2008年1月上

●2008年1月10日(木)晴れ

9時半に起きる。
今年始めての撮影。
「きょうの料理」テキストの、いつものメンバーです。
料理を教えていて、川原さんの反応がとてもおもしろく、自分の教え方の特徴が分かった。
それで、この連載のテーマというか、意味合いがはっきりと見えた。
ああ、だから私は川原さんとやりたかったんだ。
自分の料理に対する捕らえ方について、川原さんに教えることで気づかされた。
うーん、おもしろい。
夕方から麻布で打ち合わせがあるので、しばし休憩。
陽の当たる畳の部屋で、取りこんだばかりの布団にねそべって目をつぶる。
しかし、目をつぶっていられないような気持ち。
「タミゼ」に寄って、昌ちゃんにひさしぶりに会い、いろいろ見せてもらった。
いろんないいもの。
昌ちゃんのまわりには、いいことやいいものが巡っている。
私は、フランスの昔のエプロンを買った。
大きいスカートをはいたお母さんがするような、麻の手縫いのエプロン。
分からないくらいに、小さなイニシャルが入っている。
胸当のところは、安全ピンで留めるようになっている。
昨夜、『名探偵ポアロ』で、ポアロがチキンを丸ごと焼いていた。
お腹のぷっくり膨らんだ上のところで、白いエプロンを結んでいた。
男の人はみな、ギャルソン風に腰の下で結ぶけど、太ったおじさんが胸の下まで上げているのがかわいかった。
本物の料理上手という感じがして。
「タミゼ」からタクシーで打ち合わせ場所へ。
ぜんぶ終わってうちに着いたのは9時くらい。
夜ごはんは、カレーライス(スイセイ)、崎陽軒のシュウマイ弁当(私)。

●2008年1月9日(水)曇り時々晴れ

昨夜もまた、あまり眠れなかった。
無邪気にストンと寝つけていた、あの寝過ぎの日々が懐かしい。
寝てばかりいると、うしろめたい気持ちがすぐにやってくるけど、そういう時は何にも気兼ねせずに、せいせいと眠りたいだけ眠った方がいいのだ。
せっかくのいい気分がもったいないもの。
などと思いながら、何度も寝返りを打っていた。
朝ごはんの前に、昨日できなかったワックス塗りをやってしまう。
1時にしおりちゃんとユミちゃんが来て、『きょうの料理』アシスタントの打ち合わせ。
テレビの収録が、いよいよ近づいてきた。
打ち合わせは1時間ほどで終わり、お土産に買ってきてくれたおいしいチーズケーキ&スコーンをいただきながらお茶を飲む。
ふたりとも、とても元気そうだった。
お正月に、マスターの家で、子供たちを呼んで20人くらいの新年会があった。
去年はまだお母さんがいないと不安そうだったのに、子供たち同士で飽きずに遊ぶようになったそう。
トイレのドア前の廊下に4人のチビたち(全員男の子)が座って、チュッパチャプスをまわし舐めしてたそうだ。
コンビニの前でたむろしている高校生みたいな、あの座り方で。
しおりちゃんが言うには、やってはいけないことをしている、っていうあの独特の退廃的な空気もちゃんと漂っていたそうだ。
真似ではなくって、そういうことって、男子の中にもともとあるのかも… などと言っていた。
美容院へ。
明日の撮影の仕入れをして帰ってくる。
夜ごはんは、鯵の干物、牛蒡と舞茸の炒り煮、ほうれん草のおひたし(昨夜の残り)、クロメ(海藻)の味噌汁、白いご飯、カレー。
明日の夜は打ち合わせで留守をするので、カレーも作った。
干物を食べ終わったころ、ご飯にカレーをかけて食べる。

●2008年1月8日(火)晴れ

昨夜は、いろいろ考えてしまい、頭の中がグルグルしてなかなか眠れなかった。
っていうか、寝過ぎだよ!。
それでけっきょく、今朝も12時に起きた。
あちこち掃除をし、雑巾がけ。
買い物に行き、帰ってから図書館にも行った。
明日の打ち合わせで使う原稿をコピーしに行ったのだけど、平日の夕方の図書館のことを、私はとても好きだったことを思い出した。
このところ、自分で本を作ってばかりいて、この喜びのことを忘れていた。
少し湿気を帯びた紙の匂いや、何度も来ているのにいつも違う本が目に飛び込んでくる感じとか。
「いつまででも、いたいだけいればいいよ」と、本たちに言われているような、自由で温かなこの感じ。
7冊借りてきた。
サン=テグジュペリの『人間の土地』もある。
夜ごはんは、チキンソテー(菜の花炒め添え)、牡蛎酢、温奴、ほうれん草のおひたし、海苔のつくだ煮、たくわん、玄米。
ずっと書くのを忘れていたが、ナツコのおばあちゃんのたくわんが、とてもおいしい。
黄色くて、甘すぎなくて、適度な塩辛さでコリコリしている。
スイセイは、こういう昔ながらのたくわんが、ずっと食べたかったらしい。

