2007年11月下

●2007年11月30日(金)雨のち曇り

カーテンを開けたら、窓の外が黄色だった。
大画面のハイビジョンテレビのよう。
黄色、茶色、赤茶のグラデーションに、ところどころ濃い緑。
雨で洗われた曇り空だから、なおのこときれいに見える。
というか、こういう天気が紅葉にぴったりな気がする。
しっとりと落ち着いた、晩年の空気。
明日の撮影の準備と、編み物。
3時過ぎにスイセイに誘われ、散歩にも行きたいし、買い物にも行きたいしで迷う。
けっきょく、「紀ノ国屋」へふたりで散歩することにした。
ディルがなかったので、駅ビルで買い、ぐるっとまわって帰ってきた。
欅並木も、少し見ない間にすっかり紅葉していた。
紅葉というのは、道にたまった落ち葉の色も含めて、その全体がまた美しいんだな。
黄色でできた国にいるような。
紅葉狩りなど行かなくても、近所を歩くだけでも充分楽しめるなあ。
夜ごはんは、蓮根のきんぴら、ひたし大豆、比内鷄の鍋(牛蒡、焼き豆腐、椎茸、京菜)、鍋の〆に卵雑炊。

●2007年11月29日(木)曇り

大家さんのどんぐりの木は、ずいぶん黄色くなった。
ベランダの柵から、枝の先っぽだけピンピンのぞいているのだけど、それだけで、空気全体がすっかり初冬の色合いになる。
二日酔いでもないのだけど、ごはんも食べずに2時まで惰眠。
たくさん夢をみた。
1日中、ずっとパジャマでうろうろ。
昨夜は楽しかったな。
女だけの飲み会(スイセイもいたけど)って、感覚的というか、生理的というか。
話が飛んでも驚かずに、飛んだまんま広がってゆき、なんとなくまた戻ってきたりして。
太っ腹で自由な感じ。
そして、青キミのおいしがり方が、すごく嬉しかった。
表情も、言い方も。
食いしん坊って、一緒に食卓を囲む時、華になるんだなと思った。
夜ごはんは、土鍋で炊いた銀シャリ、鯵の干物、小松菜と春菊のおひたし、梅干し、焼き海苔、生卵。

●2007年11月28日(水)

朝から畳屋さんが来て、畳をはがして持っていった。
空き地になったいつもの部屋が、何度見ても不思議。
そこだけ廃虚のような、家の中なのに外のような、ピリッと寒けがするような感じ。
スイセイの世界にも似ているような。
今日は、夕方から編集者の月子さんがいらっしゃって、2回目の打ち合わせ。
そのあと、川原さんと青キミも参加して飲み会になる予定。
4時くらいに新しい畳が入った。
憧れの紺色のヘリ。
畳を交換するなんて、大人になったようで感慨深い。
スイセイは、目をつぶったまま畳の目に沿ってゆっくりと撫で、「ツルツルして大理石の畳みたいじゃ」と感心していた。
飲み会の料理は、黒豆のひたし豆、黒豆とブルーチーズのディップ、お刺し身マリネ(サーモン、平目)、ふろ吹き大根(柚子みそ)、紫キャベツと生ハムのサラダ、蕪といんげんの蒸し煮、塩豚とキャベツの鍋蒸し煮、オレキエッテのトマトソース和え。

