2006年6月中

●2006年6月20日(火)曇りのち晴れ

今日もまた、梅雨の中休み。
私はあちこち雑巾がけ、スイセイは、杏の実を採るための発明品を作っている。
ステンレスの長い棒の先に、穴をあけたペットボトルをくくりつけたもの。
このところスイセイは、パソコンをやっていると聞こえてくる、ボトン、ボトンという音が胸にこたえていたのだそう。
大家さんの物置きの屋根に、熟した杏の実が落ちると、けっこう大きな音をたてるのです。
誰も採らないから、地面の上でどんどん腐って、羽虫が飛んできているのを、私も横目で見ていた。
手が届くところだけのは採って、杏シロップを作ろうとスタンバイしているのだけど。
エバジャムのエバ子に電話して、欲しかったら採りにおいでとスイセイが電話した。
今日は1時から、有里枝ちゃんが写真を写しにくるんだけど、それまでに、けっきょくふたりでずいぶん収穫した。
発明品は、すごくよくできている。
ペットボトルの切り口が、ちょうどナイフのような役目をして、実のつけ根に切り口を持っていくと、ポトンと穴に実が入る仕組み。
私もやらせてもらったが、杏の実はちょうど玉みたいだし、長い棒の先でつつく感じも何かにそっくり。
それはビリヤード。
穴にストンと入って視界から急に消えるところも、音もそっくりだ。
ホーローのバケツにいっぱい採った。
そのうちに有里枝ちゃんが来た。
エバ子も来て、下に落ちている杏の中からも、落ちたばかりのだいじょうぶそうなのをくまなく拾っている。
私は、完全につぶれていたり、腐っているのを、どんどんビニール袋に詰めた。
エバ子は、落ちている杏まで、その場でかじっていたそうで、あとでスイセイが感心していました。
カゴに詰めながらまたかじって、「うーん、おいしい! 酸っぱいし、お店のより濃い味がする」と、とても喜んでいる。
なんか、エバ子のやっていることって、原始人の仕事みたい。
季節になったら実り、放っておいたら誰も食べない、落ちて腐ってしまうようなものを収穫して、おいしく美しいジャムにする。
それが、たくさんの人の食卓にのぼって、喜ばれる。
私は、その手伝いをした感じ。
有里枝ちゃんは、スイセイ・ショーで初めてスイセイの作品を見て、衝撃を受けたんだそう。
それで、別に本を作るとか写真展をするとかいうことではないんだけど、とにかく撮らせて欲しい言われ、「別にええで」ということになった。
今日で2回目だけど、有里枝ちゃんの好きなように、自由にやってもらっている。
私たちが下で杏をとっている間、あちこち写していたみたい。
なんか、有里枝ちゃんて爽やかで、自由な感じだから、ぜんぜん気を使わない。
終わってから、皆で休憩タイム。
だらだらと世間話をして、なんとなく大事な話もして、スイセイと私は缶ビールを飲み、解散となった。
なんだか、楽しかったな。
今日もまた、『すいか』を見る。
風も通り抜けて、晴れ晴れとして、なんか、夏休みみたいな日だった。
5時ごろにお腹が空いてそうめんを食べたので、夜ごはんはなし。
炊込みご飯と水菜のおひたしだけ作り、食べたい人が好きな時に食べることにした。
風呂から上がって、『なんでも鑑定団』を見る。
私は陽に焼けたのかもしれない。腕が火照っている。

●2006年6月19日(月)晴れ

梅雨の中休み。
カラッと真夏のようなので、たっぷり洗濯をする。
スイセイは朝から、市役所やらどこやらかにやらに、出掛けている。
炎天下を歩き回り、きっとぐったりして帰ってくるだろうから、今夜はおいしいものを作ってあげよう。
汗をかきかき雑巾がけをし、シャワーを浴び、街へ買い物に。
蟹でも買ってやろうかと思ったのだが、あんまりいいのがないので、お刺し身をいろいろ買う。
手巻き寿司にしようと思って。
帰ってから、またシャワー。
パリパリに乾いた洗たく物をたたみながら、外があまりに綺麗なので、ベランダに出る。
イスを出し、缶ビールを飲みながら、ゆっくりと暮れゆく空を眺める。
夏って、やっぱり大好きだ。
なかなか陽が暮れなくて、気怠くて。
薄着になるから胸が開いて、清々しい空気も、切なさもドカドカ入ってきて、泣きたくなる。
梅雨の最中とは信じられないような、プレゼントみたいな夏日であった。
夜ごはんは、手巻き寿司(真鯛、鮪、剣先いか、ウニ、納豆、胡瓜、みょうが)、キャベツと青じその塩もみ、小松菜のおひたし(塩、ごま油、煎りごま)、豆腐とわかめのすまし汁。

