしたりしながら、じっくり見てくれた。
たくさんの人が入れ替わりやってきて、ゆっくりしていってくださった。
本当は、佐伯さんに会ったら早めに帰ってこようと思っていたんだけど、芳名帳を見ると、長野とか高知とか、新潟とか、神奈川とか千葉とか、遠くからわざわざ来てくださった方々もいる。
スイセイの昔からの友だちが家族連れで来てくれたり。
私は、もったいないような誇らしいような気持ちになって、けっきょく最後までいた。
「タミゼ」って、居心地がいいのだ。
ともすけも、昨日の残りの豚ペーストでサンドイッチを作りにきてくれた。
みどりちゃんも忙しいのに、夕方ちゃんと来てくれた。
昨日は、ばななさんも来てくださった。
最後に会ったのは、まだ私が「クウクウ」にいて、ばななさんは今にも生まれそうなお腹をしていた。
そのお腹にいた赤ん坊がここにいて、歩いたり言葉を喋ったり、一人前の人間の雰囲気をまとっていることの不思議を感じながら、当然というか、ありのままな感じも味わった。
ひさしぶりに会ったのに、ぜんぜんそんな気がしなかった。
私の暮らしや生き方の中に、きっと、よしもとばななという人の醸し出す息吹が、日常的に交じり合っているからかもしれない、と思った。
日記も小説もリアルタイムで読んでいるから。
ただ、会った瞬間、嬉しくてついばななさんの腕をコートの上からぎゅうぎゅう触ったり、匂いを嗅いだりしてしまったのは、実物かどうか確かめていたような気がする。今思うと。

●2006年1月27日(金)晴れ

「スイセイ・ショー」の1日目。
12時オープンだけど、スイセイはやり残した準備をしに9時に出て行った。
ねぼけながらも見送り、また布団の中へ。
今のうちにしっかり眠っておかねばと思い、11時まで寝る。
いろいろ夢をみたなあ。
オダギリ・ジョーと仲良しの夢を見た。
「あんがい女の子みたいなんだねー」とか言って、女同士みたいに足をさすったりしながら爽やかにお酒を飲む夢。
もうひとつは、誰かに嫌われていることが分かった夢。
私の方ではすっかり信頼していて、その人もきっと同じ気持ちで仲良くしてくれているんだとばかり無邪気に思っていたら、実はそうではなかった。
その人は、わがままな私のことを、何年も何年もずっと我慢していてくれた。
それが爆発して、彼女の口からいきなり表に出てきた。ずるずるっと。
そういう時、私はハッとおののく。
自我の強さや、どうしょうもないしつこさが、人より過剰に匂っているのを嗅ぐ。
くさい匂いの自分が、崖の先っぽに立って、ビュービューと風に吹かれている。
夢の中では、そういう自分をどうしょうもできなくて、手足のない小さい虫になって穴にもぐりたくなる。
でも、目が覚めた時には、(お互いに違うことがはっきりして良かったんだ)なんて、ぼんやり思っていた。
楽しいことがある前の晩って、こんな夢をよくみるな。
きっと、どこかでプレッシャーを感じているんだろうな。
風呂に入り、パンを練る。
発酵させている間に桃ちゃんが来た。
書類を渡し、いろいろと話をしながら、もう1種類のパン生地を練った。
おいしい紅茶を飲み、お酒を飲んで話すようなことも話した。
桃ちゃんは、スッキリと立っていた。
ぽかぽかと陽が入ってくるリビングで。
桃ちゃんが帰ってからも、ひとり準備にいそしむ。
今まで、誰かのケイタリングでざぶとんパンを焼いたことはあったけど、やっと、スイセイのオープニングパーティーのために焼けることになった。
その嬉しさがお湯のようにこみ上げて、たゆたゆする瞬間があった。
惜しみなく陽が入ってくるリビングで。
パンには、アリヤマ君にもらったヘーゼルナッツのおいしいオイルをたっぷり塗った。
まるで、この日のためにアリヤマ君がフランスから買ってきてくれたみたいな、そういうようなありがたい気持ちになった。
さて、これから出掛けてきます。

●2006年1月26日(木)

