2006年9月上

●2006年9月10日(日)快晴、真夏日

11時まで寝てしまった。
昨日は、「Feve」でパンツを注文し、リーダーとスイセイと3人でお蕎麦屋さんに行って、ちょっと飲んだ。
その後、リーダーの部屋にも遊びに行った。
ナツコもヨウコちゃん(皆、同じアパートの住人)も集ってきて、リーダーの写真の上映会をマックでやった。
お膳を囲んでごちゃっと皆が座り、あーでもないこーでもないとお喋りする感じが、長屋みたいだった。
古めかしい小さい扇風機が回っていて。
ナツコが、自分の部屋に三矢サイダーをとりに行ったりして。
スイセイはまた飲み始めてしまい、女の子たちに囲まれて嬉しそうで、もっと居たいみたいだったから、私は12時くらいにひとりで帰ってきました。
というわけで、ヨガはお休み。
暑い!。
青い空に白い雲、真夏のようです。
昼間っから花火がパンパン鳴っているのは、吉祥寺のお祭りだから。
ナツコがおみこしを担ぐのだそう。
今夜は、エゾアムプリンの素焼きの器で、グラタンを作る予定。
『まる子』が始まる前に、あとで買い物に行ってこよう。
買い物に行ったら、スーパーの入り口のところで、小学校4年と5年生くらいの姉弟が、小猫を抱っこしていた。
後ろの柱に、「小猫の里親になってください」という張り紙が。
それがすごく可愛いかった。
日曜日の夕方、買い物客がたくさん来るから、すごくいいアイデアだ。
買い物を終えて出てきたら、もういなかった。
無事もらわれていったんだろうか。
夜ごはんは、鮪の刺し身、新れんこんといんげんの薄味煮、ほうれん草のおひたし(しらすのっけ)、焼きそば、おすまし(大根、人参、牛蒡。残りもの)、玄米。
グラタンを作る予定だったけど、この暑さなのでやめにした。
また、近々作ろうと思う。
新れんこんが、秋冬のと同じくらいに安くなった。

●2006年9月9日(土)曇り、蒸し暑い

9時半に起きてヨガ。
今日は、新しい型を1グループ加えてみた。
下半身を逆立ちみたいに上に伸ばし、腕と肩で支える型をやって、そのまま両足を頭の向こうにつく型もやった。
上級者の人は、そのまま両足を開いて耳を挟むように膝をつき、中国雑技団みたいなことをやるらしい。
頑張ってそれに近いことをやっているうちに、血が逆流するみたいになって、太ももから足首までジリジリしびれてきた。
全工程で1時間以上になってしまい、終わった時には、体中のネジがはずれたようになった。
頭の中までガクガクしながら、脱力して風呂に浸かる。
水を1杯飲んで、窓から外を眺めながら、ハヅキの島バナナ。
とってもおいしい。
ただの甘さじゃなくて、南国の花の香りが混じったような甘味と酸味。
ヨガの後って、果物のおいしさがよく分かる。
ピオーネも食べてみる。
ああ、おいしいなぁ果物って。
今日は、冬布団がかぶさったみたいな雲だけど、たまに、ひょろ〜っと太陽がのぞいたりもする。
夕方、スイセイと待ち合わせて、ギャラリー「Feve」へ。
感じがよさそうな、洋服の展示会をやっているのです。