●2006年6月18日(日)雨

梅雨らしい、しっかりした雨だけど、空が黄色っぽい。
緑は、思う存分に濡れて、気持ちよさそうに葉っぱを揺らしている。
スイセイは、忙しそう。
うちは、会社になるそうで、このところずっと勉強しているのです。
新しいハンコを作ったり、法務局というところに行ったり、私には分からないことをやってくれている。
でも、いろんな手続きがあって、なんだか「会社ごっこ」みたい。
人生ゲームとか、そんな感じ。
私は、ひとつコラムを書かなければならないんだけど、締め切りがまだ半月あるから、今日は何もやらない日に決める。
あとで、『まる子』と『サザエさん』を見よう。
もしかしたら、サッカーも見るかも。
夜ごはんは、鯵の開き、人参の千切りサラダ、新じゃがのバター醤油蒸し、魚肉ソーセージとほうれん草の塩炒め、えのきの味噌汁、玄米。

●2006年6月17日(土)晴れのち曇り夜になって雨

朝、カーテンのすき間から明るい光が。
「貴重な晴れ間を大切にしましょう」と、天気予報の人が昨夜言っていたのを思い出し、跳ね起きました。
部屋干しの洗たく物をベランダに出し、すぐに次のを洗う。
お昼にカレーライスの残りを食べて、これから田中君のお見舞いに行ってきます。
田中君は、すごく変な格好でベッドの上に横になり、メールを打っていた。
横向きなんだけど、頭だけ上を向いて、ちょっと海老反り風。
ケイタイ電話を目の前にくっつけ、集中している。
私が声をかけると、「ハイッ」とか言ってこっちを見上げるんだけど、すぐには分からなかったみたい。
完全に看護婦さんかと思っていたそうだ。
10秒ぐらいして、やっと、「アッ」とか言って起き上がった。
変な格好をしていたのは、首の下から点滴を入れていたからだけど、それにしても不思議な体勢だった。
坊主頭が伸び、黒縁の眼鏡をした田中君は、顔色も赤みがさして、すごく元気そう。
パジャマなんかじゃなく、部屋着みたいな短いズボンを履いていた。
普段の田中君よりも、ずっと楽そうで、子供みたいで、生き生きしているように見えました。
きっと、看護婦さんたちにけっこう可愛がられているんじゃないかなと思っていたら、「看護婦さんに怒られながら、やんちゃに暮らしてます」なんて言っていた。
病室は狭いので、休憩場みたいなところに行く。
田中君みたいに、点滴の柱を持ったおじさんや、その家族や、友だちや、子供たちが思い思いに腰掛けてお喋りしているんだけど、なんか皆明るい。
病院特有の深刻な空気がない。
窓も大きいし、光が入って、広々して。
見ず知らずの人たちが、広場に適当に集っているこの感じは、公園のベンチみたいだ。
私はすっかり安心し、『フランス日記』をあげたり、『たべるしゃべる』の話をしたり。
田中君の声はいつもみたいに大きくて、点滴のおじさんが一瞬こっちを見たけど、すぐにまた家族の方に向き直った。
葛西さんの表紙カバー案を見せたら、田中君は、「ハーーーーッ」と言った。
感心したり、感動したりすると、田中君はそう言う。
心からまっすぐに出てきたみたいな声で。
それが、すごく懐かしくて、私は嬉しかった。
帰り道を歩きながら、「なんだか元気になっとらん?」とスイセイが言う。
「飾りや余計なものがない、健全なええもの」を、田中君からもらった気がするんだそう。
私も、同じようなことを感じていた。
病気の人からパワーをもらうなんて、普通は逆だと思うんだけど、なんだか本当にそういう感じだった。
純真で、健全な、ええものをもらってしまった。
私は、つまらないエゴみたいなのに固まらずに、やわらかい心で、本の仕上げに取り組もう。
そんな風に思った。
商店街のマンションの軒先に、ツバメがツーーーッと飛んできた。
見ると、巣作りをしている。
ツバメはまだ若く、顔のところの赤い色もツヤツヤしている。
泥の玉みたいなのをくわえてきて、ひとつひとつ唾でくっつけている。
気が遠くなるような作業だろうけど、こつこつと1/4くらいが出来ていた。
「よーし、がんばれー」と声援を送るが、ツバメは迷惑そうに、忙しそうに、またどこかへ飛んで行った。
その後、「タミゼ」でガラスの展示を見て、吉祥寺に帰り、外がまだ明るいうちに、近所の蕎麦屋でビールを飲む。
夕暮れの、まだ明るいうちに、ほろ酔いでてろてろ歩いて帰ってきました。
肉屋で、揚げたてのコロッケを買い食いしながら。
「タミゼ」のガラスの展示、ずごーくおもしろかったんだけど、長くなってしまったので、こんど書くことにします。

