2007年2月下

●2007年2月28日(水)快晴

穏やかな日。
書類の整理、打ち合せの準備をやる。
試作もやる。
夕方、布団を入れようとしたら、枕カバーの上に砂のようなものがたくさんついていた。
赤っぽいのや黒っぽいのや。
黄砂だろうか。
それとも、これが花粉?!。
おそろしくなり、布団も毛布もパンパンとしつこく叩いた。
もっと早めにとり込むべきだった。
花粉って、こんなに目に見えるものなのだろうか。
夜ごはんは、豚もも肉のソテー(生姜焼き風、千切りキャベツ添え)、うどとさとうさやの辛子酢みそ、うど皮のきんぴら、梅干し、干し大根の紹興酒漬け、蕪の味噌汁(昨夜の残り)、玄米。

●2007年2月27日(火)快晴

7時に目が覚めてしまった。
今日からまた活動を始めよう。
まずは、掃除と洗濯。
ずいぶんしっかり怠けたので、頭の中もスッキリはっきりしている。
風呂場の下の杏は、蕾がピンクに膨らんでいる。
いつの間にこんなになったのだろう。
2時にフミさんが来て、保険の話をいろいろ聞く。
今まで入っていたものが更新の時期で、このままいくと、今後1万円以上も多く支払わなければならないらしい。
不思議に思ってよくよく説明を聞いてみたら、それは歳をとるっていうことだった。
つまり、年寄りになればなるほど、病気になったり死亡したりする率が高くなるから。
すごく納得がいった。
りうもひとり立ちしたことだし、この際、自分とスイセイが生きている間の人生に必要な分だけを、整理して組み込むスタイルに変更することに。
夜ごはんは、いかの刺し身(ワタ醤油で)、鰤の刺し身、油揚げとさとうさやの甘辛煮、蕪の葉のおひたし、もやしとニラとクレソンの炒めもの、蕪の味噌汁、玄米。
夜ごはんを食べていたら、テレビから烏龍茶のコマーシャルの音楽が流れてきた。
それを聞いただけで、反射的に涙が出た。
お姉さんと妹の顔が出てきても、涙がにじむ。
情が移ってしまったのだ。
自分が姉妹の叔母さんのつもりになっているような。
でもきっと、あのコマーシャルの作り手たち、場所、空気、すべてに情が移っているのだと思う。
そういえばずっと書くのを忘れていたが、梨木香歩さんの『家守綺譚』という本がとてもおもしろかった。
登場するのは、庭の植物や、花、森、犬、たぬき、河童、人魚、幽霊、山寺の和尚、隣の奥さんなどなど。
生きている人も死んでいる人も、植物も動物も、みんな主人公と同じ空気の中に暮らしていて、言葉だけではないやりとりをしながら、ひょうひょうと当たり前のように暮らしてる様子がいい。
これこそ超現実!っていう感じ。
時々、隣の奥さんが届けてくれる惣菜もおいしそうだし、犬がとてもいい子だし。
本の中は少し湿気があって、すみずみまで古風(明治時代の話らしい)。
これを読んだのは、この間の中国行きの飛行機の中。
シャンパンを飲みながら、リクライニングシートにうづまるようにして読んだ。
これから自分がどんな場所に行こうとしているのか、そして今どこにいるのか。
半分寝ぼけているような心持ちと、宙に浮いた感じが、小説の中の空気にぴったりだった。