●2006年9月8日(金)曇り

オナガがたくさん来ている。
尾っぽを真っすぐに伸ばし、急降下して木の中につっ込んだかと思うと、2羽が交差して、すれすれのところでカーブしたり。
盛んに出たり入ったりしているので、なんだか、木が森のように見えてくる。
鳴き声も、ジャングルの中に響いているみたい。
今朝はすっかり寝坊して、11時半に起きた。
わざと寝坊した。
ヨガは、昨日よりはよくなっているけど、下を向いていて頭を上げる時に、スーッと血が下がるようになる。
めげずにやっていたら、そのうちいつもの調子に近づいてきた。
普段のテンションよりも、少し低いくらい。
そのくらいの方が、バリバリ元気な時よりも集中できるみたい。
私は自我が強いから、元気な時にはそれで失敗をしたり、そのおかげでうまくいったりもする。
ものを作る時は、爆発的なエゴも必要だし、落ち込みも必要だし、まん中へんのニュートラルな状態もすごく大事。
そして、今日の自分は、ニュートラルよりも1センチほど下にいる。
それが心地いいのは、今日の空模様とリンクしているからかもしれない。
ではここで、おとといの印刷所見学のことを書きます。
「凸版印刷」は、地下鉄を2本乗りかえて、吉祥寺から1時間半のところにありました。
とても大きな工場で、何棟にも建物が分かれている。
約束していた棟の玄関で、丹治君が迎えてくれた。
中に入るといきなりインクの匂い。
エレベーターの中まで、インクの匂い。
古い床は、ところどころインクの黒いシミが染み込んで、ワックスを塗ってあるのか、インク油でそうなるのか、ツルツルピカピカしている。
毎日掃除をし、よく手入れしながら、何十年も(もっとかも?)使い込んだ年季の艶という感じ。
昔ながらの、はめ木の茶色い床です。
重たいドアを開けると、インクの匂いが消え、パンを焼いているような香ばしい匂いになった。
その奥の待合室みたいな部屋に、桃ちゃんと斎藤君はすでに来ていて、2枚目の印刷を今やっているところ。
ほどなく、水色の作業着姿の職人さんが、ふたり入ってきた。
テスト印刷が上がってきたのです。
こうやって試し刷りをして、そのたびに全回刷ったのや色校とを比べ合い、斎藤君と丹治君がチェックを入れている。
でも、私にはその違いがよく分からない。
ジーッと目を凝らしてみても、ぼんやりしてきて、見れば見るほど分からなくなる。
斎藤君と丹治君は、私に見えない色が見えるのだ。
カメラマンとか編集者、デザイナーさんとか、本当に目が命の仕事なのだなあ。
「もう少し浅く」とか、「○色を重ねて」とか、注文を出している。
職人さんたちは、意見のようなことをひと言も言わずに、両手を前で組んで(腕組みではない)立ったままじっと聞いている。
そうやって、納得がいくまで何度でも試し刷りをし、本番の印刷にとりかかるそうだ。
印刷物は赤、黄、青の三原色と、黒だけで成り立っている。
まず、私はそのことが信じられなかった。
印刷された斎藤君の写真を見ると、緑の濃淡や、オレンジや微妙な黄色やら、白のグラデーションやら、豊かな色の集りにしか見えない。
でも、丹治君が持っている強力なルーペを紙の上に当てて覗いてみたら、蝶々の羽の粉を顕微鏡で覗いた時のように、細かい点々の集りだった。
よく見ると、その細かい点々は赤、黄、青、黒のたった4色で、密集度が多いか少ないかで、いろんな色を作り出している。
そんなことも私は知らなかった。
でも、たしか、前に同じことを丹治君に教わって、ルーぺで覗いてみて、その時にも「わーすごい!」と驚いたような気がする。
まるっ切り忘れていたけれど、今日の驚きのことは、もう二度と忘れないだろう。
だって、実際に刷っている工場内に連れて行ってもらい、現場を見せてもらったのだ。
印刷の機械は、頑丈な黒い鉄でできた、巨大ないも虫みたいな感じ。
いも虫のスジが、インクがたまっているところ。
最初のスジは黒インク、次に赤インク、次に青インク、最後は黄色インク。
その上を紙が流れていくごとに、まず黒が印刷され、その次に赤がのせられ、次に青がのって、黄色がのせられる。
刷り上がったばかりの紙が、いも虫の口から1枚1枚出てきて次々重ねられるんだけど、刷りたてはインクがまだ乾いてないので、くっつかないように、小麦粉みたいな白い粉がうっすらと全体にふりかけられ、挟まっているのだそうだ。