●2008年1月7日(月)曇り一時雨

また寝坊。
カーテンの向こうが薄暗いし、寒い。
スイセイはとっくに起きている。
最近私は、どうしてこんなに眠たいのだろう。
毎晩1時半には布団に入って、目をつぶればすぐに眠れるし、まれにみる熟睡だし。
朝、目が覚めても、眠りの世界の方に自分の9・8割が浸かっている。
こんな調子のまま、とろとろと飽きるまで寝ていたい。
何もせずに、どろどろの怠け沼にもぐりたい。
などと思いながら寝ている。
川原さんは前に、自分がどれだけ眠れるか実験をしたことがあるそうだ。
ごはんも食べずに、落ち込んだようになって眠る。
くる日もくる日も。
そういうのを私もやってみたい。
でも、起きる。
どうにか、1時前には沼からはい上がった。
今年は、正月の真っ最中のだらだらが足りなかったのだろうか。
2日にはもう、ちょこちょこと動き始めたのがいけなかったのか。
まあ、もう少ししたらいやでも本格的に動き出さなければならないのだから、甘えられるのは今のうちだ。
もしかしたら、自分は、仕事がなければいつまででもだらついていられるのかもしれないと思う。
どこへも出掛けずに、誰とも会わずに、寝てばかり。
自分で思っているより、さらに内向的な気もする。
というわけで、少しずつ動き出す。
『きょうの料理』のテレビのシナリオを読み、必要な材料を書き出したり、時間割りをシミュレーションしたり。
川原さんにもらった打ち豆をもどして、ごま油で炒め、塩炒りにしてみた。
鏡もちは揚げ餅にしようと思って、砕いてザルの上に。
半端な玄米餅も、追加で干す。
玄関のお飾りも片づけた。
夜ごはんは、白滝と牛こまの炒り煮、菜の花のおひたし、トマト、大根おろしの塩炒り豆のせ、牡蛎ご飯(土鍋で)、かき玉汁。
白滝の炒り煮と牡蛎ご飯を作りながら、分量をメモする。
これぞ料理家の仕事始め。

●2008年1月6日(日)晴れ

今日もまた寝坊。
12時を過ぎて、やっと起き出した。
目は覚めているのだけど、怠けたい気分からなかなか抜け出せない。
どちらかというと、抜け出したくない。
コーヒーをいれて、ゲラの校正を1本と、次回の本のためのアイデア出し。
そんなこんなしている間に、3時半となる。
まだ明るいうちに、スイセイと走りに行く。
中央公園を1周していたら、フワ〜〜ッと甘い香りが漂ってきた。
臘梅の黄色い花が咲いている。
おじいさんも立ち止まって、匂いをかいでいた。
帰りに、ひさびさの買い物。
夜ごはんは、チキンソテー(焼きトマト、菜の花添え)、メンチカツ(スーパーの、千切りレタス添え)、大根の辛し醤油和え、三つ葉の味噌汁、土鍋の白いご飯。

●2008年1月5日(土)曇りのち晴れ

朝方、カーテンの向こうが薄暗かった。
こういう日は、本でも読みながら、ずーっと寝ていなあ。
とも思ったが、起きる。
午後には晴れてきた。
正月明けの、のっぺりした日々。
エンジンがかかるまで、とろとろしている。
毎年、そうだったような。
夕方、陽が落ちる前、ベランダに出て外の空気を味わっているちに、走りたくなった。
着替えていたら、スイセイも同じ気分らしく、ふたりで出掛けることに。
初走りです。
思ったほど寒くはなく、無理をせずに走ったり、歩いたり。
中央公園の水がおいしくて、ゴクゴクと飲んだ。
帰り道で、「オレじゃなくての、体が喜んどる」とスイセイ。
私も、体の中の明るいものが動き出したような、そんな感じになる。
夜ごはんは、ゆで餃子(ご飯を炊かなくていいように、大根もいっしょに茹でてみた)、百合根と小松菜のオリーブオイル炒め(にんにく、ハム)、白菜と干し海老のくたくたスープ煮、数の子。