●2007年11月27日(火)曇り

どんより。
目の前のイチョウの木は、ずいぶん黄色になった。
毎日見ているはずなのに、急にグンと変わったような気がする。
天気によって、見え方が違うものだろうか。
今日は曇りで空も白いし、全体的に灰色がかっているから、黄色が映えるんだろうか。
昨夜作りおいた弁当を食べ、これからアノニマへサインをしに行ってきます。
寒そうだから、厚着をしていこう。
ふー。
帰ってきました。
新しいアノニマにいるのが楽しくて、ついつい長居してしまった。
中川ちえちゃんのお店も、落ち着いた光に覆われて、ちえちゃんの雰囲気に似合っていた。
コーヒーもいれてくれた。
ちえちゃんがいれているところを、じっくり観察させてもらった。
苦かったり酸っぱかったり、自分でやるとどこかとがった味がいつもして、お湯で薄めたり牛乳でごまかして飲んでいたけど、それだけでも充分満足していたのだけど、ちえちゃんのコーヒーは、丸かった。
帰りの電車の中まで、ほんのり甘いような後味が残っていた。
大人の甘味というかなんというか。
苦味の中にある、丸いおいしい甘味というか。
ひと目で好きになった土鍋があったので、買って帰った。
夜ごはんは、サーモンの刺し身、平目の刺し身、小松菜とクレソンの煮浸し、焼ききのこご飯(椎茸、舞茸)。
さっそく土鍋できのこご飯を作ったら、おいしくできて驚いた。
まるで、「のらぼう」の憧れの炊込みご飯みたい。
これから、炊込みご飯の楽しみが増えたなあ。
もちろん銀シャリもこんどやってみよう。
風呂から上がって、台所の後片づけをやっていて、つくづく思ったこと。
私が電車を乗り継いで出掛け、暗くなって駅につき、買い物をたっぷりしてタクシーもなかなかつかまらなく、バスも混んでいて、やっと家にたどり着いた時。
うちの中にはスイセイがいて、鍵を開けてくれたり、お腹を空かしてごはんを待っていたり。
ごはんが終わって、畳の部屋でだらだらとテレビを見ながら今日あったことを話したり。
使い込んだ毛布みたいな匂いのするスイセイが、ちょっと頭のボケた調子(づっと家にいたから)でいてくれることが、なんと自分を助けてくれることよ。
そして、簡単なものでも夜ごはんをしつらえ、いつものように後片づけをして、まっさらな台所に戻す。
道具や器は、何年も何十年もそこにあり続ける。
目に見える物たちが育む単調な繰り返しの、なんと確実なことよ。

●2007年11月26日(月)快晴

あちこち掃除。
やっているうちに、細かいところまで気になり始め、本格的になってしまう。
ひさびさにワックスも塗る。
『おかずとご飯の本』の撮影の日々が、フラッシュバックしながらやる。
たくさんの人が、出たり入ったりして足跡をつけた。
気持ちも、出たり入ったりした。
台所の床も、薄めた洗剤をスポンジにつけてこする。
こすりながら、いつもこの場所に立っていた、赤澤さんやヒラリンや、丹治君の声が聞こえてきた。
おかげで、無事に本を世に出すことができました。
ありがとうございます。
私はいつも、1冊作るたんびに出し切ってしまい、ポッカリと空いた穴が怖いような虚しいような風になる。
だからハアハアと、飢えた動物みたいにすぐ次へと進みたくなるけれど、こうやって体を動かして掃除をするのはいいことのような気がする。
「納める」ような気がする。
新陳代謝がハキハキとする。
そのうち、本になる前の原稿の束も整理しよう。
夜ごはんは、塩鮭、あぶ玉煮(きぬごし豆腐入り)、ほうれん草のバター炒め、ひたし豆(黒豆)、浅蜊の赤だし(昨夜の)、黒豆入り玄米。
玄米にもどした黒豆ともどし汁を入れて炊いたら、ほんのりワイン色がかって、もっちりととてもおいしくできた。
黒豆も想像以上にねっとりで、たまらないおいしさ。

●2007年11月25日(日)快晴

ドーンと快晴。
洗濯物をたっぷりやる。
スイセイは、昨日からミシンと格闘している。
ジャージのお尻を繕っているらしいが、ものすごく固い布を当て、頑丈に縫い固めている。
なかなか出来ない。
とちゅう、誘い出してコンビニへ。
宅配便を出しに行った。
私はそのまま「紀ノ国屋」へ買い物。
自転車置き場のところで、「きんとき庵」のお父ちゃんにひさしぶりに会った。
逞しく、とても元気そうだった。
農家の無人野菜のところを覗いたり、川原さんが言っていた空き家を探しに行ったりして遠回りしていたら、大家さんとハルが散歩しているところに会った。
ハルは、外で見ると毛がふっくらとしてハンサムであった。
私を見たら、一瞬耳がピタッと後ろにはりつき、困った時の猫村さんの顔のようなっていた。
「きんとき庵」のお父ちゃんと、「紀ノ国屋」の八百屋のおじさんと、大家さんのおじさんとちょっと話しただけで、私は元気になった。
ここ2日ほど止まっていた何かが、動き出した。
夕方、スイセイと散歩。
例によって、スイセイの隣で小走り。
公園のグラウンドの芝生は、ずいぶん黄色になっていた。
麦の穂色の地面と、ぼんやりした夕焼けが共同して作り出す空気。
犬を連れている人も、ボールを蹴っている子供たちも、くすんだ金色の空気にすっぽり覆われている。
そんな真ん中を、スイセイと大股歩きで横切った。
横切り終わって振り返ると、もうすっかり暗くなっていたから、きっと何かのピークだったんだ。
これが有名な黄昏か?。
夜ごはんは、鯵の開き、カンパチのお刺し身、とろろ芋(いつもは長いもだけど、山いもでやった)、ワカメと春菊の煮びたし、人参の塩もみ、ひじき煮、浅蜊の赤だし、玄米。
明日から、また『チクタク』を頑張ろう。