だから、機械の周りとか床とか、なんとなしに粉っぽい。
そして、「ガタガタジャッジャッ」と、始終大音響が響いている。
さっき待合室に試し刷りを持ってきてくれた、片耳にピアスをした若いお兄ちゃんが、この機械を操作していました。
印刷機というのは、どんなに正確にやっていても、何枚か刷っているうちに、微妙に色味が変わってしまうことがあるそうで、完成品をホワイトボードに貼っておいて、時々チェックする。
ちょっとでも変化していたら、たくさんあるボタンを微妙に操作して、色を安定させるそうだ。
失敗作は専用の場所に重ねられ、裏紙として、別の作業の時に使う。
職人の人たちは、一瞬も鳴りやまないすごい騒音の中で、こんな風に働いていたんだ。
暑くはないけど涼しくもないし、もちろん風なんか入ってこない。
怪我や事故のないように、いつもどこかが緊張しているだろう。
お腹が空いたり、お茶を飲みたくなったり、煙草を吸いたくなっても、休憩時間がくるまでは、ずっと機械に向かっている。
そうやって、本ができていくんだな。
そんないろいろを、いつも丹治君がお世話になっている背広を着た藤井さんが、分かりやすく説明してくれる。
機械の音に負けないように、大声を出して。
藤井さんは、アノニマ・スタジオで何回かお会いしていたし、私の本を作るたびにいつもお世話になっているのは聞いていた。
丹治君がとても信頼している方なのも知っていたけれど、どんなお仕事をしているのか、今いち分からなかった。
工場で作業服を着て実際に印刷をしてくれる職人さんたちと、私たち本を作る側の、作家やカメラマン、デザイナー、編集者との間に立って、藤井さんは橋渡しをしてくださるのだ。
職人さんは、『記憶のスパイス』のがっしり写った斎藤君の料理写真も、誰かが撮ったヌードグラビアも、猫の写真も、同じ集中度でムラなく作業をする。
作業というのはそういうものだから、ものを作る側の(いい本を作りたい)などの熱い気持ちを、藤井さんが翻訳し、現場の言葉にして伝えてくれる。
印刷機は、24時間休みなしで動き続けているというのにも驚いた。
機械が止まるのは、お盆と正月の何日間かだけ。
年がら年中、あの「ガッシャンガッシャン」という音が響いている。
工場の爆音を聞きながら、甘いお菓子を作ってくればよかったと、私は何度も思った。
職人さんや藤井さんに、休憩時間に食べてもらってもいいし、うちに持って帰って奥さんや彼女にあげてもらってもいいし。
本というのは、本当にたくさんの人たちのおかげで出来上がる。
丹治君も、こんな風にして、今まで何度も何度も現場に立ち合ってくれていた。
そのおかげで、『野菜だより』のあの美しい本があるんだ。
自分は、なんとなく想像していただけで、本当のことは何も分かってなかった。
愕然とするような、胸が苦しくなるような、お酒でも飲んで泣き出したいような気持ちで、帰ってきました。
印刷所に行けて、本当によかったな。
社員食堂のことも書きたいんだけど、あまりにたくさんになっちゃったから、こんどまた書くことにします。
夜ごはんの支度をしていたら、エゾアムプリン試作第2弾が届きました。
ドキドキしながら箱を開けると、紙ぶたの上に厚紙がぴったりかぶさって、松ぼっくりのハンコが押してあるのが出てきた。
器の下もトレーシングペーパーが2重になって、動かないように段ボールの紙が何枚か敷き詰めてあり、とても安心な梱包。
プリンもまったく崩れてないし、焼き色のきれいなのが、そのまま届いている。
やったー!!。
味も、うーん、やっぱりおいしい。
少しずつ味わいながら、北海道の牧場や、卵屋さんや、蜂屋さんのことを思い浮かべた。
食べ終わって、またすぐに電話する。
電話を切る時に、アムがコロを出してくれたので、「コロちゃーん、コロちゃーん」と、一心に呼びかけた。
コロは、ちゃんと私の声を聞いていたそうだ。
「じゃあ、コロの毛の音を聞かせてあげるね」とアムが言って、ガサガサガサーッと、草むらを歩いてるみたいな音がした。
夜ごはんは、秋刀魚の干物、大根おろし、小松菜とクレソンと塩豚の炒め物、すまし汁(大根、牛蒡、人参)、玄米。