●2006年6月16日(金)雨のち曇りのち晴れ

うすら寒いような日。
朝っぱらから、クラムボンのカバーアルバムを聞く。
1曲目の郁子ちゃんの歌が、昨夜、風呂に入っている時から、そして寝ながらもずっと残っていた。
曲の感じとか、ピアノの音とか、声とか言葉とか。
今日の、しんみり湿気の多い日にぴったり。
あと、「ウェイバー ウェイバー ウェイバー ララ はじけてくー」っていう歌も、今日に合う。
なんか、死の世界とこっちの世界の、薄く重なったところ。
ぜんぜん暗くなくて、茫漠と明るいところ。
若者たちの刹那っぽい、悲しくも楽しくもないけど、少しだけ楽しいような気分。
つま先や指の先が冷える。
午後から、だんだん明るくなって、3時には晴れ間も出てきました。
気持ちがいいので、打ち合わせの前に買い物へ行ってしまう。
3時半から、打ち合わせ。
『たべるしゃべる』のカバー案が出来てきました。
葛西さんのデザイン、素晴らしい。
違和感がまるでない。
昨夜、布団の中で色についてぼんやり思っていたのだけど、まさに同じ色のがあってドキッとした。
迷わず、それに決める。
夜ごはんは、南国カレー(鶏手羽、玉葱、人参、トマト、ターメリックライス)、鰹のエスニック風刺し身、キャベツとレタスのサラダ(青じそ、香菜)。
鰹のたたきにしようとお刺し身を買ったのだが、カレーも食べたくなり、ふたつのメニューを組み合わせるために、両方ともエスニックにしてみた。
うまいこといったが、カレーは、スイセイにはぎりぎりの辛さだったみたい。

●2006年6月15日(木)曇りのち雨、肌寒い

『きょうの猫村さん2』を、昨夜寝る前に読んだ。
やっぱり、すごくおもしろい。
夜中に、「アハハハハハハ」と、大声を出して笑った。
どこがおもしろいって、やっぱり猫村さんが猫だっていうことだ。
アニメとかの擬人化された猫ではなく。
猫村さんは喋ったり、ごはんを作ったり、買い物をしたりするけど、急いでいる時には、どうしたって四つんばいで走る猫なのだ。
たとえばハルがエプロンをし、踏み台に乗って洗い物をしている姿を私は想像できる。
指が広がらないから、爪でひっかけてスポンジをつかんで洗うんだけど、後ろ姿なんか、めちゃくちゃ可愛いし、笑える。
たぶんきっと、そんな感じなんだと思う。
とくに、「村田家政婦」の家に帰ってから、おかしを食べたりしながら皆でくつろいでいるシーンが好き。
そっけないけど情がある奥さんの台詞や、ばあさんや尾仁子にもぐっとくる。
今日は、3時から『たべるしゃべる』の打ち合わせ。
もう一通りゲラを見直したり、準備をする。
2時間ほどで終わり、『すいか』タイムだ。
打ち合わせの最中に、失礼してビデオを録っていたのです。
夜ごはんは、がんもどきの薄味煮、小松菜おひたし(塩、いりごま、ごま油)、蒸しアスパラ(自家製マヨネーズ)、焼売(陳さん冷凍の)、おくら納豆、玉葱の味噌汁、玄米。
陳さん印の焼売、濃厚ですごくおいしく、スイセイが気に入っていた。
そういえば、昨夜、借りてきたビデオを見ようと思ったら、違うのが入っていた。
すごくびっくり。
「へ? 」としばらく考えて、思い当たったのだが、それは私がやったのだ。
借りようとして手に持っていたビデオの方を、次に、これも借りようかな……としばし悩んだビデオのカバーの方に入れて、やっぱりやめようと戻してしまったのだ。
今ごろ、あの棚のあの辺りに、カバーとは違う中身が入ったビデオがある。
そんなことってあるんだな。
きっとツタヤの人もびっくりだろうから、返す時にあやまろう。

●2006年6月14日(水)曇り

12時から撮影と打ち合わせ。
斎藤君はまた陽に焼けて、すっかり元気そうになっていた。
屋久島に行っていたんだそう。
『記憶のスパイス』の本のために、あちこち撮影。
丹治君と浅井さんもいらっしゃるので、お昼は鰻と牛肉のちらし寿司を作った。
桃ちゃんは、うちに飼われている猫みたいだそう。
あちこち自由に覗いたり、ごはんをもらったり。
そういえばさっき、ベランダに出て、柵の向こうの隣の家を観察していたみたい。
打ち合わせも無事終わり、『すいか』を見てまた泣いて、鳥の声がするのでベランダに出ると、ちょっとだけ晴れている。
曇りの中に小さい晴れがくるまれている。
ハルも足をふんばって吠えている。
杏の実も、オレンジ色で、葉っぱにうっすら陽が当っている。
うう、散歩に行きたい……。
スイセイを誘ってみるが、今は忙しくてそれどころじゃないらしい。
我慢できないので、街へ買い物へ。
自転車を、できるだけゆっくりこいで、辺りをキョロキョロ眺めながら行く。
ビデオも2本借り、本屋さんに行って、ひさしぶりにあちこち眺め回し、4冊買ってきました。
どうやら私は今、娯楽に飢えているのだ。
本の中には猫村さんも入っている。ふふ。
風呂に入ったら、今夜は猫村さんだ。
夜ごはんは、味噌ラーメン(小松菜とえのき、茹で卵、メンマ)、トマトとルッコラのサラダ(玉葱入り酢油がけ)。