●2007年2月26日(月)快晴

真っ青な空。
雲ひとつない空を仰ぎながら洗濯物を干していたら、ふと、秋のような気がしてしまった。
まだお腹が壊れているので、もう1日休日として、今日もまたのんびりと過ごす。
ずっとパジャマのままで、掃除もしない。
パーティーの余韻が、少しずつ薄くなってゆくのを感じながら、馬鹿みたいにずーっとテレビの画面を見ていた。
烏龍茶のコマーシャルが流れるのを待っていたのです。
ふだん、あんまりテレビなど見ないのに、ワイドショーまで見た。
テレビの中は、思った以上にせちがらく、くたびれた人が厚化粧をしてたくさん出ていて、皆お喋りで慌ただしかった。
でも、あのコマーシャルが始まると、透明なおいしい水がサラ〜ッと流れてくるようだった。
何かきれいなものとか、ほの暖かい光とか、希望とか、家族とか、人の情のようなものまで映り込んでいた。
料理は、やっぱりとてもおいしそうだった。
ひそかに流れる音楽も、包丁の音も、器がぶつかるかすかな音も、姉妹の声もとてもいい。
「おいしそう」と妹がつぶやく中国語の音も、姉さんの表情も、妹の目つきも、湯気も、とってもいい。
朝ごはんは、かけ蕎麦。
お昼はそば粉のガレットを焼いた。
夜は、サフランライスを炊いて、あとは白菜サラダでも作ろう。
パーティーの残りのスペイン風ごった煮をカレーに変身させ、サフランライスにかけて食べる予定。
サントリーのホームページの片隅に、私のコーナーができました。
今日からアップされたので、よろしかったら見てください。
そして、「ふくう食堂」のアップが遅れてしまったこと、ごめんなさい。

●2007年2月25日(日)晴れ

二日酔い。
今日は、何も食べずに、ひたすら寝ています。
生理だし、お腹も壊れているし。
布団の中で、烏龍茶コマーシャルのDVDを、何回も何回も見た。
暗記してしまうほど見た。
寝ながら、昨日一緒にいた人たちの感触が、夢のはざまにふらふらと漂い、頭の中では黒烏龍茶の歌がずっと鳴っていた。
酔っ払いすぎて、パーティーで出すのを忘れた料理。
さとうさやの塩ゆで、油揚げのカリカリ焼き、干し大根の紹興酒漬け、生春巻き、春キャベツと豚そぼろのサラダ、うどとクレソンのサラダ、自家製ジンジャーエール、きんかん。
夜ごはんは、炊きたてのご飯でお茶漬け(小茄子の辛子漬け、酒盗、白菜漬け、干し大根漬け)。

●2007年2月24日(土)快晴

待ちに待ったサン・アドの皆さん+川原さんのパーティー。
1時くらいから集まって、「明るいうちから飲むのっていいねえ」などと口々に言いながら、ビールやら白ワインの炭酸割りやら、おいしいウイスキーをダラダラと飲んだり、食べたり、喋ったり。
烏龍茶コマーシャルの、第1回目の(烏龍茶はサントリーのこと。っていうコピーの)から今回までのを、皆でビデオ鑑賞したり。
黒烏龍茶の歌を、中国語と日本語と両方、皆で合唱したり。
すごーく楽しかった。
楽しくて楽しくて、皆大好きな人たちばっかりで、窓からはまっ昼間の光がさしていて、私は涙がふき出した。
料理は、ひたし大豆、人参の塩もみ(酢、薄口醤油、ごま油、かりかりジャコ)、海老と葱と香菜の春巻き(スイートチリソース)、ダンディソンのパン(大豆ディップ、たらこディップ、満月卵ディップ)、大根のマリネ、真鯛のカルパッチョ(半分はイタリアン、半分はアジア風に、ナンプラー、ライム汁、ごま油、にんにくチップ、青じそ、ミント、香菜で)、塩だらとマッシュポテトのグラタン、地鶏のカリカリ焼き(ヒラリン作)、そば粉のガレット、スペイン風ごった煮、、ぬか漬け(ヒラリン作)。
サントリーの烏龍茶CMは、もう24年もの長い間、葛西さんと安藤さんのコンビで作り続けていらっしゃる。
若いころからずっと好きなコマーシャルだったし、カメラの上田さんの回の『プロフェッショナル』で、黒烏龍茶のCM撮影風景が映った時、とてもびっくりした。
たくさんの大人たちが狭い場所に集まって、あれほど真剣に、緊張感の中でひとつのものを作っている。
集中力が洗濯機の渦みたいになって、そこにいる全員を巻き込んでいる空気が、胸に迫ってきたのです。
そういう世界があることを私は知らなかった。
じつは、今日から流れている烏龍茶のCMの料理は、私がやりました。
美しい姉妹が出てくるシリーズです。
中国に行っていたのは、その撮影でした。
大勢のスタッフたちの中で、ヒラリンとふたり、自分たちのできることのせいいっぱいを出し切った。
あの1週間の日々が、わずか30秒と15秒の世界にふわっと収まったのを、今日始めて見せてもらった。
サン・アドの皆さんは、料理がとてもおいしそうと言ってくれたけれど、私にはあまりにもアッという間すぎて、湯気なのか料理なのか分からないくらいだった。
ドキドキしているうちに、終わってしまった。
膨大なテレビの情報の中に、すきま風みたいに現れる、あんな小ちゃいひとコマのためだけに、たくさんの大人たちが集まって、多くの費用をかけ、知恵を出し合い、体を使って作っている。
なんか、偉大なるお遊びみたいで、コマーシャルって、なんてかっこいい仕事なんだろうと思った。