●2006年9月7日(木)曇り一時雨

8時に目が覚めたけど、胃がムカムカして起きられなかった。
どうしてなのか理由は分かっている。
昨日、帰りに肉屋でコロッケを2個買い、歩きながら食べたのだ。
帰ってからも、夕方の教育テレビを見ながら、残りの1個をたいらげ、厚焼き煎餅を5枚くらい食べた。
印刷所の社員食堂でも、お昼に赤いウインナーのフライを1本食べた。
おかげで、昨夜は夜ごはんをほとんど食べられなかった。
それにしてもヨガって、体の具合の悪さが如実に現れるものだ。
集中してやろうとしても、フラーッとして気分が悪く、貧血みたいになってしまう。
無理は禁物と思い、とちゅうでやめる。
校了のゲラを2本仕上げ、ファックス。
校了の時期って、どうしてどこの雑誌も重なるのだろう。
しかも、戻しの猶予が2日とか1日とかのぎりぎり。
しばらく雑誌の仕事をしていなかったから、こういうペースのことを忘れていた。
午後になって晴れ間が出て、ちょっと暑くなってきた。
仕事の電話もいくつかかかってきたが、今日はダメダメな日ということにして、布団を敷いて『富士日記』を読む。
スイセイは夕方から出掛けたので、夜ごはんは何も作らない。
まだ、昨日の印刷所でのことが書けません。

●2006年9月6日(水)雨、肌寒い

あいにくの雨だけど、7時半に起き、軽くヨガをやって朝ごはん。
さーて、印刷所に行ってきます。
さっき、明るいうちに帰ってきました。
今日は、とても大事な日だった。
印刷のことも、そこで働いている職人さんたちのことも、丹治君の仕事のことも、私は今まで何ひとつ知らなかった。
なんか、胸のところまで感じたことがいっぱいになっているので、今はまだちゃんと書けない。
明日、ゆっくり書こうと思います。
帰りにいつものお蕎麦屋さんに寄って、ちょっと日本酒でも飲んでゆっくりしようと思ったんだけど、あいにくお休みでした。
スイセイは、すっかり蕎麦の頭になっていたので、夜ごはんはどうしてもざる蕎麦にしてほしいらしい。
夜ごはんは、とろろ蕎麦(茹で小松菜添え)、ゴーヤーと塩豚とクレソンの炒めもの。

●2006年9月5日(火)快晴

夕方、日記を書こうと思ったんだけど、もう眠たくて眠たくて、日記どころじゃなかった。
早めに風呂に入って、自分が出ているビデオ(NHKの)を見ているうちに、やっと目が覚めてきました。
なので、目がねをかけてぎゅっと集中し、ゲラの校正を2本やってしまう。
それでほっとして、日記を書いているところです。
今、夜の10時くらいなのだけど、蝉がいっせいに鳴いている。
今朝はヨガもきっちりやって、11時から撮影でした。
2時半にはスッキリ終わり、窓を開け放ってヒラリンと白ワインをちょっとずつ飲んだ。
それで、簡単に酔っぱらってしまったのだ。
風も、陽射しも、とても気持ちよく、ヒラリンの話がおもしろくてよく笑った。
ハヅキの島バナナは、白ワインのいいつまみになった。
普通のバナナと違って皮が薄く、野生的な酸味があり、みっしり詰まったおいしさ。
あんまり気持ちがいいので、それほど買う物があったわけではないけど、ヒラリンが帰る時に自転車で買い物に行った。
紀ノ国屋のレジの人は、私が酒くさかったんじゃないかな。昼間っから。
ヒラリンは子供のころ、丹治君と同じように(『たべるしゃべる』の)、物や食べ物や植物やら、ぜんぶが自分と同じように、生きてると思っていたそうだ。
だから、たとえばちびた鉛筆とか、消しゴムとか、人参とか捨てられないのは、もったいないからじゃなくて、生きてるのにかわいそうで捨てられなかったんだって。
「もったいない」と「かわいそう」は、似ているようでいて、ダイナミックさがぜんぜん違うなあ。
夜ごはんは早めにして、撮影の残りの炊込みご飯と、大根と鶏のスープと、鰹のたたき、だけ。
ものすごい眠たくて、スイセイに話しかけられても、答えられなかった。
細かい話になると、体の底から面倒くささがのぼってきて、イラッとしてしまう感じ。
明日は、朝から印刷所に見学に行くので、今夜は早く寝よう。
『記憶のスパイス』の刷りがあるのです。
どうやって本が出来ていくのか、前からずっと興味があった。
職人さんたちは、どんな感じなんだろう。
社員食堂も興味がある。
丹治君と桃ちゃんと斎藤君は、8時半時には向こうに着いているらしい。
私たちは9時半に家を出る予定。