●2008年1月4日(金)晴れ

11時に起きた。
昨日の続きで、今年やろうとしている仕事の資料をまとめ、それぞれ箱に入れる。
それからは、畳の部屋でおこんじきさん。
アイデアを書きとめたり、中国での仕事の準備をまとめたり。
陽の当たるポカポカ部屋でやる。
このところ連続して、暗くなる直前のオレンジと蒼色の空がすばらしい。
でも、今日こそは走りに行こうと思いながら、なかなか出掛けられない。
買い物にも行ってないなあ。
夜ごはんは、塩豚のソテー(マッシュポテト&オレキエッテとゆでキャベツのクリームソース添え)、サラダ(サニーレタス、クレソン)。
すっかり芽が出たじゃが芋でマッシュポテトを作った。
メイクインだったんだけど、皮にうっすら皴がよるくらいのひねた芋だ。
丸ごとを1時間半くらい小さい弱火でゆでて、ゆでたてに塩をつけて食べたら、ねっとりと甘くて、驚くほどおいしかった。
マッシュポテトにしたら、文句なしのおいしさ。
アムたちから北海道のおいしいじゃが芋が届いたから、そっちばかりを先に食べ、2〜3ヶ月くらい放っておいたじゃが芋だ。
すごいもんだなあ。
芽が出ているところをポキッと折るだけで、それ以上ほじったりしない。
芋の皮自体には穴が空かないようにして茹でるのがコツです。
芽の残りは、茹でてから竹串でチョンチョンと取りのぞけば大丈夫。
前に『じゃがいも料理』の本を作っていた時、「1年を越したようなひねた芋で作った肉じゃががいちばんうまい」と、農園のおじさんが言っていたのはこのことなのだ。

●2008年1月3日(木)快晴

1時まで寝てしまった。
今年もまた、寝正月だなあ。
お餅にもそろそろ飽きてきたので、玄米を炊いた。
朝ごはんの支度をしながら、ふと『野ブタ』のワンシーンがよみがえり、涙がにじむ。
もう少ししたら、また最初から見よう。
さーて、そろそろ動き出すとしよう。
まずは、去年の書類を整理して、新しい仕事の書類をそろえるのが仕事始めです。
夜ごはんは、ちらし寿司(おせちの残りのずわい蟹、いくら、薄焼き卵、青じそ、海苔、白ごま)、小松菜のおひたし、サラダ(サニーレタス、ホワイトアスパラ、ハム)。

●2008年1月2日(水)快晴

朝起きたらファックスが届いていた。
風呂に浸かって目を醒まし、原稿の直しをやる。
むりやり仕事の頭に戻したけど、もうすでに正月も飽きているような気分。
あちこち掃除をして、日記を書いていたら、ピンポンが鳴ってナツコが来た。
川崎大師のくず餅と、ばあちゃんが漬けた黄色いたくわんを持ってきてくれた。
お茶を飲みながら、塩豚やら蕪の煮物やら、リーダーと食べる用の食料をお土産に用意していたら、またピンポンが鳴って、こんどはリーダーが来た。
4人でお茶を飲みながら、するめや干しししゃもを焼いたり、リーダーのお土産の豆餅を焼いたりしているうちに話ははずみ、スイセイが焼酎を飲み始める。
女たちは延々お茶を飲みながら、私はなんだかんだとつまみを出し始め、流れるままにご近所さん新年会となる。
スイセイはまだ飲み足りなさそうだったけど、10時にお開き。
夜ごはんはなし。
風呂に入って、スイセイの夜食に蕎麦をゆでてやる。
ワサビがなかったので、りうが持ってきてくれた(三つ股になった変な形の)大根のしっぽをおろしてみた。
これがなかなか辛く、おろし蕎麦にしたらバッチリで、スイセイは大満足。

●2008年1月1日(火)晴れ

12時に起きて風呂に浸かり、元旦の朝ごはん。
お雑煮(大根、白菜、ほうれん草、柚子)、玄米餅の磯部焼き、満月卵、数の子、黒豆、スモークサーモン&いくら、煮しめ、ハムとホワイトアスパラのサラダ(クレソン、サニーレタス、からしマヨネーズ)。
日本酒をおちょこで1杯だけ飲んだのがきいたのか、またしても私は眠くなってしまう。
りうは、ごはんを食べ終わったら洗い物をして、あっさりと帰っていった。
ちょっと淋しいが、これが家族というものかも。
仕事も、友だちも、恋人も、居心地のいいものたちに囲まれた場所を、りうはちゃんと自分でみつけたんだろうな。
もう30歳になるのだから当たり前だけど、りうは去年よりも大人になったような気がする。
そんなりうを見ていると、知らない間に自分たちが歳をとったような気にもなる。
りうが帰って、私とスイセイは老夫婦のように昼寝。
夕方、ごそごそと起き出して『マイライフ・アズアドッグ』を見て泣く。
夜ごはんは、ずわい蟹、お雑煮、磯部巻き、蕪の葉のおひたし。
また布団にもどり、『野ブタ。をプロデュース』のDVDを、ふたりで見る。
第二話まで見ていたので、三話から連続で見た。
やっぱり、すごくおもしろい。
なんで私は、テレビでやっている時に見なかったのだろう。
何度も涙が出る。
トイレに行ったついでに鏡を見ると、目は腫れ上がり、お化けのよう。
最終回の十話まで見て、ふたりで3時に寝る。



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