●2007年1月10日(水)晴れ
昨夜は、ホテルに戻ってから大浴場にスイセイと入り、ちょっと話をして11時にバタンキューだった。
でも、あんまり眠れなかったな。
じつは、このところずっとそう。
テレビの収録が始まると、いろいろ考えが頭をめぐり、眠れなくなる。
まあ、いつものことだから仕方がない。
スイセイは、隣のベッドでスースーと気持ちよさそうに眠っていた。
7時に起きて朝風呂にゆっくり浸かり、目を覚ます。
朝ごはんを食べ、8時15分に出発。
ロケバスの運転手さんは、「今日は、いツばんいい天気です。すばらスいです。では、今日もよろしくお願いします」と、挨拶をしてから出発した。
まず、地元で5と10がつく日にやっているという、かわいらしい朝市に行く。
牡蠣はこれから育てているところを見せてもらいに行くので、味見だけさせてもらって、
買わない。
なまこ(生きている)、三陸の塩蔵わかめ、塩蔵昆布、焼きうに、塩うに、わさびの葉(小さい生わさびもついている)、そば米のおこし、赤蕪の漬け物、まつも(乾燥した海草)を買う。
大きいほうれん草やら、泥つきの人参やら、欲しいものは他にもあったけど我慢した。
何かを買うと、どういうわけだか皆おまけをつけてくれる。
わかめを1束100円で買ったら、もう1束つけてくれたおばあちゃん。
おつりをとりに裏にまわったおこし屋のおじさんが、なかなか戻ってこないと思ったら、「賞味期限が過ぎツまったから」と言いながら、おまけのポン菓子をつけてくれたり。
焼きうに屋さんでは、おぼろ昆布の袋をつけてくれた。
「お姉ちゃんたちはどっから来ただ〜?」「何のテレビだね?」「いつからやるだね?」などと、あちこちで暇そうに立っているおじさんが話しかけてくる。
「も〜う、あんたらがカメラで写しいとるから、わたしんところは誰もお客さんがこないだよ。まったく、困るだよ〜」と大声で怒っていた饅頭屋のおばちゃんは、発泡スチロールの箱をあけて、いきなりホカホカの饅頭をくれてよこした。
「何人いるだ?6人だら〜?」なんて言いながら、6個も。
おばあちゃんたちの岩手弁は、ところどころ聞き慣れない言葉も混じっていたけど、聞き返すとちゃんと教えてくれた。
皆、とても親切だった。
さて、いよいよ牡蠣と帆立ての漁場へ出発です。
山の合間から時々見える海は、鏡のように平らで、ピカピカ光っている。
海の中に、ところどころ、松ノ木がはえた小島も見える。
ここは、大船渡港。
のこぎり型のリアス式海岸なのだそう。
というわけで、ここからのことは2月12日の『きょうの料理』で放映されるので、このくらいにしておきます。
漁師の石橋さんが、とてもいいおじさんだった。
話を聞いたり、船に乗せてもらったり、隣に立っていただけだけど、なんだか、本当に優しい人だというのが分かった。
海の男でもいろんな人がいると思うけど、石橋さんはとても穏やかで、まるで大船渡の海の景色にそっくりだと思いました。
海の水は透き通って、私には充分きれいに見えたけど、ここ何日かの嵐で、これでも濁っているそうだ。
ふだんはもっともっと透き通って、底の方まで見えるのだそう。
遠くの山々は、茶色に緑が混ざったようなグラデーションで微妙に色合いが違い、トンビが青空を周りながら昇っている。
そこの松の木に、見たことがない鳥もきている。
こういう場所で毎日仕事をしていたら、石橋さんのような顔になるのかな。
朝とったばかりの牡蠣の殻を次々むいて、出荷の準備をしていた奥さんも、穏やかできれいな人だった。
というわけで、自分の出番が終った私とスイセイは、スタッフさんたちを港に残し、運転手さんに駅まで送ってもらう。
この運転手さんも、とてもいいおじさんだった。
私たちが船で沖の方から戻ってくる時、港の端で、寒そうに立っている小さい運転手さんが見えた。
コートなど着てなくて、制服みたいな紺色の背広のポケットに両手を入れ、風に吹かれて斜めになっている。
出番が終って、車の中で温まっている間も、運転手さんはずっと外にいて、ボートを眺めたり、海の中を覗き込んだりしていた。
運転手さんというのは、車の中で待つのが当たり前だと思っていた私は、胸が痛くなった。
このおじさんはきっと、会社の決まりだからそうしているんじゃなく、自分の気持ちでしていると思った。
そういう顔をしたおじさんだった。
なんか、東北の人たちの辛抱強さとか、情の深さを感じてしまった。
1時21分発の「スーパードラゴン号」に乗り、4時19分に一関を出る。
窓いっぱいに、端から端までのでっかい夕暮れ。
壮大な景色が動いてゆくのを眺めながら、新幹線のリクライニングシートに体をうずめているなんて、なんと贅沢なことだろう。
スイセイは、笹かまぼこと前沢牛のビーフジャーキーをつまみに、ビールを飲んでいる。
6時半に東京駅に着き、タクシーで帰り着く。
7時半にはわが家に。
ホッとしたら、自分がやけにしょっぱい味がする。
引き揚げたばかりのブリッと大きい生牡蠣を、殻ごと、船の上でいくつもツルッと頬張ったからだ。
あれはおいしかったなあ。
とったばかりの牡蠣は、潮の香りも味もしなくて、プリプリと「どこにも滞ったところがないのう」とスイセイが言っていたとおり、なめらかで透明な味がした。
あまりに新鮮なのは、磯の香りもしないものなのだ。
お風呂に浸かりながら考えたら、私は今日、朝市から入れて、大きな生牡蠣を5個も食べた。
帆立ても生で食べた。
もったいないなあ。
ヒラリンやリーダーやナツコにも食べさせてやりたかったなぁ。
夜ごはんは、聖護院かぶらの薄味煮(清水さんにいただいたのを、出掛ける前に煮ておいた)ゆで小松菜添え、一関駅のホームで買った「牛めし弁当」、「海の幸弁当」。
11時前にはバタッと寝てしまう。
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