●2006年9月4日(月)快晴

9時に起きてヨガ。
リラックスの時、目の上に青空と白い雲が見えた。
蝉が鳴いています。
スイセイは8時に起きて、昨夜の残りのお寿司をひとりで食べ、出掛ける支度をしている。
武蔵野市の税務署に行くのだそう。
「立川にある都の税務署にも行ってくるけえ」と言って出ていった。
私は、洗濯したり、コーヒーをいれたりして、新聞を読みながらひとりでのんびり朝ごはん。
スイセイが帰ってきた。
書類を忘れたんだそう。
てくてく歩いてやっと税務署に着いて、受付のところで書類を忘れたことに気がつき、また歩いて帰ってきた。
外は、真夏のように暑いのだそう。
水をゴクゴク飲んで、またすぐに出掛けて行きました。
ハヅキのバナナは、2本だけ黄色くなってきた。
今夜、食べれるかも。
アムからメールが届いたんだけど、富良野の夜は、もうストーブをつけたいくらいで、タイツにトレーナーらしい。
北海道の夏は短いっていうけど、本当にそうなんだ。
畑も、玉葱や豆やとうもろこしやらの収穫がどんどん終わりに近づいて、もう、まっさらな土にもどっているところもある。
今は、たくさんおいしい野菜をもらえるけど、冬になったらなくなるから、長い冬のために、アムは保存食作りに燃えているらしい。
カトキチは、最近はプリンで残った牧場の牛乳を温めて、コーヒー牛乳を作っているんだって。
アムは、ホットミルクにはちみつを入れて飲んでいる。
アムの家で食べたいろいろについて思い出したのだけど、あの家も、いしいさんの家みたいに、おいしい神様がいるな。
料理をいろいろ工夫するとか、ていねいに作るとか特別にしてなくても、ただ食べたいものを自由に作っているだけなのに、なんでもとてもおいしく出来上がる。
台所はシステムキッチンみたいにピカピカではないけど、清潔で、窓からは自然の大きい景色が見えて、水が清らかで。
うちの実家には、おいしい神様がいない。
富士山の麓だから、水は冷たくておいしいんだけど。
たぶんそれは、母が料理を作ることについて興味がないからだろう。
いちおうは3食作るけど、おいしくしようとか、出来上がりを想像して夢を膨らませるような気持ちがまったくないか、少ないんだと思う。
それでも自分ではおいしいと思っていて、満足しているし、感謝もしているみたいだから、ぜんぜんオーケーだけど。
たぶん母の興味の矢印は別のところに行っていて、そっちに時間をたっぷり使って生きてきた。
昔はそういうことを考えると、料理がいちばん大事なことなのに!と思って、喧嘩したり、うら淋しいような、哀しいような気持ちになったものだけど、今ではもうなんとも思わない。
それはそれで母の人生なのだから。
何が幸せと感じるかは、人によってうんと違うのだ。
夜ごはんは、カジキマグロのみそ漬け焼き(茹でほうれん草添え)、白滝の薄味煮、冷やしトマト、青大豆のひたし豆(今日でやっと食べ切った)、梅干し、納豆、玄米。

●2006年9月3日(日)快晴、暑い

朝方、肌寒くて毛布を出した。
ヨガをやっている時、最後の夏の日々を謳歌しているように、蝉が1匹だけ鳴いていた。
私も、汗をたらしながら、呼吸を大事にしながらやる。
一通り終わり、目をつぶって大の字になってリラックスポーズをしていると、(今朝もよくがんばったなあ)という達成感が、体の底から湧いてくる。
明るい気持ちも、それにつながって湧いてくる。
こういう気分が毎朝続いたら、健全すぎてちょっと変だけど。
朝ごはんを食べながら、次の本について、スイセイと会議をやった。
会議といったって、私はムームーだし、スイセイは上半身裸のパンツ姿だ。
さて、今日は何をやろう。
本についてのアンケートを書いてしまおう。
3時には仕上げ、お送りして、図書館に行く。
庄野潤三のお兄さんの、庄野英二さん(『星の牧場』の)の『にぎやかな家』という本を借りてきた。
書庫から出してもらった、とても古い本。
待ちきれなくて、歩きながらページをめくると、古い本特有の匂いと、黄色く焼けた紙の手触り。
挿し絵も古くさくて、とてもいい感じがする。
嬉しいなあ。
後で、紀ノ国屋においしいものを買いに行こう。
夜ごはんは、鰺と鮪のちらし寿司(鰺は酢じめにし、鮪の中落ちはわさび醤油で和えてからのせた。酢飯には、いりごま、みょうが、青じそ)、冷やしトマト、ゴーヤーと胡瓜の生姜醤油和え、おすまし(大根、人参、三つ葉)。