いよいよ「タミゼ」に搬入。
9時に、リーダー、ナツコ、カトキチが集ってくれ、トラックで出発。
トラックの中も楽しかったけど、それからは、あっという間の1日だった。
昌太郎君がスイセイの作った物を手に取り、それがいちばん良く見える風に置く時、私はとてもドキドキした。
スイセイの散らかった部屋や、ベランダに埋もれていた物たちに魔法がかけられ、永い眠りから次々と目を醒ましていく。
昌太郎君の横顔は、強くもなく弱くもなく、ただじっと物と場所を見ている。
物そのものを見ているというよりは、物から出ている何本もの糸の中から1本だけをたぐって、糸の先がどの場所に繋がっているかを見極めているみたい。
みつけると同時に昌太郎君の体は、水槽みたいな「タミゼ」の中を、ぐーんと縦横無尽に歩く。
そして乱暴にでもなく、静かにでもなく、ポンと置く。
物にはすべて理由があって、スイセイがいつどうしてなんでそれを作ったのかという物語がついている。
手に取った時に物とテレパシーをして、そんなこともアッという間に理解してしまうみたいだった。
今回の個展は、昌太郎君がスイセイに声をかけてくれたのが始まりなんだけど、ゆきずりなその感じも、昌太郎君と物との関係に似ているような気が、ふとしました。
ああ、とてもおもしろいものを見たし、感動もした。
スイセイはスイセイで、リーダーとナツコとの強力ユニットでもって、モバイル焚火の煙突や、自動ドアなど、大物をガシガシと組立てていた。
吉祥寺に帰ってきて銀行から出た所で、郁子ちゃんにばったり会い、スイセイは涙ぐむ。
何も言わないのに、「パワ〜〜!」と言って、郁子ちゃんは自分の力を削ってスイセイにくれた。
夜ごはんは、ざる蕎麦(大根おろし)、ます寿司(ロンロンで買って帰った)。
缶ビールを1本ずつと白ワインを少々飲み、ふたりで12時に寝た。

●2006年1月25日(水)快晴

自分のことではないのに、寝ていられない感じになってしまい、8時半に起きた。
スイセイは夜中のうちに起きて、ひたすら「スイセイ・ショー」の準備。
起きてすぐに『日々ごはん6』の校正を仕上げる。
3時に国立で待ち合わせて、丹治君たちと打ち合わせ。
引き続き「ニチニチ」に行って、作業をやる。
そして、ごはんタイム。
人前で脳みそを使ったので、それなりにぐったりして、9時に帰ってきました。

●2006年1月24日(火)快晴

スイセイは、昨夜布団に入ってこなかった。
自分の部屋で、仮眠しながら作業をしていたらしい。
もう、「スイセイ・ショー」まで秒読みなので、今朝から私も手伝う。
作品を、どんどん私の部屋に運び込む。
私が、初めて広島のスイセイの部屋に入った時に見た、衝撃の物々や文章の束など、どんどん選び出してゆく。
まるで眼鏡をかけたインテリ風キュレーターみたいに、厳しくスピーディーに。
でも、起きたばかりで歯も磨いてないし、顔も洗ってないし、パジャマのままだ。
午後、カトキチがきてくれて、搬入の相談などやる。
私は、『日々ごはん6』の校正に打ち込む。
夜ごはんは、とろろ芋(味噌味)、鶏の塩焼き、白菜(倫ちゃん父さんの)のクリーム煮、白いご飯。
今日もまた、ご飯は柔らかめ。
鶏を焼くのにも油を使わず、出てきたおいしい脂で白菜を蒸し煮にした。
アリヤマ君にもらったヘーゼルナッツオイルを少しだけ加え、鶏と白菜の混ざった蒸し汁に牛乳をちょっと加えて、片栗粉でとろみをつけた。
やさしい味の病人食風。
鶏肉の皮は、私がぜんぶひとりで食べた。
ごはんを食べ終わり、そそくさとスイセイは自分の部屋へ。
私は校正の続きをやる。