●2007年2月23日(金)雨

昨夜は、寝る前に読む本がないので、枕もとに積んであった『きょうの漬け物』を読み始めた。
これが、ものすごくおもしろいのでびっくりたまげた。
去年の暮れだったか、リトルモアさんから送っていただいたのだけど。
私は、錦市場にある漬け物屋の女将さん(60〜70才くらいの)が書いたものなのかと思い込んでいた。
京都ならではの行事やしきたり、季節やらを織りまぜた、漬け物まわりの風物詩なのかと。
そういった、なんとなくありがちなものを想像していた。
とんでもなかった。
68年生まれと書いてあるから、私より10年下の女の子。
これを書いている人は、自分の王国に暮らしていて、その中に京都の街並みやお寺やら、喫茶店「きのした」の卵焼きとチーズが溶けあったトーストサンドや、「漬け物、丸干し、雄のししゃも、お茶漬け、豚しゃぶ。簡単な料理しかありませんが、気取らない、心地のいい店」の「百練」などがある。
京都ならではのお祭りや行事もその王国にはあるけれど、それと同じ日々の中に、風邪のひき始めにガス台に網をのせてみかんを真っ黒に焼いたり、春先にふらりと出掛けたまま帰らない猫の帰りを待って、毎晩窓ガラスを見つめている。
彼女が働いている錦市場の「高倉屋」という漬け物屋さんも、仕事仲間たちも、お客さんのお婆さんも、お祭りのお神輿も、王国の中にある。
水茄子のぬか漬けは、「包丁でへたを落として、十文字に切り目を入れ、手で割いてもおいしいです」。
漬け物屋さんならではの言葉にはちゃんと理屈が根っこにあるから、とてもおいしそう。
刻んだ漬け物でお茶漬けを彼女が食べれば、私もお茶漬けが食べたくなる。
3月にしか出回らない竹の子の浅漬けなど、食べてみたいなあ。
なんか、この人が持っているどこか古風でとっぴょうしもなく、いちずなところは、『きょうの猫村さん』にも通じるものがあり、『お縫い子テルミー』のテルミーや、『るきさん』にも通じる。
ああ、とてもいい本をいただいたなあ。
そして、カラフルなカバーをとってみたら、いい雰囲気の本体が現れた。
まっ白いしおりも、白菜、大根、蕪のように潔い。
読み終わったら、大好きな本ばかり並べた本棚のコーナーに置こう。
そして、24の時節ごとに取り出して、何度でも読もう。
表紙の角のところがめくれるくらいに、白いところが黄ばむくらいに、年月を追って古びていくのがとても楽しみな本だ。
今日は、ずっと雨ふり。
干し豚のスープを煮込みながら、のんびりあちこち掃除をする。
スープは、明日のパーティー用の、スペイン風のごった煮。
ラジオで、グールドがベートーベンの「運命」を弾いていた。
ごしごしと同じところを雑巾がけしながら、聞き惚れる。
すごい。天才と天才のぶつかり合いっていう感じ。
曲の間があいた時、思わず立ち上がって拍手した。
夜ごはんは、鰤の唐揚げ葱ソース(レタスと人参を皿にしいた)、大根おろし、茄子の辛子漬け、白菜漬け、干し大根の味噌汁、玄米。