●2006年6月13日(火)曇り

昨夜は、夢の中でもゲラの校正をやっていた。
いつ雨が降ってきてもおかしくないような空。
それでも洗濯をする。
明日は撮影と打ち合わせなので、今日中にゲラを仕上げる予定。
3時55分からは、お楽しみの『すいか』だ。
見逃していた回なので、ティッシュがびしょびしょになった。
やっぱり、すごくいい。
明日のも見逃していたようだから、すごく楽しみ。
あっ、でも打ち合わせだから見れないかも。
見終わってから、ラストスパート。
7時までには終わった。
もう、鼻血が出そうだし、のどはつまるし、頭の皮がパンパンになっている。
鏡を見ると、顔が赤い。
血が上っているのだ。
夜ごはんは、塩鮭、ゴーヤと新じゃがのバター醤油炒め(新じゃがは茹でたもので)、トマト、蒟蒻の炒り煮、豆腐の味噌汁、玄米。
夜、風呂から上がってテレビを見ていたら、ザーーーッと洗い流すような雨。
布団を敷いて、「ハナレグミ」の野外ライブのDVDを見る。
去年の9月に、小金井公園でやったやつだ。
前に、せっかくもらったのに、ずっと見てなかったのです。
くたびれた脳みそと胸に、タカシ君の声が沁みた。
夢中で聞いているお客さんたちの顔も写っていて、じーんと何度も涙が出る。
タカシ君の表情も、いろんな気持ちでいっぱいになっているのが、ちゃんと写っていた。
それを見て、私ももらい泣き。
だんだん夕方になって、ぼんやり暗くなってきて、きっともう少しで終わってしまう。
緑の森にも陰りが出て、シャボン玉が空に吸い込まれてゆく。
そんな、あの日のことを思い出してしまった。

●2006年6月12日(月)ぼんやりした晴れ

あちこち掃除をして、12時から打ち合わせ 1時間ほどで終わり、気分がいいので、郵便局へ行く。
帰りに、農家の野菜をいろいろ買う。
新じゃがが、皮がすりむけそうに薄くて、とてもおいしそう。
大きいの3個入りと、小さいのがたっぷり入ったのを買う。
あとは、ルッコラ、ピーマン、胡瓜。
今日は、肉じゃがを作ろう。
それでも元気が治まらないので、街へ出て、「フェブ」で、いがらしろみさんのジャムも買う。
ろみさんは、可愛らしい方だった。
ストライプのパリッとした白衣を着て、ニコニコしていて。
肌がピンピンしていた。
なんか、人に分け与えることが大好きみたいな、大盤振る舞いの人みたいな気がしました。
いかにも、おいしい物を作る人っていう感じ。
赤紫蘇を買って帰り、この間漬けておいた小梅に加えた。
余ったもので赤紫蘇シロップも作る。
そして、ゲラの続き。
夜ごはんは、新じゃがの肉じゃが(豚バラ、新玉葱)、お刺し身盛り合わせ(中トロ、イナダ、するめいか)、胡瓜の食欲味噌添え、焼きピーマン、冷やっこ、大根と青じその味噌汁、玄米。
スイセイは、サッカーを見ている。
私も最初だけ見るが、わけも分からなくドキドキするので、途中でやめて、これを書いている。
さて、続きのゲラをやろう。

●2006年6月11日(日)ずっと雨

朝方は強く降ったけど、しとしと雨がずっと降っていた。
音楽を何もかけず、ゲラの校正に集中する。
ひとり終わるごとに、お茶をいれながらやる。
台所から覗くと、リビングがとてもいい感じ。
大テーブルの上に書類が広げてあって、その上をおおう空気が、のったりと安定していて。
カリカリした空気がどこにもなく、ほど好く温かい。
スイセイも、部屋にこもって何かしている。
『まる子』が始まるまで、あっという間だった。
また明日、続きをやるのが楽しみだ。
夜ごはんは、鳥南蛮そば、精進揚げ(ピーマン、茄子、みょうが、ゴーヤ〕、トマト、胡瓜と大根とみょうがの塩もみ。



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