●2006年1月23日(月)快晴

マンションの階段の雪は、大家さんが雪かきをしてくれたみたい。
雪をよけた所の水たまりが、今朝はすっかり凍っていた。
滑らないように気をつけて降りる。
長野君、田中君と国分寺で12時に待ち合わせ、カトキチとアムの家に行った。
新しい本の取材です。
まだ詳しいことは書けないけれど、この間の倫子ちゃんのも取材です。
なので、その様子もまだここには書けない。
私はもちろんのこと、長野君も田中君も、アムとカトキチの世界に圧倒されていた。
あー、よかっただ。
取材が終わって、皆で「トネリコ」へ行った。
なんだか、サンやシミズタの顔を見たら、泣きたくなった。
遠い所でひと仕事終え、温ったかい我が家に帰ってきたような。
「トネリコ」は、いろいろとてもおいしかった。
サンの料理は、どんどんどんどんおいしくなっているみたい。
サラダのドレッシングとかも、進化しているような気がする。
11時には帰り着き、スイセイにスパゲティを茹でてやる。
キャベツも時間差でたっぷり茹でて、生ハム少しを茹で立てに和えただけ。
まだお腹をこわしているから、オリーブオイルも小さじ1杯くらいしか入れなかったけど、優しく、おいしい味にできました。

●2006年1月22日(日)快晴

『日々ごはん6』の校正をやりながらも、外が気になって、ベランダに出る。
ポカポカとよく晴れて、昨日の雪を溶かしている。
雨どいがない屋根の雪は、細いつららになりながら、ビシャビシャと溶けている。
大家さんの庭には、ハルが行ったり来たりした足あとが可愛くついている。
雪解けの、穏やかな日曜日。
そんな日に、陽の当たる大テーブルで校正をやるのは、とても幸福だ。
夕方まで集中してやり、『まる子』を見ながら洗濯物をたたむ。
スイセイのお腹の調子が、昨日よりはちょっとよくなってきたらしい。
お粥ではなく、ためしに柔らかめに炊いたご飯のリクエストが。
夜ごはんは、具なし茶わん蒸し、ひじき煮、小松菜の煮びたし、すまし汁(昨日の撮影の浅蜊のだし入り)、白いご飯(柔らかめ)。

●2006年1月21日(土)雪

朝起きたら、雪だった。
昨日、干したまま出掛けてしまった洗濯物にも、しっかり積もっていた。
昨夜、2時ごろタクシーで帰ってくる時に、ちらっと小雪っぽいのが降り初めてはいたが、まさかこんなことになっていたとは。
11時から撮影。
皆さん、雪の中を集ってくださる。
撮影は、ひとつひとつ順調に進んでいった。
日置さんは、「うわー、すごい降ってきた」と何度となく言う。
帰りの心配をしているのかと思っていたら、言うたびに顔が上気して、にこにこ顔になっている。
帰る時に聞いたら、雪が好きなんだそうだ。
やっぱり。
小学生が運動場を見て、授業中だからあんまり出さないようにしてるけど、喜んでいるのが出てる出てる、っていう感じだったもんな。
今日は、カット数が多くて、私が料理しているところとか、鍋の音を聞いているところだとか、いっぱい撮られた。
昨日は、倫子ちゃんといしいさんが、自分の頭や体を使って今まで何十年もかかって感じたり考えたりしてきたことを、惜しげもなく語り合い、目の前の人々に聞かせていた。
料理を作りながら、昨日のふたりの顔を思い出し、じーんときた瞬間があった。
倫子ちゃん、私もやってるよ。
分野はちがうけど、私は料理でだけど、大勢の人たちに届けたいものを今作っているよ。
なんだかこんな風にして、違う場所で、それぞれの仕事に没頭していることの喜びを感じました。
雪が降っていると、部屋の中の温かさはひときわだった。
なんだか、スタッフの帰りのことを思うと申し訳ないのだけど、私は、自分の家でこうやって作った料理を写していただくのが、とても幸せだった。
雪の日の、シチューのコマーシャルのお母さんみたいな気持ち。
夜ごはんは、お粥、湯豆腐(ほうれん草、木綿豆腐)、親子煮(鶏肉皮なし、玉葱、卵)。
スイセイのお腹はまだ壊れているそうだけど、「ごちそうサマー、おやすみウインター」と言いながら、元気に部屋に帰っていった。
これからまたひと作業やるらしい。



日々ごはんへ めにうへ