●2006年9月2日(土)快晴

11時まで寝てしまった。
せっかく晴れているので、大急ぎで洗濯し、ゆっくりヨガ。
できるだけ無理をせず、呼吸だけは集中してやった。
昨日さぼったから、ちょっと苦しかった。
ひさびさにそうめんを食べ、コーヒーをいれて、私はたまっていた仕事をやる。
原稿の直し、ゲラの直しなど。
ひとつは「小説新潮」の小さいコラム。
もうひとつは、『フィッシュマンズ全書』という本が、小学館から10月に出るそうで、そこに寄稿した短文。
どんな本になるのか、とても楽しみです。
次回撮影のレシピ書きも、さくさくとやった。
あとは、「小説すばる」のゲラをこれからチェックします。
これは編集者がインタビューして書いてくださったもの。
小説の中の料理を再現し、原田奈々ちゃんに写真を撮っていただいた記事です。
寝坊すると、1日がすぐに終わってしまうなあ。
洗たく物をとり込む時、空いっぱいに鰯雲が広がっていた。
靴下を履かないと、つま先が冷たいくらい。
ハヅキの青いバナナを、台所の入り口につるしてみた。
そこを通るたびに見上げ、黄色くなるのを楽しみにしている。
夜ごはんは、豚肉のバジルソースパスタ(リングイネで)、キャベツ、人参、トレビス、プリーツレタス(すべて千切り)のサラダ。

●2006年9月1日(金)雨

9時半に起きたけど、生理なのでヨガはやらない。
お腹はつっぱるし、気分が冴えないし、とりたててすぐにやらなければならないこともない。
なので今日は、何もかも休みにすることにした。
うんこもいっぱい出る。
生理の時って、いらないものがぜんぶ外に出るから、いろんな意味でリセットだ。
お昼にサンドイッチと大豆のスープを食べて、布団の中でひたすら読書。
雨もけっこう降っているし、こう涼しいと、ミルクティーが飲みたくなるなあ。
宅急便のお兄さんが来て、波照間からの荷物が届いた。
ハヅキからです。
箱を開けると、甘酸っぱい花みたいな、南国の果物の匂いがプーンとしたから、パッションフルーツかな?と思った。
新聞紙がいっぱい詰まって、ぐるぐるに梱包してある。
出てきたのは、まだ固い島バナナでした。
ニョキニョキと生えた、黄緑色の赤ん坊の手足みたい。
手紙は、バナナと同じ色の色鉛筆で書いてあった。
サンゴの欠片も入っている。
箸置きにしたらどうかと思って、浜で拾い集めたものだそう。
子供たちを連れ、浜を散歩しているハヅキと太郎ちゃんのことがポワーンと浮かぶ。
波照間は、まだまだ暑いだろうなー。
皆、元気でやっているだろうか。
電話が何度か鳴って、ファックスがいろいろ届くけど、週明けに戻せばいいものばかりなので、できるだけ見ないようにしています。
金曜日は、お楽しみ『アムプリン冒険』の更新です。
開いてみたら、エゾアムプリンの牛乳は、『フランダースの犬』に出てきたみたいな、金属のでっかいピッチャー(集乳缶という名前らしい)を持って、朝、牧場に搾りたてを買いに行くんだって。
蜂蜜も、山の中にあるみつばち小屋に買いに行くんだ。
『星の牧場』みたいじゃん。
夕方になって、「みいよう、知っとる?晴れてきたんで」とスイセイが知らせに来た。
足踏みをして、首にタオルを巻いて、そそのまま走りに行った。
夜ごはんは、親子丼、水菜とみょうがの胡麻和え(甘くない。柚子こしょう、薄口醤油、ごま油)、人参の千切りサラダ(フレンチドレッシング〕、ひたし豆、にらの味噌汁。
どうも食欲がないし、おでこが熱いような気がするので熱を計ったら、37度だった。
何だろう。夏の疲れが出たのだろうか?。



日々ごはんへ めにうへ