●2007年2月22日(木)晴れのち曇り

陽が翳ってきたら、けっこう寒い。
電気ストーブをつけ、毛布にくるまって『旅の終わりの音楽』を読む。
このところ毎晩、ひとりひとりの楽師たちの物語りを、まるで5冊(5人)分の小説のように味わってきたので、今日中に読み終わってしまうのが惜しい。
とりあえず、最後の1章を残して、美容院に行く。
かなり寒いかと思ってダウンを着、首にも布を巻いて行ったのだけど、自転車をこいでいるうちに暑いくらいになった。
「紀ノ国屋」でいろいろ買い物をして帰ってくる。
さあ、ミルクティーをいれ、お楽しみの読書だ。
しかし、タイタニック号沈没の最後の瞬間は、全体の奥行きからいくと、あまりにもあっけなく、静かに終わってしまった。
きっと、そういうものなのだ。
もういちど最初から読み直そうか。
夜ごはんは、ざる蕎麦(大根おろし、葱、焼き海苔)、菜の花のおひたし(薄口醤油、ごま油、いりごま)、茄子の辛子漬け(美容師さんにいただいた)。
あと片づけをして、塩豚をSカンに通して干す。
調理台の上にぶら下がっている様子は、とてもかわいくいい感じ。

●2007年2月21日(水)快晴

また暖かい日が戻ってきた。
朝ごはんで、しおりちゃんにもらったほうれん草のパンを焼いて食べる。
かぶりつくたんびに草の香りがホワーッと上がってきて、とてもおいしい。
あとは、ハムとサラダと、これまたしおりちゃんのコーヒー。
午後、ハルが暇そうにしているので、昨夜のスペアリブの小さい骨を投げてやった。
しかし、あんまり嬉しそうでなく(がっついていない)、くわえると庭の隅の土がある方へせっせと早歩き。
地面に埋めようとしているらしい。
骨をくわえたままふらふらとして、けっきょく反対側の隅っこの枯れ葉がたまっているところに落ち着き、穴を掘っていた。
「ハルはあんまり嬉しそうじゃなかったよ」と報告に行くと、「それは、嬉しすぎるっていうことじゃと思うで」とスイセイ。
好物はだいじにとっておいて、いちばん最後に食べる(目玉焼きの黄味とか)スイセイならではの意見。
たとえば今朝の場合でいくと、サラダだけをきれいさっぱりたいらげ、最後に残った丸いハムを1枚、ぺろっとひと口で頬張っていた。
私から見ると、きっとハルにとっては、スペアリブの骨なんかたいしてご馳走じゃないんだと思う。
今はぜんぜん腹減ってないけど、おばさん(私のこと)の気持ちはまあ嬉しいかな。
ま、とりあえず穴でも掘って埋めておこう… っていう感じ。
しばらくたってベランダを覗くと、腹ばいになって陽に当たっている。
ためしに「ハル〜〜」と呼んでみたら、すぐにこっちを見た。
しかも、ずーっと見上げている。
目を細めて(眩しいのだ)、微笑んでいるような顔になって。
いつもだったらまったく無視されるか、0・5秒くらいしか見てくれないのに。
骨をあげたからにちがいない。
ハルめ。
2時くらいに買い物。
スーパーの花屋に、黄色いミニバラの小さい鉢植えをみつけた。
手の平にのるくらいの小さい株。
どうしても欲しくなり、花が咲いていないのを選んで買った。
『静かに流れる緑の川』の、黄色いミニバラ。
水のあげ方や、剪定の仕方をおじさんに教わった。
花、咲くといいな。
金曜日のパーティーのために今日仕込んだもの。
たらこディップ、にんにくチップス、スイートチリソース、炒め玉葱、塩だらペースト。
ビールをたくさん冷やせるように、冷蔵庫も整理した。
夜ごはんは、かじきまぐろのムニエル(セロリ塩もみ添え)、小松菜(農家の)の塩炒め、わかめのさっと炒り(昨夜の残り)、梅干し、白菜漬け、大根の漬け物(農家の)麩と葱の味噌汁、白いご飯。
夜、布団の中で『旅の終わりの音楽』を読む。



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