●2007年11月24日(土)晴れ

今日もまたダラダラ日。
いいかげん早く起きろよと思うが、とろとろといくらでも眠れてしまう。
昨夜だって、7時にご飯を食べ、そのあと布団で本を読んでいるうちにバッタリ寝てしまった。
今朝は、11時半に起き上がる。
ゲラの校正をしたり、仕事の電話をしたり。
本を送るのをスイセイと梱包したり。
そんなこんなしている間に、すっかり日が暮れてしまう。
寒いので、買い物にも出掛けない。
夜ごはんは、鷄のトマトソース煮、小松菜のオイル蒸し、赤蕪の塩もみ、玄米。

●2007年11月23日(金)晴れ

二日酔いで、ごはんも食べずにずーっと寝ていた。
何度か目が覚めるが、今日は怠ける日にしようと思って。
よくもこんなに眠れるものだというくらい、寝た。
昨夜はひさしぶりにお酒を飲んで、酔っぱらったな。
スイセイも、川原さんも、楽しそうにしていたな。
料理もおいしかったなあ。
丹治君の、「働くっていうのは、人のために動くって書くんですよね」というのと、「ドリトル先生って、ドゥー、リトルなんです。ちょっとのことしかしない人っていう意味の」という名言を思い出しながら。
ドリトル先生は器用な人ではないから、できない事もたくさんある。
だからこそ、周りの動物たち(不器用だけど、何かとりえがある)が知恵を持ち合って、助けてくれる。
それぞれは皆、ドリトル先生を大好きで信頼しているので、力のすべてを出して役に立とうとする。
そして、人に喜ばれるような素晴らしい仕事を、力を合わせひとつひとつやってゆく。
まるで、「クウクウ」のよう。
マスターがドリトル先生。
アヒルのダブダブはリーダー。
暗くなったので、起きて風呂に入る。
夜ごはんは、ソース焼きそば、ひじき、蕪と白菜の漬物、肉じゃが(残りもの)、生卵、焼き海苔、玄米。

●2007年11月22日(木)晴れ

1時から「レタスクラブ」の打ち合わせ。
3時からは、丹治君と赤澤さんと萩原さんが来て、本の反省会。
4時半からは川原さんが来て、『チクタク食卓』の打ち合わせ。
6時半にはすべて終わり、これから「横尾」に行ってきまーす。

●2007年11月21日(水)快晴

気持ちよく晴れた。
風もなく、穏やかな初冬の日だ。
1時から、「リビングデザイン」の撮影。
皆でお昼ごはんを食べ、食べ終わったらお茶を飲んでくつろいで、陽が翳るのを待ってから撮影。
それには理由があるのだけど、まだここには書かないでおきます。
とにかく、食卓のワンシーンを、奈々ちゃんに撮ってもらった。
木皿さんの文章を読んで、私が料理するこの仕事が、今いちばん自由。
かつて「翼の王国」がそうだったように、料理を表からだけでなく、裏側やら真ん中やら、好きなところからバッサリ切りとることができる。
4時くらいに終わり、スイセイと散歩。
早歩きのスイセイと、遅走りの私。
並びながら、ずっと喋り合いながら、ハアハアしながら走った。
歩けばいいんだけど、なぜか足が走ってしまうのだった。
夜ごはんの支度をしながら、昨夜から仕込んでいたデミグラスソースの仕上げ。
小麦粉を鉄のフライパンで炒める。
子供のころ、カレーライスの日はよく小麦粉を炒めさせられた。
鉄のフライパンを七輪にのせて、えんえん炒めた。
ものすごい時間がかかるのだ。
うちのはいつも、コックさんのマークがついたオリエンタルカレー。
いちばん安いカレーの粉で、とろみ成分が入っていない。
グリコのワンタッチカレーはルウだったけど、買ってもらえなかった。
50円くらいの違いなのに、うちの母は倹約家だから。
デミグラスソースの濾した牛ひき肉の具がどうしても捨てられず、カレールウを加えて、キーマカレーにしてみる。
カレー粉とガラムマサラを加えたら、あんがいおいしくできた。
夜ごはんは、キーマカレー、コールスロー(キャベツ、白菜、コーン)。
風呂から上がって窓を開けたら、ピッカピカの月。
こういうのを鏡のような月というのだな。



日々ごはんへ めにうへ